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山下勝弘
YAMASHITA MASAHIRO

山下勝弘

山下会計事務所 所長

中小企業の経営者に「理念経営」の重要性を説き、「100年企業」となるためのサポートをする
会計事務所は企業および個人の会計業務や税務申告などを代行するのがおもな仕事だが、近年、その専門知識を生かして、会社の数値にこだわった経営コンサルティングを行う事業者が増えている。だが山下会計事務所は、そういった事業者とは一線を画すという。顧客企業が「100年企業」となれるようサポートし、経営者の意識改革に少しでも寄与することを願う、その熱い思いに迫る。
山下勝弘
経営者の心に届くアドバイスをするために

大阪市天王寺区にある山下会計事務所は、1961年の開業以来、60年近くにわたり地元企業の発展に貢献している。
「もともと父が33歳のときに創業した事務所ですが、私が中学生の頃にはすでに後を継ぐことを意識していました。父は税理士でしたが、私はより利点のある公認会計士を目指すことを決意。大学で専攻した経済学を体系的に学んだことが今の私につながっているように思います」と話すのは、2代目所長を務める山下勝弘氏だ。

いずれ父の事業を継承することを前提に、大学卒業後は公認会計士の資格取得を目指し、監査法人に就職した。そこである上場会社と親密な関係ができ、監査法人退職直後にその子会社同士を合併させるという案件に携わり、会社というものが本質的にどういうものであるかを知ったという。
「通常、会社同士の合併は黒字会社が赤字会社を吸収するのが一般的なのですが、その案件は、赤字会社が主体となって黒字会社を吸収合併し、繰越欠損金を引き継ぐというものでした。いわゆる『逆さ合併』です。現在では適格合併という手法があるのですが、当時はそれがなかったので、税務署がすぐに繰越欠損金の引き継ぎを否認するための調査にやってきました。しかしその会社からは、赤字会社であっても、そこで働く従業員たちの地位を確保したいという強い思いを感じたので、逆さ合併がどうしても必要であったことを説明する100ページにも及ぶ文書を作って審査が通ったのです。この経験で、会社の経営で大切なことは、数字だけではなく、従業員を思う、思いやりの心だと知りました」

数字だけではわからない企業の価値をどう伝えるか──。山下氏にその答えのヒントを与えた人物が、弁護士の田原睦夫氏だ。
「大手銀行のM&Aをお手伝いさせていただいたときに、一緒に働かせていただいたのが田原先生でした。年齢は私よりもひと回りくらい上なのですが、ベテランになっても活躍し続け、62歳で最高裁判所の判事になられた方です。弁護士でありながら税のこともきちんと理解されており、その知識を活用し、打ち立てた戦略に沿ってM&Aや企業再生を進めていく先生の姿から、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。企業を100年企業に育て上げるためのコンサルティングで経営者の方々にアドバイスをする機会が増えた今、非常に重要なスキルであると感じています」

山下勝弘
理念となる「義」を追求する

インターネットの発達で情報共有のスピードが早くなった現代社会においては、提供するサービスが話題となり、売上や株価が急上昇する企業がある。山下氏はそうした企業について懸念を抱いている。
「メディアに商品やサービスが取り上げられて急激に業績を伸ばした会社は、下降するときのスピードも速いように感じています。では何が企業を成功させるのか。それは『従業員の幸せを思いやる気持ちが経営者にあるかどうか』。その気持ちが経営理念とリンクしているかということです」

山下氏はコンサルティングでも理念経営の重要性を力説している。そのきっかけは、ある上場会社の会長の話を聞き、その大切さに気付かされたことだ。
「その方は、もともと理念もなく、儲けることを目指して25歳で会社を創業したそうです。創業間もないころ、ある有名企業から優秀な人材を引き抜き、副社長として迎えた際に、『儲けることだけを考え、経営理念のない会社なんかはダメだ』と強い口調で糾弾されたそうです。そこで考え抜いて経営理念を立てたところ、創業からわずか8年で上場を果たし、今では世界規模で活躍する大きな会社に成長しています。その成功ストーリーを聞いたとき、会社というのは『生き物』であり、そこに社会性や独自性を含んだ理念を浸透させることで、その結果として利益が生まれるのだということを実感したのです」

しかし、成功への道をなかなか見出せずにいる経営者に対し、事例を挙げて『経営理念を立てましょう』とアドバイスをしても、ちゃんとした経営理念を作れる経営者は少なく、その重要性を伝えるのは容易ではないという。
「とにかく根気強く伝えていくしかない。そのためには、私も学びを増やし、見聞きした理論やストーリーを例に挙げて、より具体的に伝えていくことが必要だと考えています」

山下氏がアドバイスをするときにいつも引用しているのが、幕末に「再建の神様」と呼ばれた山田方谷(ほうこく)の理財論だ。
「山田方谷は備中松山藩(現在の岡山県高梁市)の元締役兼吟味役(現在でいえば財務大臣)として、債務超過であった藩の財政をわずか8年という極めて短い期間で立て直した人物です。目の前の直接的な問題解決に明け暮れるのではなく、もっと俯瞰で物事を見つめ、理念から正していくことの大切さを説いています。
よく経営者の方がおっしゃるのは『私たちは〇〇を目指します、これがわが社の理念です』ということ。これでは達成後の姿ではなく目指している姿自体がゴールになってしまい、経営理念にはなりえないのです。『私たちは〇〇をする会社です』ときちんと明言して、はじめて理念が従業員に伝わり、それが実現していくのです」

関わるすべての会社が、『100年企業』となることを目標とする山下氏。実務のほかにも、山下氏自身が講師をしたり、専門家を招いたりしてセミナーや研修会を開くなど、さまざまな手法を用いながら経営者たちの心を動かし、勇気づけようと日々取り組んでいる。
「今の事業を維持するだけで目の前の経済問題を解決しようとしていてはダメ。そこに暮らす人を思い、理念となる『義』を追求しなくてはなりません。継続的にセミナーに参加してくれている皆さんからは『耳にタコができますよ』なんて笑われることもありますが、私はこれからもそのことを伝え続けていきたいと思っています」
企業を思い、日本を思う山下氏の言葉が、経営者一人ひとりの心を動かす。その積み重ねはきっと、日本の未来を変えていくはずだ。

山下勝弘

山下会計事務所 所長
https://cpa-myamashita.tkcnf.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。