AIとloTの融合で『安心・安全・快適』を実現
2005年に起業し、デジタルサイネージ事業によってドーム球場のメインビジョンを手がけるまでに会社を成長させていた渡邊氏だったが、競合の多い業界での事業に不安を覚え、より独自性の高いビジネスを模索する必要を感じていた。
その頃、電車に乗っていた渡邊氏は、自分や周囲の男性がみな両手に何かをもち、胸よりも高い位置でキープしていることに気付いた。
「痴漢冤罪を防ぐ典型的なスタイルですが、これに慣れてしまっていること自体が社会課題のひとつだと思いました。そして、ふと見上げると蛍光灯があり、『これに防犯カメラが付いていればいいのに』とひらめいたのです」
渡邊氏は直ちに特許取得に動き、18年に新規事業会社としてMOYAIを設立。そして製品化したのが、通信機能をもち、既存の直管蛍光管形の照明と取り替えるだけで、工事不要で設置できるLED一体型ネットワークカメラ「IoTube(アイオーチューブ)」だ。
IoTubeは20年に、東京五輪に向けて全車両への防犯カメラ設置に取り組んでいた東急電鉄に採用された。製品の評判はたちまち業界に知れ渡り、他の電鉄各社に対しても導入の話が進んでいった。
「ところが、新型コロナウイルス禍による乗客減の影響で、すべての案件が中断してしまいました。待っていても仕方ないので、次のニーズに備えて性能向上に取り組みました」
そして、22年に登場した第2世代のIoTubeは、前年に車内放火事件が相次いで発生したこともあり、発表するや否や首都圏の私鉄に続々と採用された。現在までに、8社に対し累計3万台を販売している。
1分ごとに作成される録画データを通信で遠隔から取得できることが主な機能だった第1世代に対し、第2世代はリアルタイムストリーミングと双方向通話が可能なだけでなく、エッジAIに加え、GPSやビーコン、温湿度、煙感知、CO2、サーモセンサー、3D加速度の各センサーを搭載。車内状況のさまざまなデータをAIが解析し、異常事態を検知すると自動的に指令所に通報する。
「単なるデバイスからloTセンシングデバイスに進化し、AIとloTの融合で『安心・安全・快適』を実現できるものになりました。いずれは防犯カメラの域を超え、スマートシティに必要不可欠なインフラになると考えています」