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D&Iは義務だからではなく、
ビジネス的な利益のために必要
「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion/D&I)」は、直訳すると、“多様な価値観を積極的に受け入れる”という意味になるが、日本ではまだ十分に浸透しているとは言えない。そこでD&Iの実現に取り組む企業や団体に対し、彼らの現状を踏まえたうえで、必要なマネージメントの在り方や風土の醸成方法などについてのコンサルティングを行っているのが、株式会社カレイディスト。代表取締役社長の塚原月子氏は、2019年のG20大阪首脳宣言に基づき発足した「EMPOWER(女性の経済的代表性のエンパワーメント及び向上)」の日本代表のひとりでもある。
「女性取締役の登用や障がい者の雇用など、コンプライアンスの観点からやらないといけないと考えている方も多いですが、D&Iへの取り組みは、守りのためではなく、攻めのために必要なのです」と語る塚原氏。氏は大学卒業後、運輸省(現・国土交通省)に入省したが、人事制度の一環として27歳のときに米国にMBA留学する機会を得たことで人生の大きな転機を迎えた。さまざまなバックグラウンドをもつ学生との交流で刺激を受けた氏は、「自分のキャリアをもっと自律的に創り上げたい」という想いを強め、経営コンサルティングファームのボストンコンサルティンググループに転職。以来、顧客に寄り添い、役に立つことに大きな充実感と達成感を見出してきた。
「始まりは官庁でしたが、今は完全にビジネス側の人間。ですからD&Iも組織としてビジネス上の利益がなければ続けていく意味がないと考えています」
そもそもD&Iは、女性や外国人といった目に見えやすい特徴をもった人材の雇用・登用に限ったものではない。目に見えやすい、見えづらいに関わらず、また組織内でこれまで活かされていなかった集団も含め、あらゆる人材が対象となる。「この“ダイバーシティ”に関する部分は理解されてきてはいますが、“インクルージョン”についてはまだまだですね。お互いに我慢しあって仲よくする、といったイメージをもっている方も多いですが、インクルージョンにはときにはぶつかりあう過程も必要です」。そのうえで多様な個性を持つ個人が互いの個性を認め合い、潜在力を発揮して組織と共に成長できる状態。それがD&Iのあるべき姿だ。
自分と組織の成長のために
新たにどんな触媒が必要か考えてほしい
バブル崩壊後、“失われた20年”と表される日本経済の停滞。しかし教育水準やモラルなどを踏まえると、まだ日本には極めて高い潜在力があり、もっと化けてもいいと語る塚原氏。しかし、今後の世界を生き残っていくには、これまでのようにただ質のよいモノを作り続けていればよいという時代は終わった。
「今後、単純な工程についてAIへの置き換えが進んでいくと、創造性のあるものに人が関わることの付加価値を見出していかなければなりません。その際、これまでの単一的な発想ではどうしても革新的な価値を生み出すことができない。日本の組織が生き残りをかけて進化していくうえでは、多様な力がぶつかり合い、高次元に統合されることから生まれるイノベーションが重要な切り札になると思います」
もちろん、ただ人材を多様化すればそれが可能になるというものでもない。うまく交ぜなければならないし、制度面での改革も必要だ。
「D&Iを前提にすると、人によっていろいろな能力の発揮の仕方があってよいということになるわけです。今、日本の企業が苦労しているのは、年功序列をはじめ、D&Iを前提としていない制度を前提としてきたため、多様な人を活躍させようと思ったときの土台、評価の基盤がない点です」
たとえば「若いけれど優秀な人を抜擢しよう」としても、“優秀”の定義が曖昧な企業も多い。また中途採用でキャリアのある人を入れても、いざ職場に入ると「それはうちのやり方ではない」と拒絶して、せっかくの能力を潰してしまうケースもありがちだ。
「その点については、日本でも多くの企業が気づき始めてはいて、いわゆるジョブ型雇用を取り入れるところも増えています。これまで日本のビジネス環境を支えてきたいろいろなもののうち、どうしても変えなければならない部分は変えようという動きにはなってきていると思います」
根幹に関わるところなので時間はかかるが、まずは各職務がどんな能力をもつ人が何をするポジションなのかといったジョブディスクリプション(職務記述書)をつくることからでも変えていけると塚原氏は語る。
他にはないユニークな付加価値を生み出そうとしている組織とビジョンを共有しながら、D&Iを通じて成長を実現してもらうことにやりがいを感じていると言う塚原氏。「一人の努力には限界があります。将来の成功のため、自分はどう変われるか。そのために新たにどんな触媒が必要かということを皆さん本気で考えてほしい。それが日本のビジネスの競争力につながると信じています」