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時田秀幸
TOKITA HIDEYUKI

時田秀幸

株式会社ウィルモ 代表取締役

若者が成長できる機会がどんどん減っている今、
「させてもらっている」ことに気付けるかが大切。
2018年に働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律が成立。翌年より順次導入された働き方改革において、さまざまな課題のうちのひとつが労働時間の是正だった。しかし、株式会社ウィルモの代表取締役社長である時田秀幸氏は、杓子定規な残業時間の制限に異を唱える。「このままでは一流の技術者は育ちにくい」と若者の未来を危惧する。
時田秀幸
画像はイメージです。
寝る間も惜しんで取り組むのが仕事だった。

大阪に本社を構え、現在は東京と名古屋に支社を出しているウィルモ。2006年に時田氏がそれまで勤めていたシステム会社から独立し、新たに設立した会社だ。ITやシステムのコンサルティングに始まり、システムの開発・構築・保守、ソフトウェアの開発、システムエンジニアをはじめとした人材のアウトソーシングまで、システムに関するさまざまな業務を行っている。

「前職では本部長まで昇進し、次は取締役になるしかない状況でした。だったら一から自分で会社を立ち上げて挑戦しようと思ったのです。取引先も何もない状態からのスタート。エンドユーザーから直接仕事を受注すると、現金が入ってくるのは9カ月後になってしまうので、営業先は入金するまでの期間が短いベンダーに絞りました。何百社ものベンダーを調べ上げ、片っ端から電話をかけても最初はアポイントさえ取れない。何とかアポイントを取れて訪問できても実績がないため、仕事に対する想いだけを話して帰るような営業を続けていました」

時田氏がIT業界に飛び込んだのは21歳のとき。当時、ITやコンピュータの業界はこれからどんどん発展する可能性があり、自身に苦手意識があったからこそ挑戦するつもりで門をたたいた。時代は昭和から平成に変わった頃で、昭和の経済を支えたバブルはまだ弾けていなかった。プログラムの作成を任されたが、やってもやっても仕事が終わらず、週に何日も会社に泊まるような日々。連絡手段は電話とファックスで、仕事に必要な情報を調べる方法は本しかなかった時代だった。

「今はインターネットで何でも調べることができ、検索方法がうまくなるとピンポイントで効率よく知識が手に入る。でも、本は調べているうちに他のことにも興味が広がり、さらに調べようという気になるので、今の人たちとは知識の深さや幅というものが全然違うように感じます。昔、経理関係のシステムの仕事をしたときは、経営や簿記の知識がないとシステムの設計ができないので、定時後に商工会議所で行われていた講習を受講。夜の9時に講習が終わると会社に戻り、仕事の続きをしていたものです」

その後、汎用系コンピュータやオフィスコンピュータからパソコンが主流の時代になると、システム開発は汎用系からオープン系へ変わりC言語やJavaをはじめとしたさまざまな言語が登場。さらにウェブ系の時代になると、今度はHTMLやCSSといった言語が出てきた。時田氏は時代が移り変わる度にすべての言語をマスターし、プログラムや見積もりの立て方などを一から勉強し直した。

「前の会社では、どんな仕事をするにしても新しいことはさせてほしいと言ってきました。そのうえでさせてもらっていたので、その仕事で失敗するわけにはいかない。だから必死に取り組むのが仕事でした。そうしてプログラムや設計について、寝る間も惜しんで一生懸命勉強してきたからこそ今がある。ただ、昨今の風潮は『させてもらっている』よりも『やらされている』と感じるのが主流。だからプログラムを組むまではできるが、それ以上のこと、例えばお客様との折衝交渉とか、部下の人間を上手く動かすことなど、マネジメント能力が低いのではないかと思っています」

時田秀幸
一流の技術者になるには何十年もの時間が必要。

働き方改革が導入され、最近では「ゆるブラック企業」と呼ばれる会社の存在が知られるようになってきた。残業や休日出勤は一切なく、有給休暇も取りやすく離職率は低い。一見するとホワイト企業のように見えるが、挑戦する機会がなく、自分を成長させてくれない会社のことを「ゆるブラック企業」という。一般的には若いうちにできるだけ厳しい仕事を経験して、それを乗り越えることで成長していくことが大事だとされている。それに対して、社員の成長を阻害する要素の多い労働環境はブラックというわけだ。

「技術職は経験がすべて。あえて長時間労働を勧めるつもりはありませんが、定時退社を10年間続けた場合と、新しいことや難しいことに挑戦したために時間がかかってしまい、残業ありの10年間を続けた場合では、比べものにならない差がついているはずです。プログラマーは、メインプログラマーになりSEへステップアップし、さらにマネジメントや折衝交渉、営業ができるなど、キャリアを構築していかなければなりません。そのためには何十年という時間が必要で、一流の技術者を育てるには難しい世の中になってきたと実感しています」

だからこそウィルモは教育体制を強みにしている。最終的には部下を管理・指導したり、プロジェクトを運営したりするマネジメントができる人材の育成を目指し、キャリアパスを提示。ステップアップするための職務内容とおおよその年収額を明確にし、身につけなければいけない能力や経験を分かりやすく伝える。しかし、そのように教育に力を入れても「自分の将来のために叱ってくれている」と思える人間と、「そんな仕事までやらそうとしているのか」と思う人間に分かれるのだという。

「ほかの先進国より労働者の所得が低く、これからますます厳しくなっていく日本の社会を生き抜くために、何をしなければいけないのか。どの業界でも、成長のために努力できない人間は、おそらく給与が減っていくと思います。最終的に給与というのは能力に見合った分しかもらえないものです。世の中はうまくできていて、転職しようとも結局は落ち着く先で得られる給与が自分の能力。逆に努力をすればその分、未来の自分に返ってくるということ。努力は累積されていくものです。30年後、逆転することを信じて、日々どれだけ努力するかが大切です。また、納期のある仕事なので、間に合いそうになく追い込まれたときに試行錯誤することで初めて能力が伸びて本当のキャリアがついていきます。現在は納期を延ばすか人を増やすことで対応している。それでは個人のスキルは伸びません。責任感をもち、一つ一つの仕事に向き合うことが最も大切です」

時田秀幸

株式会社ウィルモ 代表取締役
http://www.willmo.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。