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戸川一秋
TOGAWA KAZUAKI

戸川一秋

ひかり物流株式会社 代表取締役

パートナーシップの精神で物流業界を変える
ECサイトの増加によって仕事量が増えているにも関わらず、人手不足が問題となっている運送業界。現役の経営コンサルタントながら2021年にひかり物流株式会社代表取締役に就任した戸川一秋氏に、業界が抱える問題点や、業界の変革に向けて行っている取り組みについて伺った。
戸川一秋
コンサルティングを機に変革の必要性を実感

ひかり物流株式会社は、関西一円で、2〜4トンの小型および中型車両による配送を展開する運送会社だ。スーパーやECサイトの荷物を中心に、主に各物流センター間のルート配送を手がける地域密着型の運送会社だが、ときにはクライアントからの要望で中遠距離の配送業務を請け負うこともある。
「大切にしているのは“パートナーシップ”の精神です。運送業界は他の業界の商習慣が通用しない異質な環境下にありますが、当社に関わる企業すべてにメリットを与えられるような商取引環境をつくることを大切にして日々奮闘しています」と語る、代表取締役の戸川一秋氏。2021年9月に就任した戸川氏の非常にユニークな点は、特定社会保険労務士および行政書士として50社程度の中小企業の顧問をしている現役の経営コンサルタントでもあるということ。

コンサル業で培った経営ノウハウや商交渉術、人脈を駆使して業界へ切り込んでいける点が大きな強みだ。そもそもひかり物流株式会社は、元々は戸川氏にとってクライアントのひとつだった。しかしコンサルティングを行ううちに業界の異常性を体感し、それを変えるには自ら業界の一員となって深く関わることが必要だと考えたと言う。
「初めのうちは軽い感覚で元請けとの運賃交渉などを手伝っていたのですが、『へんな、おもろい業界やな』という印象を抱きましたね。しかし業界の闇の部分を知るにつれて、このままではいけないと思うようになりました。当時の代表取締役で、今副社長をしていただいている三佐川恵美子さんはとても真面目に仕事に取り組んでおられるのに、それが報われないのはおかしいと強く思いました。現役の士業コンサルタントとしての知見も十二分に発揮することができるフィールドと感じたので、代表取締役就任の依頼を受けて思い切って飛び込みました」

物流業界は、荷主が元請企業へ発注すると、元請企業から下請企業、孫請企業、さらには曾孫請企業へと業務が委託されていく多重構造となっている。元請を担えるような大企業は全体のわずか1%で、8割近くを車両数20台に満たない中小企業が占めている。
「そうした企業は、運賃そのものだけではなく、本来別途請求できるはずの高速道路代などの費用を運賃と込みにされてしまうなど、直接、間接的に買いたたかれています。いわゆる下請けいじめが横行している業界なんですよ」

戸川一秋
情報交換や連帯を目的とするサロンを開設

異常事態を招いている要因のひとつは、深刻な人手不足。しかし中小零細規模の運送会社は適正運賃を収受できない環境下にあるため、資金不足で求人を満足に行えない。
「昔はトラックドライバーといえば稼げる仕事というイメージがありましたが、今は仕事がきついうえに稼げない。環境悪化がさらに若者離れを招くという負のスパイラルに陥っています」
またコロナ禍で通販の需要が大きく高まったが、忙しいだけで儲かっているという実感はないと言う。
「潤っているのは元請けだけで、利益が下まで降りてこないのです。トラックの運賃はタクシーやバスなど他の業界のような許可制ではなく、届出制となっています。ここにも適正運賃の収受ができていない原因があります。管轄の国交省は適正運賃を提示したのですが、罰則がないので守られていない状況です」

その一方で、働き方改革関連法によって、23年4月からは1カ月60時間超の時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払わなければならなくなった。さらに24年4月からは、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される。
「業界では“2024年問題”と呼ばれていますが、これらを起因とするコストアップを荷主企業や元請企業が吸収してくれる法整備を行わないと、これまで以上に劣悪な環境がつくりあげられることになってしまう」
また中小の運送会社の経営側にも問題はあると戸川氏は語る。
「経営の知識がない方が驚くほど多い。我々には適正運賃を請求する権利があります。そして価格交渉を行う際には根拠となる原価を示してこれくらいは必要だと主張する必要がありますが、そういった知識がないので元請けのいいなりになってしまうのです」

そこで戸川氏は各業界誌への執筆活動やSNSにおける情報発信を積極的に行っているが、さらに23年中にはウェブ上に中小零細規模の下請運送会社を守ることに特化した「物流サロン」を開設する予定だ。
「情報弱者と言わざるを得ない中小零細運送会社へさまざまな情報を発信し、啓蒙を行っていきます。
そして同じ思いをもった運送会社とパートナーシップを構築し、業界に影響を与えることができるようにしていきたい。また経営コンサルタントとしてもそうした企業の顧問活動も増やしていき、物流業界をよりホワイトな業界にしたいですね」
既得権益を打破し、一般的な商習慣を実現するための氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。

戸川一秋

ひかり物流株式会社 代表取締役
https://hikabutu.jp
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。