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髙橋義和
TAKAHASHI YOSHIKAZU

髙橋義和

横浜環境保全株式会社 代表取締役

子どもたちの憧れの業界となるために
“ゴミ処理業界”の未来をクリエイトする
普段、私たちが何気なく享受している暮らしに不可欠な行政サービスの一つがゴミ収集だ。日本では1970年に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」が交付され、いまやその大部分の業務が各自治体から民間企業に委託されている。そうした民間企業の一つとして、いま業界で注目を集めているのが横浜環境保全株式会社だ。廃棄物処理業界の未来を見据え、業界に革新を起こす若きリーダーに話を聞いた。
髙橋義和
環境保全事業で地域社会に貢献する

横浜市でし尿の汲み取り業を営んでいたいくつかの会社が集い、1972年に創業した横浜環境保全株式会社は、同年3月に横浜市で初めて一般廃棄物収集許可を取得。現在では約170名のドライバーを含む250名以上の社員を擁し、オフィスや店舗から出る事業系一般廃棄物から産業廃棄物、医療系廃棄物など、同市で出る事業系ゴミのうち約2割の収集を手掛けている。

いわば廃棄物処理業界の老舗大手企業である同社を、2011年から社長として牽引し、揺るぎない経営哲学と、ゴミ収集車の車体を色鮮やかなイラストで彩る“デザインパッカー車”の開発など、従来の常識を覆す柔軟な発想や行動力で、業界に新風を吹かせているのが髙橋義和氏だ。

髙橋氏は高校時代に名門として知られる横浜高校ボクシング部の主将として活躍し、その後はガス配管工事を行う小さな企業に就職。20歳から21歳の1年間は阪神淡路大震災の復興応援隊にも志願し、「始発から終電まで働く毎日のなかで、仕事に対する責任感が培われた」と、大阪や神戸で過ごした当時を振り返る。

父の良一氏が社長を務める横浜環境保全に入社したのは2004年のこと。もともと同社は、髙橋氏の曽祖父が戦後間もない頃に創業した「髙橋清掃」の流れを汲む。入社当時29歳の髙橋氏は3年間の現場でのドライバー修行を経た後、将来的な事業の継承を見据え、父のそばで経営を学ぶべく本社へ異動。しかし、その4年後の2011年夏に良一氏が肺がんで逝去したことで、まだ30代の若さで経営を継ぐことになった。

「当時は業界でもカリスマ的な影響力を持っていた父の死を、どう乗り越えていくか考えるだけで精一杯の毎日でした」
髙橋氏がそう振り返る通り、偉大なる父を失った会社には様々な問題や課題が山積していた。しかし、「我々の会社が潰れてしまうと横浜市にゴミが溢れてしまう。それだけは避けなければならない」と、父親譲りの使命感とガッツで事業を推進。以降は、「未来、そして子供たちのために“環境保全事業”を通して地域社会に最も貢献する」という新たなミッションを創出し、廃棄物処理事業の将来を見据えた革新的な取り組みを進めてきた。

髙橋義和
業界の価値を向上させるための取り組み

そうした取り組みの最たるものが、2014年に誕生したデザインパッカー車だ。車体に描かれるイラストは、社員の家族が描いたものや地域の子どもたちから公募したもの。当初は自治体による色指定のない産業廃棄物用のパッカー車のみで導入したこの取り組みはやがて行政を動かし、昨年の横浜市における一般廃棄物用パッカー車のカラー自由化(一部条件付き)の流れにつながった。

「デザインパッカー車は、地域の皆さんや子どもたちに少しでも笑顔になってもらい、『将来、あんな車に乗って仕事がしたい』と思ってもらうための取り組みです。車体にデザインされる絵を小・中・高校生から公募するなど、子どもたちの世代にアプローチすることで新卒の採用にもつながっています」

他の多くの業界と同様に、清掃業界もここ数年は人材不足が深刻化するが、横浜環境保全では4年連続で新卒のドライバーが誕生。今年もすでに3名に内定を出すなど、同社の取り組みに賛同する若い世代の参入も進んでいる。

「最初のデザインパッカー車は社員が考案したイルカをデザインしたもの。ドライバーが乗りたがらないのではないかという不安もありましたが、今では皆がデザインパッカー車に乗りたがってくれる。イラストを見て笑顔で手を振ってくれる子どもたちにドライバーが手を振り返すなど、地域の皆さんとのコミュニケーションも生まれています」と髙橋氏。

前述したミッションに加え、2020年には「環境を守り、社会に貢献し、私たちを取り巻くすべての人たちの明るい未来を実現する」「社会へ、そして子供たちに誇れる会社にする」「全社員がひとつになり、お客様から信頼され、すべてに感謝し合える企業にする」というビジョンも創出。

「デザインパッカー車の取り組みなどは、すべてこれらのミッションやビジョンを実現するためのもの。さらに現在は、『新しいカタチの優しさを想造して企業価値を高める、一人ひとりの思いを紡ぎ笑顔あふれる企業にする』という2030年ビジョンも掲げています。企業価値を高めるためには、私を含め、すべての社員が人間力や人間性などのレベルを高めていかなければいけません。そこで当社では『横浜環境
保全の考え方』という21項目からなる冊子を全社員に配布し、倫理的・道徳的な価値観の共有や人間教育に繋がる取り組みも行っています」

昨年、東日本が台風を襲った際には、横浜市からの要請にいち早く手を挙げ大量の災害ゴミを処理。市内の飲食店から出る生ゴミを堆肥化して農家に提供、そこで生産された野菜がさらに市内の飲食店へと循環するフードループの取り組みが評価され、今年には横浜市で5社目となる横浜地域貢献企業の「プレミアム企業」にも認定された。
街を走るパッカー車に、「汚い」「臭い」というイメージを持つ人もいるだろう。髙橋氏によれば、今もそうしたパッカー車のドライバーが偏見を持って見られることもあるという。

「だからこそさまざまな取り組みを通じて、パッカー車のドライバーという仕事の価値を高めていきたい。我々が担っているのは環境事業。社会のため、環境のため、地球の健康のために寄与することができる環境事業は、人々の明るい未来を照らす希望になるものだと思っています」

髙橋義和

横浜環境保全株式会社 代表取締役
https://www.y-kankyo.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。