日本における医療機器ECのパイオニア
臨床検査技師免許取得後、某大学病院の研究室に臨床検査技師として勤務した後、某大手製粉会社の系列企業で営業や技術開発の仕事を経験。2006年に独立し、医療機器をインターネットで販売するバイオメディカルネットを設立した高橋氏。
「研究室では、試薬などの消耗品の発注が平日の限られた時間にしかできず、24時間発注できるシステムの必要性を感じていました。一方、その後に務めた会社では、全国の大学病院などに向けた研究用機器の営業を経験するうち、製品がエンドユーザーに届くまでに複数の会社が間に入るといった医療業界の商慣習に違和感を持ちました。そうした経験に加え、私自身の世代的なインターネットへの高い期待値もあり、ネット通販で医療機器を適正な価格でエンドユーザーへと届ける仕組みを作ろうと考えたのです」
今や日本にも数多くの医療機器や医薬品のECが存在し、バイオメディカルネットが運営する『Shop de clinic』は、そのパイオニアとも言える存在だ。とはいえ、当時はインターネット通販こそ大きな成長を見せていたが、日本で医療機器などのネット通販は存在せず、完全に手探りでのスタートだった。高橋氏の当初の目論見は、営業マン時代に知り合った先生方の協力の下、彼らが日常的に使うラボ用品などをメーカーから仕入れて販売するというもの。しかし、当時は大病院の理解を簡単に得ることはできなかった。また、インターネットで製品を売ることに対するメーカー側の抵抗もまだまだ大きかった。そこで方針を変え、ターゲットをクリニックへと転換。なかでも、ラボ用品を頻繁に使用する全国の産婦人科をまわり、“御用聞き”から事業をスタートさせた。
「時間があればクリニックに足を運び、先生たちに『何がネットで安く便利に買えれば購入してくれるのか』を聞き、クリニックの医師や関係者が集う学会や展示会などにも参加して、オープンしたばかりのECサイトの周知に努めました。そんな活動をコツコツと続けているうち、サイトを使ってくださる会員のクリニックが徐々に増え、扱う製品もラボ用品だけでなく、聴診器や血圧計などの幅広い医療機器へと拡充していきました」
転機となったのは、いつしか増えていた、思いも寄らぬ方たちからの注文だった。
「注文履歴を見ていると、一般の方が会員登録をして製品を注文してくれていたんです。不思議に思ったのでそうしたお客様に連絡を取り、なぜ当社のサービスを使ってくれたのかを聞きました。すると、多くは自宅でご家族を看護する方たちで、ドラッグストアなどで気軽に購入できない製品が、当社のサイトで簡単に安価で購入できることに大変感謝してくださっていました。そこから在宅医療についての認識を深め、高齢化が進む日本では国策とも言える在宅医療を、メディカル領域のECで支えることこそ、私たちのやるべきことだと考えるようになったのです」