検査を受けたくなるような仕組みづくり
消化器専門医として、以前から特に気にかけていたのが、内視鏡検査の受診率の低さ。大腸がんは早期発見すれば90%以上の人が助かるが、日本では大腸内視鏡検査の受診率は約40%にとどまっている。
「受診率が低いのは、『待たされそう』『つらそう』といったイメージが強いため。そこで検査を受けたくなるような仕組みをつくり、ハードルを低くしたいと考えました」
こうした思いから、2024年4月、千葉県柏駅前に新たに開設したのが、千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡・日帰り手術クリニック 健診プラザだ。
このクリニックでは、来院から検査終了までのシームレスな導線設計に加え、半個室やリカバリー室など患者に寄り添った設備も完備。ポリープなどの疾患が見つかった場合には日帰り手術にも対応することで、胃や大腸の内視鏡検査や治療を、短時間かつ少ない負担で受けられる環境を整えている。
また健診プラザでは、年齢・性別などに応じた豊富な健康診断や人間ドックのメニューを用意し、「受けるだけの健診」ではなく、「未来の健康をデザインする健診」を提供する。
「従来の健康診断は、結果の伝わりにくさが課題でした。数値が少し悪いだけなら『また来年でいいか』となってしまいます。検査結果を受けて行動を変えてもらうためには、未来のリスクを具体的に示す必要があると思いました」
そこで、開発にも協力した健康記録アプリ「ALTURA LIFE LOG」を導入し、診断結果を分かりやすく解説するとともに、「今の生活を続けると5年後に○○リスクが○%増加」といった未来予測を提示するようにした。
鈴木氏が新クリニックの立地を駅前にしたのは、より多くの人に気軽に利用してもらいたいという思いからだ。
「フィットネスクラブに例えるならチョコザップのように、会社や学校帰りに『ちょっと検査していこうかな』と立ち寄れる身近な存在にしたい。こういう場が増えることで、日本国民全体が健康リテラシーを高めていけるといいですね」
データとテクノロジーを活用し、医療業界を変えたい
鈴木氏の挑戦はこれだけにとどまらない。消化器専門病院、内視鏡クリニック、健診クリニックに加え、これから取り組もうとしているのは、「認知症の管理と予防」だ。超高齢社会に突入した日本では、2025年には認知症患者数が約700万人に達し、65歳以上の約5人に1人が認知症になると推定されている。
「認知症の早期発見や進行抑制の取り組みを強化しなければ、今後の社会に大きな影響を及ぼします。ですから、医療機関として認知症医療の新しいモデルを構築していきたい」と語る鈴木氏。精神科の医院を経営する親族がいるため、以前から認知症についてよく話を聞いており、関心を抱いていたという。
「現在の認知症診断は、患者や家族が『何かおかしい』と気づいた時点で行われることがほとんどで、そのときにはすでに進行していることが多い。発症する前にリスクを予測し、早期介入すれば、認知機能が改善する可能性が高まります」
認知症の進行を防ぐには、薬だけではなく生活習慣の改善が不可欠だ。逆に言えば、生活習慣病を抱えている人は、将来的に認知症になるリスクが高いということも分かってきている。
「調べるにつれて、私がこれまでに取り組んできたことと親和性があると気づきました。これからは認知症も予防の時代。若いうちから検査を受けて、リスクの高い人は改善に取り組んでいただきたいと思います」
健診プラザでの健診結果に基づく未来予測の中に認知症リスクも加え、対策についての啓蒙活動を行うとともに、将来的には認知症に特化した予防医療ができるクリニックを開設したいという。
さらに、消化器疾患や認知症の分野に限らず、予防医療を推進するためには、医療全体のDX化推進が不可欠だと鈴木氏は語る。
「日本では、電子カルテひとつとっても導入がなかなか進みません。データ活用が進んでおらず、医師の経験に依存しがちです。ビッグデータを基にした、病気の予測やパーソナライズされた健康管理を行える仕組みづくりが必要だと思います」
医療事業者の高齢化、業界の不透明感など、難しい問題はあるが、AIと健診データを組み合わせた予測医療モデルの開発や導入などに積極的に取り組んでいくことによって、医療業界を変えていきたいと意気込む。
「データとテクノロジーを活用して、医療の未来をデザインしたいですね。そして医療を 『治療するもの』から『未来を守るもの』にしていきたい。それが私の挑戦です」