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IT業界の発展を予測しシステム事業部を設立。
諏訪氏率いるサンワソリューションはアクションゲームやパズルなど、スマートフォン用のさまざまなゲームアプリを制作・運営し、2020年にはホラーアクションのVRゲーム「NOXIAM -miserable sinners-」を発売。さらにバーチャルなYouTuberであるVTuberのプロデュースも手掛け、今年はVRゲームの第2弾のリリースを予定している。もちろんキャラクターデザインも自社で行うほか、キャラクターグッズの制作・販売まで展開。興味深いのは、三和ソリューションはゲーム会社ではなくシステム開発会社であることだ。
「ゲームやVTuber関連以外では、例えば空港における飛行機の発着を表示するデジタルサイネージへのコンテンツ配信システムや、自動運転における一部機能のシステムの開発などを担当しています。もともとは電機メーカーや機械を取り扱う会社と取引していた製造業だったため、カーナビゲーションの仕事も受注するようになり、今では自動運転をはじめとした車載系システムの構築も重要な仕事になっています」
実は三和ソリューションの前身は諏訪氏の父が創業した三和精工で、プリンターやエレベーター、自動車といった、さまざまな工業製品に使われる部品を製造する会社だった。諏訪氏は高校卒業後、家業を継ぐために同社に入社。当時はバブルがはじける前で景気はよかったものの、部品の大量生産の仕事は海外の工場に奪われ、製造業の未来は安泰ではなかった。そんなときに感じたのが、これからはIT業界が発展するのではないかという可能性だった。
「当時の求人雑誌には、SEやプログラマーを募集する求人広告が多数掲載されていました。一体どんな仕事なのだろうと思って調べたのが、IT業界に興味をもったきっかけです。そこで一度システム会社に就職し、技術や知識を習得したうえで会社に戻り、社内で事業化しようと思ったのです。3年間という期限を設けて、2つの会社でCADのシステム開発などに従事。常駐先では他のシステム会社のエンジニアとも知り合い、仕事を開拓する営業方法も身につけることができました」
1995年に三和精工に戻った諏訪氏は一人でシステム事業部を立ち上げ、寝る間も惜しまずにシステム開発の仕事に没頭していった。仕事が増えるに従い、志を共にする友人たちを社員として迎え入れ、事業部の規模は徐々に拡大。時代の流れと共に、スタンドアローン型のシステムはクライアントサーバー型のシステムへ変わり、ウェブアプリやECなどが登場したことで、アーキテクチャー(枠組み)も変化していった。そして、事業部の業績が本業の製造部門を上回り、2008年に三和ソリューションへ社名変更。諏訪氏は父に替わって代表取締役社長に就任した。
「経営者として父の背中を見てきたので、よいところは見習い、悪いところは反面教師にしてきました。また自分の足りないところを補ってくれたり、私のことを客観的に見て適切な意見を言ってくれたりする、よき仲間に恵まれたことも大きかった。そして、将来をかけて本気で取り組むときは、自分がリーダーシップを発揮して、主体的に動かなければ前に進まないことも学びました。さまざまな要因が重なって、システム開発会社として独り立ちできたのではないかと思っています」
デジタル経済の中心になるVRの活用を追求。
現在、同社は300名以上の従業員を抱える会社へ成長。多くのエンジニアを採用できたのは、「社員が働きがいを感じられ、働きやすい環境を用意できたからではないか」と振り返る。そのためにも、時代の流れや価値観をいち早く感じ取り、新しいことに対するチャンレジを惜しまないことを大切にしている。
「私自身が新しいものが好きで、IT先進国であるアメリカの情報を常にチェックしています。その中で思ったのは、アメリカのITが進んでいるのは新しいことに対して、とにかくやってみようという精神を大切にしているからだということ。日本の会社は準備するだけで時間がかかってしまい、プロジェクトがなかなか動き出さない。私が何かを始めようと思ったときに、社内の若い人たちに声をかけると興味を示してくれる人が多く、目標を熱く語っているいうちに新しいチームが動き出すということが多いですね」
そんなプロジェクトのうちのひとつがVRゲームを筆頭としたゲーム開発だ。もともと同社がゲームアプリの開発に参入したのは8年ほど前だが、決してエンジニアの働きがいだけを意識したわけではない。ゲームを取り巻くアーキテクチャーは、近い将来に重要になることが多いためだという。
「昔、ゲームはPCでやるものでしたが、今はスマートフォンで楽しむのが主流。こうした流れがビジネスシーンにも影響を与え、スマートフォンアプリでできる業務も増えてきました。今、メタバースという概念が広まりつつある中、弊社がVRゲームをつくっているのも、これからはVR空間がITビジネスの中心になっていくのではないかと思ったからです。同じVRを開発するのだったら、ゲームを開発したほうが楽しいのではないか。さらに日本は、アニメーションや漫画の業界では世界のトップランナーなので、アニメも重要な役割を果たすのではないかと思っています」
現在同社では、VTuberとデジタルサイネージを合わせたバーチャル駅長を鉄道会社に売り込むなど、新しいビジネスがどんどん生まれようとしている。一方で気になるのが、日本は依然としてデジタル後進国であることだ。2021年9月にデジタル庁が発足したものの、全国の自治体ごとに異なるシステムを採用しているため、国全体でさまざまな手続きを電子化するといったことは簡単には実現できないかもしれない。
「今ならVR空間の中に官公庁をつくって、その中で行政手続きを行うといったことはできると思います。他にもVTuberが広報活動を行うなど、自治体のまちおこしにも役立てられるでしょう。これからはリアル経済がデジタル経済へ変わっていくはず。VR空間ではコミュニケーションだけでなく、ものの売買をはじめとしたさまざまな経済活動を行うこともできるようになります。これまでは大手企業でないとできなかったことが、今では我々のような規模の会社でもできるようになりました。デジタル経済へシフトしていく中で、アニメのように世界からナンバーワンと評価されるITプラットフォームをつくるのが目標です」
2023年に行われる「東京ゲームショウ2023」には、新しいVRゲームで出展を予定している。もちろん視野に入れているのはVRだけではない。中長期的にはデジタル化を通じての自治体の活性化やIT人材を育成するための教育にも取り組んでいく。実際にYouTubeではプログラミングやマネジメントの基礎といった、IT業界で働きたい人たちに向けた動画の配信も始めている。こうした活動を地道に積み重ねることによって、ゆくゆくは日本をアメリカに負けないデジタル先進国にすることが諏訪氏の願いだ。