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菅原尚也
SUGAWARA NAOYA

菅原尚也

エス・フィールド株式会社 代表取締役

エンジニアの眼が拓く、
飲食業の新たな地平
苦境に立たされる飲食業において、異分野から転身し、成長を続ける経営者がいる。大手建設会社を経て、42歳で起業したエス・フィールド代表取締役の菅原尚也氏だ。「自分の店をもちたい」ではなく「自分の組織をつくりたい」という動機で業界に飛び込んだ菅原氏が、鉄板焼レストラン「美安」で体現する経営哲学に迫った。
菅原尚也
画像はイメージです。
エンジニアの発想で、飲食の「常識」を覆す

飲食業界は厳しい淘汰の時代を迎えている。2025年の倒産件数は1,002件と、過去30年で初めて1,000件を超えた。コスト高と人手不足が同時に襲いかかる今、約7割が開業から3年以内に廃業するとも言われる。生き残ることは容易ではない。

この逆風の中、首都圏で鉄板焼レストラン「美安(びあん)」を多店舗展開し、着実に成長を重ねているのがエス・フィールド株式会社だ。A5ランクの黒毛和牛や厳選した海鮮を、目の前で焼き上げるライブ形式の鉄板焼。代表取締役の菅原尚也氏が掲げるコンセプトは「ホテルクオリティのハーフプライス」だ。高級ホテルと遜色ない食材を用いながら、価格を大幅に抑えている。


このポジショニングを支えているのは、エンジニア出身ならではの合理的な食材戦略にある。大手建設会社で約20年、建設・環境分野の現場からプロジェクトマネジメントに携わってきた菅原氏は、最新技術の導入に積極的だ。その一つが「活冷」である。活きたまま即座にマイナス30度で凍結させることで、鮮度と食感を生に近い状態に保つことができる技術だ。冷凍すれば、必要な分だけを必要なときに使えるので、廃棄ロスを減らし、コストを抑えることが可能になる。「当初は『冷凍ものなんて』と、職人に何度も言われましたよ。でも、食べればわかる。お刺身でも通用するクオリティですから。異業種から入ってきた分、業界の常識にとらわれないことが、逆にメリットなのかもしれません」


そんな菅原氏の発想は、出店戦略にも発揮されている。最初の出店場所に選んだ川崎は、前職時代に勤務した土地だ。大手メーカーの製造所や研究施設が並ぶビジネス需要の厚さを肌で知る一方、ハイエンドな飲食店が少ないことに着目した。「当時はイメージの良い街ではありませんでしたから、融資の担当者には『こんな単価で客が来ますかね?』と言われました」と菅原氏は笑う。結果、平日は企業の会食、週末は家族の記念日と、客層が平日と週末で分かれ、安定した稼働を実現した。

菅原尚也
一国一城の主ではなく、「フィールド」をつくるために

菅原氏の経歴は、飲食業界では異例そのものだ。工学部で学び、大手建設会社に入社。やがて、自分の特性はエンジニアリングではなく、マネジメントにあると気づく。
「技術に特化した同僚はたくさんいましたが、私はメンバーそれぞれの強みや弱みを調整しながら、全体を目標に向かって押し上げていくのが好きだし、得意でした」
38歳で管理職に就くと、組織を率いることの充実感に目覚めた。取引先である中小企業経営者たちの姿にも刺激を受けた。しかし、配置転換でその手応えを失うと、「このままで本当にいいのか」という問いが頭を離れなくなった。


大きなきっかけとなったのは、友人が先行して手がけていた鉄板焼ブランドだ。飲食未経験の菅原氏にとって、この存在は何よりの後ろ盾となった。単独で飛び込む「一か八か」を避け、友人のもとで知見を蓄えるところから一歩を踏み出す。
「起業に踏み切ったときは42歳です。もちろん、周囲は100%が反対でした」


菅原氏が目指したのは「一国一城の主」ではなかった。最初から多拠点を前提に構想を組んでいた。
「拠点ごとにリーダーを置き、主体的に運営してもらう。彼ら彼女らが壁にぶつかったときに私が仲介する。そういう構造をつくりたかったのです」
起業直後の半年間は赤字に苦しんだが、12月の繁忙期でもち直し、3年で3店舗を実現。2024年にはフランチャイズ契約満了を機に「美安」へリブランディングし、自社ブランドとして再出発した。


菅原氏がデザインしているのは、大手企業が展開する「整った空間」と、個人店の「柔軟なサービス」の融合だ。スタッフが自ら考え、ルール以上のことを実践するような風土づくりに力を注いでいる。
「料理を運ぶだけなら誰にでもできます。わざわざ足を運んでくださったお客様に、何をしたら喜んでいただけるかを考える。それが仕事なのだと伝え続けています」


その成果を象徴するエピソードがある。フレンチシェフとして入社した27歳の若手は、当初は、「5分前行動」に反感を覚えるような青年だった。しかし、厨房より接客に関心を示していたユニークな彼に、菅原氏は店長職を思い切って任せた。すると独学でワインを猛勉強し、顧客への推薦力を磨いていく。やがて休日でも「お客様がいらっしゃるので出勤していいですか」と申し出るほどになった。現在は、売上向上に大きく貢献している。
「ポジションが人をつくる、とよく言いますが、こちらにも任せる勇気が必要なのだと実感しました」


菅原氏は今、さらなる出店に加え、社員の育成ルートとなるカジュアル業態のサブブランド展開を構想中だ。若手が経験を積み、本店に上がる。あるいは本店により上位のポジションを新設する。社内でキャリアアップできる仕組みづくりに挑んでいる。
「飲食業の給与の源泉は売上です。密度の高い時間を提供し、それに見合うプライスをいただく。その原資があって初めて、従業員に還元できる」
ハイプライス戦略の根底にあるのは、飲食業で働く人々の地位を上げたいという信念である。


42歳で独立し、起業16年目を迎える菅原氏は、同世代のビジネスパーソンにこう語りかける。
「積み重ねてきた経験と知識が本当に発揮できるのは40代からだと思っています。臆せず実行していけばいい」
エンジニアの眼と組織人の志を武器に、菅原氏は飲食というフィールドに新たな景色を描き続けている。

菅原尚也

エス・フィールド株式会社 代表取締役
https://es-field.com
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。