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下山久之
SHIMOYAMA HISAYUKI

下山久之

一般社団法人愛知県介護福祉士会 会長

超高齢社会を支える介護人材を育成し、「デジタル活用」で高齢者のQOL向上。
内閣府が発表した令和6年度版高齢社会白書によると、日本の65歳以上人口は3,623万人で、総人口に占める割合は29.1%にも上り、適切な教育・研修を受けた介護福祉職員の育成が急務となっている。外国人労働者の雇用が高まりを見せているが、「頭数を揃える、安い賃金で使うという発想が根底にあるままでは問題の解決にならない」と一般社団法人愛知県介護福祉士会会長の下山久之氏は指摘する。今、本当に求められる社会福祉サービスとは。
下山久之
画像はイメージです。
2040年度、介護福祉職員は57万人不足

2025年以降、国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者という超高齢社会を迎える日本。厚生労働省の推計では、2040年度に必要な介護福祉職員の数は272万人とされる。現状と比べて約57万人の不足が見込まれ、国は職員の待遇改善のほか、外国籍介護人材の登用拡大に努めている。これに対し、一般社団法人愛知県介護福祉士会会長の下山久之氏はある懸念を口にする。

「日本では、ケア労働の大部分を女性がアンペイドイワーク(無報酬労働)で担ってきました。外国籍介護人材の受け入れ拡大も一つの方法ではありますが、ケア=安い賃金で済ませようとする発想が根底にあるままでは、専門的な知識や技術を有した担い手は育ちません」

介護福祉職員は、高齢者の生活歴や生活習慣、文化、思考、どんな最期を迎えたいかという思いを尊重してケアにあたることが求められる。それには適切な教育・研修を受けた人材が不可欠だ。下山氏が会長を務める一般社団法人愛知県介護福祉士会は、国家資格である介護福祉士資格取得者を会員とする職能団体。専門職である介護福祉士に新しい知識や技術を伝達する研修会などを実施するほか、愛知県内の地方公共団体と協働し、地域住民に対する情報提供を行っている。

職能団体は、医療職をはじめとする専門職が他会員との交流や自己研鑽を目的として活動する組織だ。厚生労働省の報告によると、日本医師会への入会率は約60%、日本看護協会では50%であるのに対し、日本介護福祉士会(東京都)ではわずか5%に留まる。下山氏は「介護福祉職の間で、資格取得後も学び続ける風土はまだ整っていない」と指摘する。

「特に認知症患者へのケアは、この20年間で相当に考え方が変わっています。患者さんがより自分らしく生き続ける環境をつくるために、我々も新しい知識や技術を更新し続けなくてはなりせん」
その一つとして下山氏が挙げるのが、デジタルテクノロジーの活用だ。例えば、認知症患者は自分の尿意を認識できなかったり、上手く伝えられなかったりして失禁してしまうことがある。失禁対策として介護福祉現場の多くは定時のオムツ交換を実施しているが、排泄物が皮膚に付着したまま放置すると、炎症や感染症を引き起こすリスクも。患者の健康が損なわれ、不快感から何度もナースコールを押して職員が疲弊、施設の稼働率が低下するといった悪循環を招く。

こうしたトイレ介護をサポートするのが「排泄予測機器」だ。超音波センサーを使用して膀胱内の尿のたまり具合をリアルタイムで計測し、排尿のタイミングを事前に通知。オムツの費用や介護者の負担を軽減する。

下山久之
デジタルテクノロジーの活用が導く「根拠に基づく質の高いケア」

また、ベッドに高性能センサーを敷くことで呼吸の回数や心拍数のデータを蓄積し、死期が近いことがわかるツールもあるという。
「ある施設ではそのデータをもとにご家族に連絡し、面会を果たした翌日に患者さんが亡くなったことがありました。ご家族にとっても、死を受け入れる準備が整ったと思います。人生が終わるその時まで、本人やご家族に極力健やかな気持ちでいてもらうために、今後デジタルテクノロジーの活用は欠かせないでしょう」

患者が亡くなった後、介護者は「自分のケアのせいではないか」と落ち込み、葛藤することが多いという。デジタルテクノロジーを上手く活用すれば、示されたデータをもとに専門職が高度な判断を速やかに下すことが可能になる。「ケアするのはあくまで『人』。デジタルテクノロジーが人の代わりになるわけでなく、介護福祉職員が自信をもって質の良いサービスを追求する助けになってくれるはずです」と下山氏は強調する。

デジタルテクノロジーの活用については、その用途が家族や介護福祉職員の負担軽減のためなのか、利用者のQOL(生活の質)向上のためか、などを共通認識としてもたないと、高齢者の人権やプライバシーが脅かされる可能性も。多くの人が「体が不自由になった後も、住み慣れた場所で自分らしい暮らしを継続したい」という願望をもっているはずだ。その思いに応えるため、下山氏は「2040年までに日本全国の高齢者に同等のサービスを提供できる体制をつくること」を目標に掲げる。

「医療、保健、福祉の専門職の中で、患者さんと一番接する時間が長いのは介護福祉職員です。『きつい』『給料が安い』などネガティブなイメージがつきまといますが、今後の超高齢化社会において中核的な存在を担わなくてはなりません。ただ頭数を揃えるのではなく、良質な教育、研修、適切な賃金を確保しないと、職業としての持続可能性はない。介護保険制度の運営者である都道府県や市区町村への働きかけ、資格保有者への入会促進に努め、だれもが安心して生涯を全うできるサービスの標準化を目指します」

モノの消費から「人」や「体験」に価値が置かれるようになった時代、医療や福祉サービスのあり方も見直される時期に突入している。下山氏は職務に携わる専門職が誇りをもち、高齢者の健やかな人生をサポートできる社会の実現に向け、これからも尽力するつもりだ。

下山久之

一般社団法人愛知県介護福祉士会 会長
https://www.aichi-kaigo.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。