米セブン-イレブン買収時の経験から、流通業にのめり込む
日本を代表するコンビニエンスストアの一つ、ファミリーマートは、1973年の1号店開店から今日まで事業規模の拡大を続け、2016年にはサークルKサンクスと経営統合を果たすなど、新たな成長のステージを迎えている。現在、全国に16,430店舗を展開し、年間での売上は3兆円規模に達する。「これだけの規模だからこそできることがたくさんある。店舗数という『量』の充実を図る戦略を取った過去の経営者たちに敬意を表しつつ、これからは『質』を追求する方向に大きく舵を転換する」と話す、同社代表取締役社長の澤田貴司氏の経歴はとてもユニークだ。
伊藤忠商事時代にアメリカのセブン-イレブン買収プロジェクトに携わり、当時セブン-イレブン・ジャパンの社長だった鈴木敏文氏と出会ったのが大きな転機となった。経営のトップでありながら鈴木氏は自ら現場を回り、そこで働いている人たちに話を聞き、そこで起こっている問題に対して、愚直に丁寧に改善を図っていく。その姿にショックを受けた。
「それまでそんな経営者に触れたことがなかったから、すごく素敵だと思った。そこから流通業にのめり込んでいきました」
お客様やそこで働く人たちを幸せにするような働き方がしたいと思い転職した先が、今やファストファッションの代名詞ともなっている『ユニクロ』を展開するファーストリテイリングだ。
「店長候補として入社したのですが、柳井さん(注:柳井 正 同社代表取締役会長兼社長)と出会って、どんどんいろんなことをやらせてもらって」
1年で副社長に任命され、入社当時は400億円だった同社の年商を5年で4000億円にまで伸ばした。次期社長への就任も打診されたが、澤田氏は独立という道を選択。投資ファンドや企業の経営支援をする会社を立ち上げ、数多くの企業の再建に尽力した。
「流通業を良くしようという思いで、仲間3人で立ち上げた会社で、苦労したかいもあってうまく軌道に乗っていたのですが、創業11年目に伊藤忠から『サークルKとファミマを統合するので(社長を)やってほしい』という話をいただいたのです。これも天命と思ってお受けしました」
こうして澤田氏は、かつて自身が流通業にのめり込むきっかけとなったコンビニ業界に、事業再生のプロフェッショナルとして凱旋した。
『量』から『質』への転換
新生ファミリーマートの社長就任後に澤田氏が手がけた施策の一つが「ダイバーシティ推進室」の設置だ。社長直轄の部署として設置した背景には、ある“危機感”があった。
「当社の女性社員比率は全体の約12%、女性管理職は2%程度と少なく、これは大きな経営課題であると感じています。これまで当社は世の中のニーズに瞬時に対応していくために数々の経営統合を繰り返し、全国各地で事業規模を拡大してきました。そのおかげで業界2位という店舗数を達成しましたが、一方で、人材の多様化についてはきちんと手を付けてこられなかった」
先達が築いてくれた店舗数という『量』を元に、多様なお客様のニーズにお応えできるようサービスの『質』を高めていく。そのためにも女性を含む多様な人材の活用は欠かせないと考える。
「極めて単純ですが、経営者として何か大きな決断を迫られたとき、私ひとりの意見で判断するよりも、さまざまなメンバーから出た意見を聞いて判断する方が、圧倒的に正しい結果となる確率が高いと思っています」
まずは女性活躍推進をテーマに、経営層と従業員の意識改革をトップダウンとボトムアップの両面から同時進行する。
「推進室のメンバーは常に自分たちのアイデアを具現化したチャレンジをし、フィードバックをしてまたその改善に取り組むという新たな良い循環を社内に生み出してくれています」
今後はさまざまな場面でその成果が表れてくるはずと、大きな期待を寄せる。
また、現場ではすでにダイバーシティが浸透していることも大きい。
「来店されるお客様の半数は女性。店舗スタッフも非常に優秀な女性が多い上、幅広い年齢層、さまざまな国籍の方々が働いています。にもかかわらず、組織のマネジメント層や管理職には女性が少ないとなれば、それを是正していくのは当然のこと」
これを受け、ファミリーマートは2020年までに社員の女性比率を20%、女性管理職を10%とするべく数値目標を掲げた。
「数字は達成することができるでしょうが、一番重要なのは持続的に成長していくことができるかどうかです。社員一人ひとりが、心の底からダイバーシティを理解しないと変わりません。そのためにはルールを見直す必要もあるでしょうし、人材教育のあり方も見直していかなければならないでしょう。とてもチャレンジングですが、絶対に逃げずにやる、やらなきゃいけないと言い切っています」
多様性を武器に『質』を高めていくことで、ファミリーマートは競争が激化するコンビニ業界で必ず勝ち抜く。