男性スタッフの育休取得100%など、ワークライフバランスをサポート
理事長・院長の佐々木庸氏が特に力を入れるのが、脳内の病変に対する定位放射線治療装置「ガンマナイフ」だ。脳腫瘍や脳血管障害、頭部外傷などの疾患に対して外科的治療をする際、一般的には頭蓋骨に穴を開けて脳を露出する開頭手術が行われる。開頭手術は直接脳に触れるため患者の負担が大きく、脳の損傷や出血、脳血管の閉塞を起こす可能性もある。頭蓋内への外科的処置を最低限にし、負担軽減を目的に開発されたガンマナイフは50年以上の歴史をもつが、設備費用が高額であることから、日本では浸透するまでに時間を要した。
佐々木氏は1991年に日本で初めてガンマナイフを導入した中村記念病院に勤務し、恩師の指導のもとで最先端の治療にあたってきた医師だ。
「ガンマナイフは約200個の細い照射口から正確な一点に集中するよう作られた放射線治療機器です。照射を受けた病巣のみが徐々に凝固・壊死し、病巣部以外の被爆は極めて少なくなります。今まで手術が困難であった部位や、手術に耐えられない高齢者などの治療が可能になり、特に転移性の腫瘍に対しては非常に有効です」
しかし、最先端の設備や技能さえあれば万全なわけではない。がんであることを宣告された患者はパニックに陥り、治療計画の中止や変更を余儀なくされることは珍しくないという。そこで、佐々木氏がスローガンに掲げるのが”患者さんファースト“。これは、小児科の医師であった祖母の教えが深く影響している。「当時は珍しい女性の開業医として夜中の往診もこなしていた祖母は、幼児園児だった私に『患者さんは病気になる時間を選べないでしょ』と優しく言いました」と佐々木氏は振り返る。
患者の急変に対応し、かつ親身に寄り添うには、病院で働くスタッフの健康も心身ともに保つことが必要だ。そのため同院では、ワークライフバランスのサポートにも努めている。
「男性の育休制度をいち早く導入し、取得率は100%です。救命救急にあたる医師は、妻の出産や子どもの運動会、進路面談などへの参加を断念せざるを得ないことが多い。そのため、チームメンバーでサポートし合える空気をつくり、できるだけ行事には出席するように促しています。私が家庭をもったとき、よい恩師に恵まれました。後進の医師が仕事と家庭を両立し、存分に能力を発揮できる環境を整えることで恩返しができたらうれしいですね」