「営業に向いてない」から始まった、不動産店の新しい勝ち方
働き先としての不動産業界は、若年層から敬遠される傾向にある。2025年に全日本不動産協会が公開した調査レポートによれば、15〜39歳の8割超が、不動産仲介業への就業に「興味がない」と回答した。長時間労働や成果主義のイメージが、業界への入口を狭めている。しかし、そのイメージを覆す店舗が名古屋市にある。サンクリエイト株式会社が運営する「おうちむすび」だ。同社によれば創業から5年で、成約後に届く「お客様の声」が年間200件を超えた。1店舗の実績としては異例の数字だ。
ところが、営業スタッフは、ほぼ全員が「内気な性格」だという。代表取締役の齋藤氏自身、営業は最も不向きな仕事だと思っていた。
「向いていないと思っていたのが、いつのまにか天職になりました。私自身がそうでしたから、一人ひとりの可能性を信じられるんです」
人見知りの営業チームが武器にするのは、厚かましいトークではなく、「聴く力」である。価値観やライフスタイル、家族構成にじっくり耳を傾け、“推理”していく。将来、子どもが成長したときの通学路の安全、高齢の両親との同居の可能性、顧客自身がまだ言葉にしていない未来にまで思考を巡らせる。
「お客様の背景を全部踏まえたうえで出る言葉こそが、本当に心に刺さる言葉になるんです。ものすごい集中力が要りますけどね」
複数の業者が同じ物件を扱う仲介の世界。物件情報の提示は決め手になりえない。「この人から買いたい」と思わせるのは、情報量はもとより、創造力の深さだ。
この営業哲学を支えるのは、独自の組織形態だ。同社には営業ノルマがなく、成績の社内掲示や順位づけも行わない。価格交渉や契約条件の判断は、すべてスタッフに委ねている。さらに、週1回の勉強会を開催することで、宅地建物取引士、住宅診断士、任意売却取扱主任者、相続診断士、ADR調停人候補者など、売買仲介に関連する知識を社内に蓄積してきた。おうちむすびならば、相続や住宅ローン返済の一般的な相談など、他社であれば専門家への相談を勧められる悩みについても、必要に応じて専門家と連携しながら相談に応じることができる。
「家を探しに来る方の事情は様々です。物件の話だけで済むものではありません。表面上のワンストップではなく、人生の芯に触れるところまでやりたいと思っています」
設立から5年で、世界的な調査機関Great Place To Workの「働きがいのある会社」認定も取得した。顧客についての愚痴を口にするスタッフはいない。「この物件、お客様にどう?」「○○銀行、こういう条件でいけたよ」。社内で飛び交うのはそんな会話ばかり。あるいは、「うちの彼氏がさあ……」という雑談。風通しの良さが、営業力として発揮されている。そんな組織の原点は、齋藤氏自身が歩んできた道のりにあった。