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中神行敏
NAKAGAMI YUKITOSHI

中神行敏

株式会社ジェイポート 代表取締役

日本の持続可能な未来を海から開拓し、
物流改革と環境問題に挑み続ける。
2024年度の農業白書は、「食料安全保障の強化」を重点テーマとして掲げた。日本の食料自給率はカロリーベースで4割以下の低い状態が続き、輸入の多くは海外から船舶によって運ばれている。四方を海に囲まれた日本にとって、海上輸送は文字通りの生命線といえる。
しかし現在、日本の港湾は深刻な人材不足にある。作業員の不足は、船の停泊を延ばさざるをえない「滞船」を引き起こし、1日あたり数万ドルもの追加費用が発生する事態を招いており、荷役の効率化は極めて重要だ。そうした危機的状況に対し、愛知県豊橋市に本社を構える株式会社ジェイポート代表取締役の中神行敏氏は、港湾物流の高度化と地球環境への貢献を掲げ、果敢な挑戦を続けている。
中神行敏
海の環境を守りたい

同社が推進するのは、最新の荷役機械の導入だ。中神氏が世界中を行脚し、操作感を確かめている。たとえば、穀物やバイオマス燃料を効率的に荷揚げするニューマチックアンローダー。港内を自在に移動可能なモバイルハーバークレーン。
「いずれも安全性と環境性能、そして操作性に優れています。新人でも3日あれば作業が可能です」と、中神氏は機能性の高さを語る。

ジェイポートの事業は、産業機械の販売・設置・メンテナンスに止まらない。物流改善のコンサルティングも重要な柱のひとつだ。ドライバーの労働時間規制によって、長距離トラック運送が困難になる事態をいち早く予測し、モーダルシフトを提案・実現してきた。国内海上輸送は、低コストで大量の貨物を運べるだけでなく、CO2排出量の削減にも大きく貢献する。

創業から間もないジェイポートが、多岐にわたる事業を力強く展開できる背景には、中神氏が技術者として長年蓄えてきた豊富な知見と幅広い人脈がある。これまでに、中部国際空港セントレアや、地球深部探査船「ちきゅう」の設計にも携わってきた。そんな中神氏の原点は、幼少期に干しアサリを口にしながら眺めた三河湾だ。

「大きな船が水平線の彼方へすっと消えていく。地球が丸いからだと分かってもなお神秘的な光景でした。憧れだったそんな海が、高度経済成長期になると、ほんの数年で泳げなくなるほど汚れてしまったのです。海の環境をなんとかしたいと強く思うようになりました」

水産高校卒業後は、文部省技官として海洋調査などの仕事を務めていたが、「海の開拓は、一生をかける価値がある」という商工会議所会頭の言葉に心を動かされ、地元の港湾業に転職。自動車産業の国際貿易港である三河港の発展に心血を注いできた。知多半島と渥美半島に囲まれた三河湾は、周辺用地が広く天候も安定していることから、再生可能エネルギーの拠点として注目されており、メガソーラー、風力発電所、バイオマス発電所が次々と建設されていった。

中神行敏
夢をもち、日本を再び強くする

湾全体の発展に奔走していた中神氏だったが、激務から2019年に倒れてしまい、半年間の寝たきり生活を余儀なくされる。この経験が独立後、労働環境整備への強いこだわりを生んだ。週休3日の実現を目指し、年間休日数を131日に設定。ひとりに業務が集中しないよう、互いにフォローしやすい兼業体制も構築。さらに、配偶者や子どもを招いての「家族参加型の面談」も実施し、会社の発展と社員の幸せを両立する姿勢を明確に示した。
中神氏の海への深い思いと仕事に対する真摯な考え方に共感し、怪我でプロ入りを断念した元野球選手、ドイツ語の翻訳家など、ユニークな人材が集まってきた。

「おかげ様で、目を見張るようなアイデアが次々と生まれています。今はまだ私がトップダウンで引っ張っていますが、『早くボトムアップで会社を動かしてくれ』とハッパをかけているところです」
そして現在、中神氏が情熱を注ぐ大きな柱が、再生可能エネルギー事業だ。炭素繊維複合材(CFRP)メーカーを、株式会社ジェイスプリームとして完全子会社化。世界最大級となる浮体式洋上風力発電に用いる、長さ400メートルものブレード製造という国家的プロジェクトに挑んでいる。

「この規模のブレードを製造するには、軽量かつ高強度な炭素繊維複合材が不可欠ですが、それは日本でしかつくれません。かつて繊維業で栄えた地域の技術が、最先端素材にも活きているのです」
ボーイング社が炭素繊維複合材による翼の製造を日本に委ねているという事実が、唯一無二の技術であることを証明している。中神氏は、社員に、そして未来を担う世代に向けて熱いメッセージを送る。

「夢をもつことが何よりも大切です。それも、単なる夢物語ではなく、必ず現実になるものとして捉えることです。私は、温暖化を止めることを真剣に考え、取り組んでいます。これから一緒に、この世界を支えていきましょう。そして、海外勢に絶対に負けない強い日本を取り戻す挑戦をしていきましょう」
サプライチェーンの革新から、持続可能なエネルギーの創出まで、数々の巨大なテーマに対し、中神氏は揺るぎない信念と日本の技術力で挑み続ける。この国の新たな可能性を開拓していくために。

中神行敏

株式会社ジェイポート 代表取締役
https://www.jport.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。