Powered by Newsweek logo

村本宜彦
MURAMOTO YOSHIHIKO

村本宜彦

ナイトライド・セミコンダクター株式会社 代表取締役/CEO

業界構造を変革し、
暮らしを豊かにする究極のLED
半導体製造のスタートアップであるナイトライド・セミコンダクター株式会社は、発光効率を大幅に高めた高出力の紫外線LEDを開発し、量産技術を確立した。このトピックは近い将来、私たちの生活に劇的な変化をもたらすテクノロジーの根源となるだろう。紫外線(以下UV)LEDのパイオニアと評される同社代表の村本宜彦氏に、その真相を伺った。
村本宜彦
世界初、UV-LEDの量産に成功した会社

「UV-LEDは今後、産業用途から、家電、スマホに至るまで、多様な製品に欠かせない一部となります」
そう断言する村本氏は、約20年以上も前から、UV-LEDの可能性を見出し、第一線で研究と実用化を重ねてきた一人だ。

LEDとは、光を出す半導体を指す。光を出す半導体で、世界で初めて実用化された赤外線LEDは、TVやエアコンのリモコンといった家電製品で活用されている。その後、波長が長い順に赤色、緑色と開発が進み、実現不可能と言われた青色LEDを実現した功績で、日本人の研究者3名がノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しい。しかし、物質的限界から、UV-LEDの実現は不可能と言われてきた。

「だからこそ、UV-LEDを開発することは有意義であり、実現すれば、応用範囲も広く、ビジネス的にも大きな可能性を秘めている。それが開発を始めたきっかけでもありました」
村本氏は2000年、青色LED実現に大きく貢献した徳島大学窒化物半導体研究所 酒井士郎教授の協力のもと、同社を設立。世界に先駆けてUV-LEDの開発に着手し、世界初の高効率UV-LED量産に成功した。

「当社は先端技術開発に集中し、製造工程は協力会社を活用することで、投資リスクを減らし、柔軟に経営できることがメリットです。韓国、中国のサプライチェーンネットワークを有効に活用して、世界最高の技術をリーズナブルな価格と短納期で提供することが可能です」

村本氏が話すとおり、同社は独自のビジネスモデルを強みとし、次から次へと話題性のある製品や技術を世に送り出してきた。世界各国の銀行ATMで紙幣識別に用いられるセンサーや、糖尿病患者などに向けた体内埋め込み型の血糖値測定センサーなど、金融や医療などといった分野でもUV-LEDの活用を実現。殺菌・脱臭機能を応用したオリジナル家電製品「LEDPURE」シリーズの展開も注目を集め、UV-LEDの用途はこれまで誰も予想もできなかった分野に広がりつつある。

村本宜彦
必然的に、最先端技術を生み出すこと

そして今、同社がもっとも注力しているのが、マイクロサイズのUV-LEDと蛍光体を組み合わせたマイクロLEDディスプレイの開発だ。「従来の液晶、有機ELディスプレイに比べて、高精細、省エネ、タフ、長寿命がマイクロLEDディスプレイの特徴と言えます。
これが実現するとスマホは不要になり、眼鏡、腕時計などのウエアラブル・インターフェースに埋め込まれた小さな超高精細ディスプレイだけで、4Kフルカラー映像やゲームを楽しめるようになる。社会に大きなイノベーションをもたらす可能性を秘めた技術です」と村本氏も自信を覗かせる。

しかし実現に至るまでには、多くの課題があることも事実だ。開発の主流であるマイクロLEDディスプレイは赤、青、緑の3色のマイクロLEDチップをTFT基板に実装するものだが、赤色LEDはマイクロ化すると発光しなくなる。もし発光できたとしても、1個のマイクロLEDのサイズが、10μm~30μmなので、3種類の異なる材料から成るマイクロチップを高密度で実装するのは困難を極め、ICドライバーの制御も複雑になり、コストも膨大になってしまう。

そこで同社は、赤色のLEDが、マイクロ化で効率を失うのとは逆に、UVチップがマイクロ化によって発光効率が高まる技術を開発した。そして、UVの強力なフォトンエネルギーで赤、青、緑色の蛍光体を励起することでフルカラーを実現した。実装するのは単一のUVチップなので工程を大幅に簡略化し、製造コストを抑えたマイクロLEDディスプレイの開発に漕ぎ着けた。

この実績が業界内外からも評価を高める結果となり、電子デバイス産業新聞が主催する第25回半導体・オブ・ザ・イヤー2019の半導体デバイス部門では、同社の「マイクロLEDディスプレー用マイクロUV-LEDチップ」が優秀賞を受賞。将来的には多くのスマホ、もしくはディスプレイメーカーがこの技術を用い、多様なサイズのフレキシブル・ディスプレイの製造・リリースが期待されている。

「私たちの役割は、UV-LEDを応用することで実現できる、新しいアイデアや技術を世に送り出すこと。そのため会社の規模には拘りません。とにかく量よりも質を追求しながらUV-LEDの更なる普及を促し、人々の生活を健康で豊かにし、地球環境保護に大きく貢献したいと願っています」

これまでの功績を見る限り、村本氏は紛れもなく挑戦者だ。しかし彼は「挑戦と思ってやっていない」と、自身のキャリアを振り返る。
「挑戦というと何か意気込んでやることのように聞こえますが、登山家にしろスポーツ選手にしろ、挑戦者と呼ばれた人達は多分、そういう意識をもっていないと思うんです。むしろ単に、そこへ行ってみたいと思っただけだと」

村本氏は至って冷静に、自身の突き進むべき道を邁進し続ける。あくまでも新たな道を作ることは必然で、青色LEDの次は紫外線LED、有機ELディスプレーの次はマイクロLEDディスプレーといったように、技術的な進歩というレールの先端を歩いてきた。そのテクノロジー開発の最先端から、今後も目が離せない。

村本宜彦

ナイトライド・セミコンダクター株式会社 代表取締役/CEO
http://www.nitride.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。