143社もの中小企業を再建
「若かりし頃に渡米し、アメリカで経営危機管理やファイナンスを学ぶと同時に、欧米人の国際的な感覚やビジネススタイルに触れたことが私の原点となっています」
そう話す本木氏は、ニューヨークやロサンゼルスで芸能関係や音楽レーベルの仕事に従事。帰国後は、内閣府の地方創生事業における地域活性化コンサルタントとして、人材に悩む地域の中小企業とプロフェッショナル人材のマッチング支援や、多くの中小企業の経営再建などに尽力した。
「当初は人材面にフォーカスした事業でしたが、一方で多くの中小企業で課題となっていたのが経営者の高齢化や後継者不足といった問題でした。多くの中小企業を支援する中でそうした領域の相談を受けることも多くなり、コンプライアンスから人事領域、M&Aなどによる事業承継や経営再建まで、幅広いコンサルティングを請け負うようになりました」
再生に関わった中小企業の数は143社にも及ぶ。厳しい状況から成長戦略を描き、確かな成長の軌道に乗せていく。そうしたコンサルタントとしての力量を買われ、東神電工グループ全体の立て直しを託される形で、約2年前に東神電工株式会社の社長に就任した。
「当時の弊社は同族による杜撰な経営などのあおりを受け、大きな負債を抱えて倒産寸前でした。そこでまずは1年間で借金を圧縮し、返済計画を立て、コストカットなどで無駄を省いて債務超過を逆転させました。さらには私の報酬を最低限の成功報酬型とし、余剰分をDX化などに充て、旧態依然の馴れ合いを避けた適材適所の人員配置を行うなど、経営体制をクリーンにしていったのです」
同時に、事業や社員の価値向上や人材育成の方向性を定める7つの企業理念を策定。ダイバーシティの視点から人にフォーカスし、多様な社員が働きやすい環境の整備にも力を入れた。
「性別や年齢、国籍や障がいの有無といった壁を取り払い、あらゆる人を平等に受け入れるというのが当社の採用体制。実際に現在は20歳から80代まで、外国籍の人や障がいのある人も社員として活躍しています」
そう話す本木氏が社長就任後に取り入れたのが「公的事由」という独自の制度。
「例えば、お子さんの病気や高齢のご両親の介護などで仕事を休まざるを得なくなった場合、従来だと有給休暇を使う社員が多くいました。しかし、有給休暇は社員が自由に使えるはずの権利であり、本来の使い方としては正しくありません。そもそも子育てをしたり、親の面倒を見たりすることは、その人にしかできない大切な仕事。そうした背景も含め平等に社員に報いる制度が必要と考え、育児や子育て、親の介護などを理由としたやむを得ない欠勤や時短労働などについては、ガイドラインに即した公的事由を充て、通常と変わらない給与を支給することにしたのです」