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本木保則
MOTOKI YASUNORI

本木保則

東神電工株式会社 代表取締役社長

老舗電線部品メーカーが体現する再生と進化、従業員ファーストで世界に貢献する中小企業へ
昭和30年の創業以来、カメラや船舶、PCや医療機器など、人々の暮らしを支える様々な製品に欠かせない、電線パーツなどの加工、製造、販売を行う東神電工株式会社。創業70年の歴史をもちながら、一度は倒産の危機に直面した老舗企業をわずか一年で再建の道に乗せたのが、同社代表取締役社長の本木保則氏だ。
本木保則
画像はイメージです。
143社もの中小企業を再建

「若かりし頃に渡米し、アメリカで経営危機管理やファイナンスを学ぶと同時に、欧米人の国際的な感覚やビジネススタイルに触れたことが私の原点となっています」
そう話す本木氏は、ニューヨークやロサンゼルスで芸能関係や音楽レーベルの仕事に従事。帰国後は、内閣府の地方創生事業における地域活性化コンサルタントとして、人材に悩む地域の中小企業とプロフェッショナル人材のマッチング支援や、多くの中小企業の経営再建などに尽力した。

「当初は人材面にフォーカスした事業でしたが、一方で多くの中小企業で課題となっていたのが経営者の高齢化や後継者不足といった問題でした。多くの中小企業を支援する中でそうした領域の相談を受けることも多くなり、コンプライアンスから人事領域、M&Aなどによる事業承継や経営再建まで、幅広いコンサルティングを請け負うようになりました」
再生に関わった中小企業の数は143社にも及ぶ。厳しい状況から成長戦略を描き、確かな成長の軌道に乗せていく。そうしたコンサルタントとしての力量を買われ、東神電工グループ全体の立て直しを託される形で、約2年前に東神電工株式会社の社長に就任した。

「当時の弊社は同族による杜撰な経営などのあおりを受け、大きな負債を抱えて倒産寸前でした。そこでまずは1年間で借金を圧縮し、返済計画を立て、コストカットなどで無駄を省いて債務超過を逆転させました。さらには私の報酬を最低限の成功報酬型とし、余剰分をDX化などに充て、旧態依然の馴れ合いを避けた適材適所の人員配置を行うなど、経営体制をクリーンにしていったのです」
同時に、事業や社員の価値向上や人材育成の方向性を定める7つの企業理念を策定。ダイバーシティの視点から人にフォーカスし、多様な社員が働きやすい環境の整備にも力を入れた。

「性別や年齢、国籍や障がいの有無といった壁を取り払い、あらゆる人を平等に受け入れるというのが当社の採用体制。実際に現在は20歳から80代まで、外国籍の人や障がいのある人も社員として活躍しています」
そう話す本木氏が社長就任後に取り入れたのが「公的事由」という独自の制度。

「例えば、お子さんの病気や高齢のご両親の介護などで仕事を休まざるを得なくなった場合、従来だと有給休暇を使う社員が多くいました。しかし、有給休暇は社員が自由に使えるはずの権利であり、本来の使い方としては正しくありません。そもそも子育てをしたり、親の面倒を見たりすることは、その人にしかできない大切な仕事。そうした背景も含め平等に社員に報いる制度が必要と考え、育児や子育て、親の介護などを理由としたやむを得ない欠勤や時短労働などについては、ガイドラインに即した公的事由を充て、通常と変わらない給与を支給することにしたのです」

本木保則
経営者の覚悟と勇気、決断が変革の糸口

また、正社員や契約社員、パートといった立場に関わらない、同一労働同一賃金も実現。いわゆる“年収の壁”の問題で働き方を自ら制限していた女性スタッフなどには、正しい知識の啓蒙を行うことでより自由な選択肢を提示し、結果として十数名の契約社員のほとんどが社員となることを選択した。

さらには雇用形態に関わらず全員に義務付けられる各種研修をはじめ、人材育成制度の整備にも注力。加えて、数字だけにフォーカスするのではなく、一人ひとりの従業員に人として向き合い、その個性や様々な貢献にも目を向けた評価制度の導入など、従業員が経済的にも心理的にも安心し、それぞれの持ち場で力を発揮できる環境を整えることで、誰もがモチベーション高く働ける職場を実現した。

「結果的にかつての長時間残業はゼロになり、効率的な稼働で変わらない生産性を実現できています。中小企業経営にとって重要なのは社員ファーストであること。それも言葉だけでなく、社員を大切にできているのか、社員が働くことに喜びを感じてくれているのかといったことを、経営者としては常に自問自答する必要があります。DX化などによる効率化も大切ですが、働く人が感じる価値の部分は、経営者の覚悟と勇気、決断さえあればすぐにでも変革することができる。そのことをぜひ、多くの中小企業の経営者の方に知ってもらいたいと思います」

まだ道半ばというグループの再建は、3年以内に完了する予定。「将来的にはM&Aや若手人材の積極登用でグループを大きくし、ホールディングスとしての上場を目指す」と本木氏は展望を語る。

「もちろん会社としての業績は重要ですが、社会に貢献できない企業や経営者が、いずれ淘汰されてしまうことは歴史が証明しています。そこで当社では、私が積み上げてきたコンサルタントとしての知見や成功モデルを、伴走者として企業に提供するコンサルティング事業をスタートさせています。電線に関わる事業については旧来のものから脱却し、生成AIや半導体に関わる最先端領域で産学協同研究などを重ね、独自のパテント取得や国際規格製品の海外での販売を目指していきます。さらにはマーケットの海外移行や海外での拠点づくりも加速させ、ゆくゆくは日本の中小企業の海外進出を支援できる存在になりたいと考えています」

本木保則

東神電工株式会社 代表取締役社長
https://toshindenkogroup.com
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。