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宮沢勝富士
MIYAZAWA KATSUFUJI

宮沢勝富士

株式会社群馬建水 代表取締役

職人の正社員雇用や多能工化などで、建設業界の慣習を打ち破り、改革をもたらす。
労働人口の高齢化などによって、人材不足に拍車がかかる建設業界。しかし、そんな課題とは無縁であるかのように従業員が増えている会社が群馬県にある。株式会社群馬建水の代表取締役を務める宮沢勝富士氏は、「この業界で疑問に感じたことを変えていった。それが職人を正社員として雇用することだった」と振り返る。2024年には一般社団法人 建設多能工リスキリング協会を設立し、人材不足をはじめとした建設業界の課題解決に取り組んでいる。
宮沢勝富士
画像はイメージです。
人を雇用するには安心して働ける環境が必要。

前橋市や高崎市に隣接する佐波郡玉村町に本社を構える群馬建水。76名の従業員を抱え、建造物の防水工事を中心に塗装や外壁の修繕などを事業としている。本社以外に埼玉支店(さいたま市)、神奈川営業所(海老名市)、東京営業所(世田谷区)を構え、昨年末には名古屋営業所(名古屋市)を開設。スーパーゼネコンや大手ゼネコンからだけでなく、一般企業からも直接受注し、2024年の売上は20億円に達した。


「高校卒業後、祖父が創業した宮沢コーキング工業株式会社に入社し、1997年同社の専務取締役へ就任しました。代表取締役である父のサポートをしつつ、その頃から、ほぼ経営全般を担っていました」

2005年に宮沢氏が代表取締役に就任すると、会社名をこれまでの宮沢コーキング工業から群馬建水に改めた。仕事の間口を広げるために防水の総合商社になる必要があったからだ。防水工事といってもさまざまな種類があり、宮沢氏は同業他社の先輩職人に頼み込み、無給で仕事を教えてもらうことで、受けられる仕事を増やしていった。そして、総合防水工事を受注できるようになった次のステップとして実践したのが、職人(現場作業員)を正社員として雇用することだった。

「私が入社した際に疑問に感じたのは、職人は個人事業主として業務委託で仕事を受けるのが一般的だったこと。閑散期や雨の日など、仕事がない日は給料がもらえず、社会保険料も自分で払わなければなりません。このような不安定な環境では、人生の計画を立てることすらできません。正社員雇用するようになった今、仕事がない日は社内で技術や安全に関する指導を行ったり、資格取得のための講習を受けてもらったりしています。会社にとっても、急な仕事や難しい工期にも対応できたり、社内で技術を継承できたりするなど、さまざまなメリットがあります」

宮沢勝富士
リスキリングで課題を解決し、職人の価値を高める。

宮沢氏の改革はさらに続く。それは職人ができる仕事の領域を増やす多能工化である。これまでも防水工事の種類を増やしてきたが、今度は別業種との連携で社会的価値を高めることが目的だ。建設業界には専門職が約30種あり、例えばひとつの建造物を造る場合、初期、中期、後期と、さまざまな業種の職人が時期に応じて現場に入る。別の時期に行う仕事ができるようになれば、幅広い作業をすることができ、閑散期の対策にもなる。多能工化を進めたことで、塗装や左官などの仕事も受けられるようになった。

「業務委託で仕事を受ける職人の場合、多能工化を目指して別の仕事をはじめようとすると、キャリアがゼロのところからスタートしなければなりません。その結果、給与が安くなってしまうので挑戦することが難しい。しかし、当社は社員で雇用して安定した給料を払っているので、多能工化ができるというわけです。例えばマンションの大規模改修だと、すべての仕事を当社の職人だけで行うことができます。仕事の幅が広がったおかげで、孫請けから一次請けへと、商流も上げることができました」

2012年からは外国人技能実習生制度を積極的に活用。今日に至るまで、ベトナム、インドネシア、フィリンピンから約100名を受け入れ、うち5名は特定技能の在留資格をもつ。さらに10年選手が3名いるなど、実質的な外国人労働者が働きやすい環境が整っているといえるだろう。2024年には技能実習制度が育成就労制度に改められる法律が可決され、この変化は同社にも恩恵をもたらすという。

「彼ら彼女らはたまたま外国に生まれたというだけなので、分け隔てなく平等に接することを徹底しています。重視しているのは、一緒に食事をするといったコミュニケーションを積極的に行っていること。なかには他の会社に転籍する人もいるのですが、戻りたいと言ってくれたり、実際に戻ってきたりしたケースもあります。育成就労制度に移行すれば、転籍しやすくなるので、外国人はさらに増えるのではないかと思います」

そして、これから力を入れていこうとしているのが、2024年11月に設立し宮沢氏が代表理事に就任した一般社団法人 建設多能工リスキリング協会の活動だ。職人を正社員雇用する建設業界の企業に会員になってもらい、さまざまな業種の技術を習得できる機会を設けるというリスキリングの推進を目的とする。業種ごとに繁忙期や閑散期が異なるため、会員企業間で技術を伝授し、仕事を発注しあうことで職人の価値を高め、人材不足を解消する狙いがある。

「多能工化の延長のような取り組みです。イメージしているのは、1業種につき1~2社の企業に会員になっていただき、職人を正社員雇用することで生じる互いのリスクを軽減し、会員企業同士でウィンウィンの関係を築くこと。当社の職人に対しては、単に給料を上げてほしいと訴えるだけではなく、さまざまな業種の仕事を身に着けて自分の価値を高めようと啓蒙しています」

課題に真摯に向き合い、ひとつずつ改善していくことで、建設業界のロールモデルになることが宮沢氏の目標だ。取り組みの一環として、若年者や女性の採用を強化するためにSNSなどを通じて情報を発信し、ブランディングにも力を入れる。折しも、大手ゼネコンを中心に女性が活躍する会社が増え、日祝に加え土曜が休みになる現場も珍しくなくなってきたという。さまざまな慣習を変えることで、かつてレッドオーシャンだった建設業界は、宮沢氏にとってはブルーオーシャンになりつつある。

宮沢勝富士

株式会社群馬建水 代表取締役
https://ken-sui.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。