
人を育て、会社をアップデートする
松下氏は2017年に代表取締役社長に就任して以来、経営理念や人事評価制度の刷新、マーケティング戦略の推進など、社内外において改革を押し進めてきた。結果、業績は右肩上がり。米離れや減塩指向などにより漬物市場全体が落ち込む中、伝統を保ちつつ変化への対応力を高めてきた。だが、松下氏はある懸念を口にする。
「漬物市場の出荷金額は20年前をピークに大きくシュリンクしています。今は市場の中で生き残ることはできていますが、高齢化や人口減少を考えるととても安泰とはいえません。ですから、第2、第3の矢をもつことが大事。弊社が有する資源を活用し、さらなるシナジー効果を生む事業の多角化と人材育成に取り組んでいます」
技術革新も重要だが、次に放つ一手を支えるのは「人」だ。
天政松下は松下氏が考案した独自の人材育成システムにより、従業員の永続的な学びと成長を後押ししている。社長に就任して最初に取り組んだのは経営理念の刷新だが、重要なのはそれを従業員が理解し、カルチャーとして根付かせることだ。「経営理念とは何か」を理解することは、会社に属しつつどう社会貢献するかを実践していくうえで不可欠だと松下氏は考える。
さらに、松下氏が重要視するのが会計の知識だ。
「組織が大きくなれば、経営陣、マーケティング部、営業部、製造部、経理部など仕事は役割分担されがちになります。しかし、自分たちの業務内容や営業成績の範疇でしかビジネスを理解していないと、全体最適ではなく部分最適になってしまい、部門間での利益の取り合いといった摩擦を生みます。いっぽう、社員が会計の知識を有し、財務諸表を読むことができればどうでしょうか。誰もが企業全体の利益・財産を考えられる『強い組織』に成長させることが可能になるはずです」
同社の総合職社員は、経営理念や会計の知識を学ぶ際、松下氏自身が講師となり、独自のカリキュラムの勉強会と試験の反復によって習熟度を高めていく。「退職した社員が次の就職先で活躍して『社長の教えが活きています』と言ってもらえることもあります。社会で活躍できる人材を育てる気持ちでやっているので、退社しても活躍する姿を報告してくれるのは嬉しい瞬間です」と語る松下氏は、経営陣との距離の近さや個人の裁量の大きさ、自由さは「中小企業の魅力だ」だと明言する。同社の場合は新入社員でも商品開発からパッケージデザイン、販路開拓までを手掛けることもあり、大きな成長とやりがいにつながっている。