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松下雄哉
MATSUSHITA YUYA

松下雄哉

株式会社天政松下 代表取締役社長

キムチや水なすをはじめとした漬物の製造販売を軸に、
第2、第3の矢となる社内起業を奨励。
企業を取り巻く環境は絶えず変化しており、社会のニーズに沿ったビジネス展開が求められる。株式会社天政松下は、関西で絶大な人気を誇る「ちょっと辛いが、ほんまに旨いキムチ。」や、京漬物ブランド「匠洛庵」をはじめとした漬物の製造販売を展開している老舗。
代表取締役社長の松下雄哉氏は、地域に愛される漬物の味を守りつつ、事業の多角化と人材育成により成長を推進している。
松下雄哉
画像はイメージです。
人を育て、会社をアップデートする

松下氏は2017年に代表取締役社長に就任して以来、経営理念や人事評価制度の刷新、マーケティング戦略の推進など、社内外において改革を押し進めてきた。結果、業績は右肩上がり。米離れや減塩指向などにより漬物市場全体が落ち込む中、伝統を保ちつつ変化への対応力を高めてきた。だが、松下氏はある懸念を口にする。

「漬物市場の出荷金額は20年前をピークに大きくシュリンクしています。今は市場の中で生き残ることはできていますが、高齢化や人口減少を考えるととても安泰とはいえません。ですから、第2、第3の矢をもつことが大事。弊社が有する資源を活用し、さらなるシナジー効果を生む事業の多角化と人材育成に取り組んでいます」

技術革新も重要だが、次に放つ一手を支えるのは「人」だ。 
天政松下は松下氏が考案した独自の人材育成システムにより、従業員の永続的な学びと成長を後押ししている。社長に就任して最初に取り組んだのは経営理念の刷新だが、重要なのはそれを従業員が理解し、カルチャーとして根付かせることだ。「経営理念とは何か」を理解することは、会社に属しつつどう社会貢献するかを実践していくうえで不可欠だと松下氏は考える。   

さらに、松下氏が重要視するのが会計の知識だ。
「組織が大きくなれば、経営陣、マーケティング部、営業部、製造部、経理部など仕事は役割分担されがちになります。しかし、自分たちの業務内容や営業成績の範疇でしかビジネスを理解していないと、全体最適ではなく部分最適になってしまい、部門間での利益の取り合いといった摩擦を生みます。いっぽう、社員が会計の知識を有し、財務諸表を読むことができればどうでしょうか。誰もが企業全体の利益・財産を考えられる『強い組織』に成長させることが可能になるはずです」

同社の総合職社員は、経営理念や会計の知識を学ぶ際、松下氏自身が講師となり、独自のカリキュラムの勉強会と試験の反復によって習熟度を高めていく。「退職した社員が次の就職先で活躍して『社長の教えが活きています』と言ってもらえることもあります。社会で活躍できる人材を育てる気持ちでやっているので、退社しても活躍する姿を報告してくれるのは嬉しい瞬間です」と語る松下氏は、経営陣との距離の近さや個人の裁量の大きさ、自由さは「中小企業の魅力だ」だと明言する。同社の場合は新入社員でも商品開発からパッケージデザイン、販路開拓までを手掛けることもあり、大きな成長とやりがいにつながっている。

松下雄哉
人材こそが企業の資本

幅広い業務経験と会計知識を有し、ユニークな手法で育成された同社の社員は、思いがけぬ分野で手腕を発揮することもある。会社資本による社内起業だ。同社はアウトプットの一環で社内起業を推進しており、この3年間で3社が誕生した。

1社目は「株式会社とうがらしのやまだ」というキムチブランド。競争の激しい業界で苦労しながらも「味だけは妥協しない」という強い信念のもと、設立4年目で初の全国展開を成し遂げた。さらに、23年には関西の学生ベンチャーと協力し、SNSの運用代行を手掛ける株式会社ゼロベーを設立。
松下氏は「動画SNSをはじめたいが社内に人材がいない。継続的な運営に不安を感じている」といった悩みを抱える中小企業の発信力や広報力の強化に役立てればと考えている。

「学生ベンチャーのメンバーと話していると知らない情報がたくさん入ってきます。新たな知見を取り入れれば、本業にもシナジー効果をもたらすはず」
今年7月に設立した3社目は、漬物のPOSデータ解析をBIツール化し販売するシステム会社「株式会社Tate」だ。7年前に自社開発したシステムを同業他社へ販売する。漬物市場がシュリンクする中で、マーケットへの適正なアプローチや提案が業界活性に繋がればと考えている。

同社の社内起業は、 会社資本100%。資本金も社員と松下氏で話し合い、起業の為の経費や
経営計画を考えたうえで決定する。従業員は遂行中の業務と並行しながら新会社の経営に携わるため、ローリスクでチャレンジできる。その代わりに設定されたルールが、「利益が生まれるまで無給であること」。
1年後の決算で目標利益を達成したら、固定給や決算賞与を出す仕組みだ。「成功を目指して試行錯誤するため、楽しみながら成長していく様子が如実に分かる」と松下氏は語る。

AIやロボットがいくら台頭しようとも、最終的には会社を成長させるのは人と人とのつながりだ。「人材こそが企業の資本」という確固たる考えのもと、同社は独自の人材育成システムで自律型組織を形成していく。

松下雄哉

株式会社天政松下 代表取締役社長
https://www.tenmasamatsushita.co.jp
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。