
培った技術や経験を社会貢献に活用。
大学卒業後、一部上場の鉄鋼メーカーに就職した熊木氏だが、東日本大震災が発生した直後だったため待遇は日々悪化。会社員生活に別れを告げた後、動画制作やデジタルメディアでの集客、コンサルティング、マーケティングに関するノウハウを身につけて事業を立ち上げた。やがて、あるドッグトレーナーから集客に関する相談を受けたことが転機となった。
「その頃、動物保護活動や児童養護施設で子どものための活動を行っていた母を癌で亡くしました。依頼主の女性も動物の殺処分問題を改善したいという思いがあり、母の意思を引き継ぐ形で開発したのが、犬のしつけ教材『イヌバーシティ』です。犬が捨てられる大きな理由は、犬との向き合い方を知らない飼い主がしつけに失敗し、手に負えなくなってしまうためです。そこで、犬の問題行動を改善するための方法をまとめた動画を、ウェブサイト上で見てもらう商品を制作しました」
飼い主の犬に対する考えを改めてもらうことが、犬の殺処分ゼロに繋がるのではないか。こうした思いを込めて制作されたイヌバーシティは、4年連続で犬のしつけ教材のジャンルで日本一の売上を達成中だ。その後、同様に母親の軌跡を辿るように始めたのが、YouTubeチャンネルの「眠れない夜の生放送」。カウンセリングの資格を持つ熊木氏が、毎週日曜の夜11時から4時間にわたってライブ配信を行い、子どもたちの悩みを聞くというもの。当時はライブ配信の悩み相談自体が珍しく、1000人以上の視聴者が同時接続で見ていたこともあった。
「見に来てくれるのは、いじめや虐待、将来への不安などの悩みをもつ中高生や大学生、新社会人たち。3年間続けてきた中で、予想外のことも起こりました。それは、かつて悩んでいた人が問題を解決した後、新しく相談してきた子にチャット機能でアドバイスをするなど、助ける側になるという好循環が生まれたことです」
うれしい効果があった反面、配信で多くの悩みに触れた熊木氏が痛感したこともあった。
「どれだけ子どもたちにアドバイスをしても、結局、彼らの幸せは親の心の安定次第で決まるということです。心の安定と収入の安定は強く関わるため、その状況を改善するためにも手を打ちたいと思いました」