患者が穏やかに暮らすことのできる在宅医療。
在宅医療とは、がんや認知症の他、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病といった難病を患っている場合など、一人で通院することが困難な患者が自宅などで受ける医療のことを指す。医師と看護師だけでなく、ケアマネージャーやヘルパーの存在が不可欠で、連携してチームとして取り組んでいる点が特徴だ。久保医院では、半径16km以内にある個人宅や有料老人ホームなどの施設を定期的に訪問し診療を行っている。
「入院との大きな違いは住み慣れた環境の中で、一人ひとりに合ったオーダーメイドの診療を提供することができること。例えば治療を受けているがんの患者さんの場合は、その過程をサポートし、治療中の痛みといった苦痛を和らげることが主な目的です。がん終末期の患者さんの場合は緩和ケアが中心になります。現在は薬剤にしても良いものが多数あるため、穏やかに過ごされることが多いですね。在宅医療には、患者さんができるだけ穏やかに暮らすことのできる医療を提供するという側面もあるのです」
さまざまな病状の患者を診るため、在宅酸素療法、膀胱留置カテーテル、中心静脈栄養法、人工呼吸器、心電図検査、エコー検査、レントゲン検査など自宅で幅広い診療を受けることができる。これまで病院でしかできなかったことも自宅でできるようになった。また、定期的な訪問を考えると費用が心配になるが、医療保険が適用されるため自己負担額には上限がある。24時間365日体制で対応してくれることを考えると、決して大きな負担にならず利用できるのが在宅医療だという。
「病院で看護師が担当していたことの一部をご家族が担わなければいけないことなどを除けば、在宅医療のデメリットはほとんどないでしょう。できるだけ“その人らしい生活”を送っていただけるよう、患者さんやご家族の要望に沿ってサポートしていくのが我々の役割。もちろん、もし病院での治療が必要になった場合は、提携先の病院と連携して迅速に対応することもできます。患者さん一人ひとりに応じた暮らしに寄り添えることが、在宅医療の大きな特徴なのではないでしょうか」
久保氏は大学卒業後、大学病院や民間病院で一般内科における幅広い経験を積み、循環器内科の専門医としてキャリアを築いていった。当時は重症の患者が社会復帰するための治療を行うことにやりがいを感じていたが、これからは高齢化が進むにつれて、病気と長期的に向き合っていかなければいけない人が増え、その中でできるだけ自宅での療養を望む患者が多いことを知り、地域に密着した医療を志すようになった。そして2011年に父親が経営する久保医院の副院長に就任。在宅医療の必要性ややりがいをさらに感じるようになり、2020年に院長を継いだ。
「父の仕事ぶりを見て印象的だったのは、病気と共に生活している高齢者の方々に対して、地域のかかりつけ医として献身的に尽くしていた姿でした。高齢になると病気を根本的に治すというのは難しい場合もあり、病気とうまく付き合っていくことが求められます。地域の人達が穏やかに生活できるように、サポートする医療にやりがいを感じるようになったのです」