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久保知一郎
KUBO TOMOICHIRO

久保知一郎

医療法人 久保医院 院長

患者の暮らしに寄り添い希望を叶える
在宅医療というもう一つの選択肢を広めたい。
住み慣れた場所で過ごしながら、24時間365日体制で医療を受けることができる在宅医療への期待が高まっている。大阪府八尾市の久保医院は内科、小児科、循環器内科のクリニックとして地域の人たちに親しまれている一方で、10年前から在宅医療にも力を入れてきた。院長を務める久保知一郎氏に、特徴をはじめとした在宅医療について話を聞いてみた。
久保知一郎 画像はイメージです。
患者が穏やかに暮らすことのできる在宅医療。

在宅医療とは、がんや認知症の他、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病といった難病を患っている場合など、一人で通院することが困難な患者が自宅などで受ける医療のことを指す。医師と看護師だけでなく、ケアマネージャーやヘルパーの存在が不可欠で、連携してチームとして取り組んでいる点が特徴だ。久保医院では、半径16km以内にある個人宅や有料老人ホームなどの施設を定期的に訪問し診療を行っている。

「入院との大きな違いは住み慣れた環境の中で、一人ひとりに合ったオーダーメイドの診療を提供することができること。例えば治療を受けているがんの患者さんの場合は、その過程をサポートし、治療中の痛みといった苦痛を和らげることが主な目的です。がん終末期の患者さんの場合は緩和ケアが中心になります。現在は薬剤にしても良いものが多数あるため、穏やかに過ごされることが多いですね。在宅医療には、患者さんができるだけ穏やかに暮らすことのできる医療を提供するという側面もあるのです」

さまざまな病状の患者を診るため、在宅酸素療法、膀胱留置カテーテル、中心静脈栄養法、人工呼吸器、心電図検査、エコー検査、レントゲン検査など自宅で幅広い診療を受けることができる。これまで病院でしかできなかったことも自宅でできるようになった。また、定期的な訪問を考えると費用が心配になるが、医療保険が適用されるため自己負担額には上限がある。24時間365日体制で対応してくれることを考えると、決して大きな負担にならず利用できるのが在宅医療だという。

「病院で看護師が担当していたことの一部をご家族が担わなければいけないことなどを除けば、在宅医療のデメリットはほとんどないでしょう。できるだけ“その人らしい生活”を送っていただけるよう、患者さんやご家族の要望に沿ってサポートしていくのが我々の役割。もちろん、もし病院での治療が必要になった場合は、提携先の病院と連携して迅速に対応することもできます。患者さん一人ひとりに応じた暮らしに寄り添えることが、在宅医療の大きな特徴なのではないでしょうか」

久保氏は大学卒業後、大学病院や民間病院で一般内科における幅広い経験を積み、循環器内科の専門医としてキャリアを築いていった。当時は重症の患者が社会復帰するための治療を行うことにやりがいを感じていたが、これからは高齢化が進むにつれて、病気と長期的に向き合っていかなければいけない人が増え、その中でできるだけ自宅での療養を望む患者が多いことを知り、地域に密着した医療を志すようになった。そして2011年に父親が経営する久保医院の副院長に就任。在宅医療の必要性ややりがいをさらに感じるようになり、2020年に院長を継いだ。

「父の仕事ぶりを見て印象的だったのは、病気と共に生活している高齢者の方々に対して、地域のかかりつけ医として献身的に尽くしていた姿でした。高齢になると病気を根本的に治すというのは難しい場合もあり、病気とうまく付き合っていくことが求められます。地域の人達が穏やかに生活できるように、サポートする医療にやりがいを感じるようになったのです」

久保知一郎
感謝されることでやりがいを再認識する。

前述の通り、在宅医療を受ける患者は介護を必要としている場合が多いため、医師一人で行えるわけではなくチームワークが重要となる。久保医院では、医療職である医師と看護師、そして介護職であるケアマネージャーやヘルパーという立場が異なる者同士が患者のために向き合い、情報共有や意見交換の場所としてカンファレンスを実施。時間に捉われることなく、全員が一致団結できるように何度でも行う。

「全員がなるべく対等な立場で携わってもらい、遠慮なく意見を言い合える環境をつくることが大事。というのも医師は限られたところしか見ていないので、看護師やケアマネージャー、ヘルパーとも意見を交換しながら、どのように進めていくのかを決めていくことが大切だからです。そのためにはどんな情報でも共有し、徹底的にコミュニケーションをとることが在宅医療を円滑に進めるポイントになります」

一般的な通院や入院と大きく異なるのは、在宅医療は患者の苦痛を取り除く緩和ケアが中心となる点。過剰な延命処置等は行わず、自然な経過のなかで穏やかにすごすためのサポートを行う。そのためにも患者や患者の家族に対して真摯な姿勢で臨み、密なコミュニケーションが必要になってくる。

「在宅医療の経験がないご家族の方々にとって、病院の診療方法と異なる在宅医療は不安になられることもあります。しかし、最終的に患者さんがすうーっと眠るように最期を迎えられたのを見て、『先生、やっぱり在宅医療を選んでよかった。ありがとうございます』と感謝されることも多い。なかにはご臨終の際に、最後まで頑張ってやり遂げたという思いで、ご家族の皆さん全員が穏やかな表情をされていたこともありました。在宅医療を続けてきて、つくづくよかったと思う出来事でした」

これからの時代において、さらに重要性が高まるであろう在宅医療だが、存在そのものはまだまだ知られていない。しかし、看取った患者の家族から、再度在宅医療を頼まれることも多いという。だからこそ久保氏は患者や家族に誠実に向き合うことで、在宅医療の良さがより多くの人達に知られるようになることを望んでいる。

「どのような形で余生を過ごして最期を迎えるのかという点について、今は選択肢があまり用意されていない状態。在宅医療というものがあることを知っていただいたうえで、自宅で過ごされるのか、病院での治療を望まれるのか、選んでいただけるようになればいいですね。私自身は、安らかな表情の患者さんを看取るたびに、在宅医療の意義を強く感じています。地域の人達が穏やかに御自宅で過ごされるためのお手伝いが出来たらとても幸せなことですので、そのためにさらに精進していきたいと思っています」

久保知一郎

医療法人 久保医院 院長
http://www.kuboiin-yao.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。