Powered by Newsweek logo

小路明善
KOUJI AKIYOSHI

小路明善

アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

人々の生活文化を創る、強く優しい世界戦略。
「スーパードライ」をはじめとした酒類のほか、飲料、食品をコア事業とするアサヒグループホールディングス。国内のビール市場が縮小するなか、増収増益と好調を維持している。同社において常に注目されるのが、社長就任以来、海外M&Aを積極的に手掛ける小路明善代表取締役社長兼CEOの挑戦だ。
小路明善
成長のエンジンとなる、グローバル戦略

アサヒブランドの「世界化」が進んでいる。アサヒグループホールディングスは、小路氏が代表取締役に就任した2016年、イタリアの「Peroni」、オランダの「Grolsch」、英国の「Meantime」といった欧州のビール会社、2017年にはチェコの「Pilsner Urquell」をはじめとする中東欧の有名ブランドを取得。2019年7月には、ベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブのオーストラリア事業の買収を発表した。

現在、グループの事業利益の海外比率は約40%。小路氏は「スーパードライなどのブランドとのシナジーを発揮、国内事業をキャッシュ基盤に、海外事業がグループの成長エンジンとなっている。グローバル企業として第一歩を踏み出すきっかけをつくることができた」と自信を見せる。

小路氏は、積極的な世界進出のきっかけとして、スーパードライの国際的な評価の高まりを挙げる。なかでも2014年、米国で2年に一度開催される「ワールドビアカップ」でスーパードライが金賞を受賞。また、ベルギーの「ブリュッセルビアチャレンジ2015」でも金賞を受賞した。「コンテストでの受賞は、アサヒの発酵・醸造技術がトップレベルにあることを証明するとともに、20年以上にわたる海外展開とブランディング、マーケティングが総合評価を受けたことを示したもの。アサヒブランドが世界に通用することを確信させてくれるものでした」と語る。

いまやグループ約28,000名のスタッフの半数は外国籍で、2019年1月には、世界中の社員やステークホルダーに向けてグループ理念を再構築し「Asahi Group Philosophy(以下、AGP)」として施行した。

AGP の冒頭、企業としての使命・存在価値を示すミッションとして「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」を掲げ、高い技術により担保される「おいしさ」だけではなく、「期待を超える」「生活文化の創造」という言葉に重要なメッセージが込められている。「国内のビール市場は縮小トレンドにあり、シェア獲得ではなく新規顧客創出が必要とされる時代といえます。ブランド価値を高めるためには、品質などの『物性価値』を高めるのは当然として、『付加価値』を毎年高め続けなくてはならないと考えています」

小路明善
語り継がれるブランドであるために

アサヒはスーパードライのブランドを守りつつ、付加価値を生み出すべく新商品も続々と打ち出している。氷点下の冷涼感で苦味を感じにくく、クリーミーな泡をもつ「アサヒスーパードライ エクストラコールド」は、機材の整った店舗のみで販売され、プレミアムな体験を演出。花見の季節に合わせて限定発売したピンクの「スペシャルパッケージ」は、長年シルバーのパッケージで親しまれたスーパードライのイメージを覆す商品としても話題となった。

また飲料部門では2017年、唯一無二のブランド「カルピス」シリーズの新商品として、体脂肪を減らす機能性表示食品「カラダカルピス」をリリース、大ヒットを記録した。新商品に表れるのは「ミッション」にあるように、ユーザーが生活のなかの様々なシチュエーションでアサヒ製品と新たに出会う「生活文化」を創造するというコンセプトだ。

「失敗は何度もするでしょう。しかし『見逃し三振』ではなく『空振り三振』するからこそ、次につながる。失敗を責めず、一人の落ちこぼれも出さない会社、前例踏襲や人まねではない誇れる仕事ができる会社にしていくのが私の務めです」

小路氏には、30年続けている習慣がある。週に一度以上、スーパードライを扱う店へお忍びで訪れ、食事をすることだ。なぜ長年にわたりスーパードライを選んでもらえるのか、なぜお客さまから愛してもらえるのか、アサヒに何が求められているのかを、食事を楽しみながら考える。「私は技術者ではありませんが、ビールのことを誰よりも考え、見識をもち、スーパードライの良さも、弱点も知り、人に語れると自負しているんです」

世界進出により、生活のなかでアサヒを楽しむ人たちを見つめ「期待を超えるおいしさ」を目指す仲間が世界中に広がっていく。スタッフとアサヒを楽しむ顧客、コミュニティ、すべてのステークホルダーが共創し、ブランドを育て上げていくだろう。

財務、攻めの世界戦略を語る小路氏の目は力強く、その一方で、社員へのまなざしや一口のビールを楽しむ人にフォーカスする視線は、温かく優しい。座右の銘は「強くなくては生きていけない、優しくなくては生きる資格がない」(レイモンド・チャンドラー)。強く優しく、グローバルかつローカルで、ダイナミックかつ繊細な革新は今日もまた続いていく。

小路明善

アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
https://www.asahigroup-holdings.com
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。