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小泉啓典
KOIZUMI HIRONORI

小泉啓典

東昇技建株式会社 代表取締役

消費者の不利益解消を念頭に
地盤調査・改良を軸とした事業を展開
地盤調査・改良の四国トップシェアを誇る、東昇技建株式会社。戸建て住宅からビルやマンション、商業施設まで、規模を問わず地盤に関わるあらゆる業務を行える四国唯一の企業である。
小泉啓典
不正データの入力および改竄を
防止するシステムをいち早く導入

「地盤調査の業界は、意外に歴史が浅いんですよ」と語る、代表取締役の小泉啓典氏。日本で初めて地盤調査が行われたのは1923年の関東大震災がきっかけだが、以後も国の研究的な意味合いが強く、民間の地盤調査・改良会社が増え始めたのは1980年代半ば以降のこと。阪神・淡路大震災後の2000年に建築基準法が改正され、地盤調査が実質的に義務化されてから本格的に普及するようになったが、東昇技建が設立されたのもちょうどそのころだ。

それまで小泉氏は、地元の松山で土木系の会社に勤めていた。起業意欲などなかったが、会社を辞める際に仕事仲間から今後も一緒に仕事をしたいから会社をつくってほしいと頼まれた。そこで頭に浮かんだのが地盤調査だ。
「義務化以前は、住宅の地盤対策は必要に応じて大手ハウスメーカーが行う場合が多かったのですが、下請けとして基礎工事をよく手がけていたのです」

当時、地元の松山に地盤調査専門の会社は1社のみ。十分にビジネスチャンスがあると睨んだ。01年に会社を立ち上げた時点では取引先ゼロからのスタートだったが、まずは技術力のある県外の地盤調査会社の下請けに入り、ノウハウを学びながら仕事をしていくと、順調に業績は伸びていった。
創業当初は、技術以前に地盤調査の存在や必要性を建築会社や一般の人びとに周知していく努力が必要だったと語る小泉氏。

目に見える建物の部分と違い、地盤は地中なのでイメージしづらい。経営理念である「信頼と安心をお届けする」を実践するうえでも、イメージではなく事実として、消費者の目線で理解できる透明性が必要だと小泉氏は感じていた。05年に一級建築士による構造計算書偽造事件が大いに世間を騒がせると、さらにその思いを強くしたという。

そこで東昇技建は、08年に「GeoWeb(ジオウェブ)システム」が登場すると、これをいち早く導入した。ジオサイン社が開発したこのシステムは、地盤調査試験機に組み込むことで、GPSによる位置情報、タイムスタンプ、地盤調査データなどをネット通信によってリアルタイムで送り、その際に第三者電子認証を行うことで不正なデータの入力や改竄を防止することができる。

「また全自動調査機なども積極的に導入することで、人為的に操作されない明確で正しい測定値取得を標準化し、安定した地盤調査結果で改良が必要かどうかを見極め、お客様にもわかりやすくご説明しています」
こうして成長を続け、四国外への進出も視野に入れるまでになった東昇技建。しかし小泉氏は現状に満足はしていない。

小泉啓典
時代を睨み、B to Cへの転換や
新規事業展開に積極的に取り組む

「この業界はBtoBが当たり前。消費者に直接ご提案できないもどかしさを感じています」
施主が地盤調査会社を指名することは可能なのだが、それを知っていて、実際に指名するケースはごく稀だ。「5分でも直接プレゼンさせてもらえたら、受注させていただける自信はあります」と語る小泉氏。設立20年を機に、今後はBtoCへの転換を図り、消費者が地盤調査会社を選べる場を構築する手立てを考えていると言う。
その一方で、18年からはリスクヘッジの意図もあって地盤調査・改良以外の事業展開も開始した。

「大規模な地盤調査・改良の機械は1台で億を超えます。仕事が増えるのは嬉しいのですが、それにつれて機械を買うペースも上がっていくのは痛いところでもあります。今後は労働人口減少の問題もありますし、比較的設備投資が少なく全国展開できる事業をしたいと以前から考えていました」
そして巡り合ったのが、「瞬間吸水材セルドロン」。東京のベンチャー企業が開発したこの素材は、古紙をパウダー化することでつくられるセルロース繊維の微細粒子で、質量の4~7倍程度の水分を瞬時に吸収する。

「弊社には地盤改良材として売り込みがあったものなのですが、ちょうどそのころに広島で豪雨災害があり、そのニュースを見て土砂処理などに使えると思いました。すぐにその会社に出資するとともに商事会社を立ち上げ、独占販売することにしたのです」

豪雨災害や建設工事で発生する流動性の高い泥土は、そのままでは処理しづらいが、かといって石灰やセメントを用いて固めると産業廃棄物扱いになって始末に困る。その点セルドロンは生分解されて土に還るので環境に負荷をかけない。
「ため池や河川の浚渫工事にも使えますし、20年には国土交通省新技術情報提供システム『NETIS』に生コン処理工法として登録もされました。SDGs推進にもつながる、未来への可能性を秘めたこの素材を普及させることは、当社の使命だと思っています」

今後も経営理念と合致するものを捉えて事業構築し、東昇技建が100年後も存在するための礎となりたいと語る小泉氏。その実現に向けて、意欲的に挑戦を続けていく。

小泉啓典

東昇技建株式会社 代表取締役
https://www.tosho-g.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。