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柏原朋英
KASHIHARA TOMOHIDE

柏原朋英

株式会社ウーヴルコンサルティング 代表取締役

細やかなマッチングで人材の定着を促し、
働き手も企業も成長できる飲食業界を目指す。
倒産が急増する飲食業界で、飲食専門の人材紹介業を展開する株式会社ウーヴルコンサルティング代表取締役の柏原朋英氏は、「定着率」こそが鍵だと説く。入社をゴールとせず、個人の人生と企業の未来を重ね合わせる徹底的な対話、そして現場環境を変革するコンサルティングで、業界の常識を覆す。
柏原朋英
画像はイメージです。
求人広告に頼らない。人材定着戦略が示す可能性

近年の飲食業界の危機は、かつてないほど深刻だ。帝国データバンクによれば、2024年における飲食店の倒産件数は、過去最多の894件。コロナ禍の時期を上回る数値だ。この傾向は、2025年になってさらに加速している。原因のひとつは、「働き手が集まらない」「後継者がいない」といった人手不足による廃業だ。

だが、柏原氏はこの社会課題の真因は別にあると説く。
「本当の問題は、短期間で離職してしまう『飲食業の低い定着率』にあります。『聞いていた話と違う』『職場の雰囲気が合わない』といったミスマッチから早期離職につながるケースは、後を絶ちません」
同社にとって、紹介後の入社はあくまでもスタートに過ぎない。求職者がその会社で活躍し、面接官として採用側に回ることが彼らにとってのゴールだ。同社のアプローチは、企業と求職者、双方との徹底的な「対話」にある。求職者に対しては、「子どもの大学進学の時期に合わせて収入をピークにもっていきたい」といった人生設計まで話し合う。

企業に対しても、3年後・5年後の事業計画やビジョンを問いかける。個人の人生設計と、紹介先企業の成長フェーズを重ね合わせていくことが、定着支援の秘訣だ。さらに、密な対話は、詳しい内情を引き出すことができる。管理職の交代に伴う現場のオペレーション変更などは、求人情報になかなか反映されないが、担当者と頻繁なコンタクトをしていれば、求職者に最新の情報をあらかじめ伝えておくことが可能だ。

しかし、どれほど丁寧にマッチングを行っても、受け入れ側の企業の環境が不十分であれば、人材は定着しない。柏原氏のもうひとつの武器は、卓越した経営コンサルティング力にある。非効率な長時間労働の原因となっているオペレーションを抜本から見直す。ムダを減らし、利益率を改善することでスタッフへの還元原資を捻出する。成果報酬型で受ける相談は、他のコンサルタントで失敗した飲食店にとっての「駆け込み寺」的存在となっている。

「飲食業界における最大のムダなコストは、求人広告費だと私は思っています。人を定着させ、熟練度を上げれば、労働生産性は上がり利益も出ます。まずは『飲食業だから定着率が低い』という大前提を疑うことが大切です」
実際、同社が運営する店舗には、高校・大学時代を通して働く学生や20年以上働く主婦が、当たり前のように在籍している。

柏原朋英
企業存続率0.4%の未来を変えるために

長年にわたり、人材紹介を通じて飲食業界企業の上場や海外展開を支援してきた柏原氏。他社の組織課題にこれほど深く切り込めるのは、彼自身が「成功」と「失敗」の両方を味わってきたからだろう。若き日の柏原氏は、いわゆるスーパープレイヤーだった。
25歳でラーメンチェーンの店長を任されると、初日に歴代最高の売上記録を樹立。さらに、最も業績が低迷していた店舗の売上を倍増させ、周囲の度肝を抜いた。だが、その才能は諸刃の剣でもあった。

「学生時代、私はアルバイトながらマネージャー業務までこなしていましたが、『周りもできて当然』と考え、年上のスタッフにも一方的に厳しい要求をしてしまったのです」
待っていたのは孤立だった。現場の空気は、店舗運営に支障をきたすまで悪化し、柏原氏は他店に異動せざるを得なくなった。
「ひとりで突っ走ってはいけない。人を巻き込まなければ組織は動かないのだと思い知らされました」

過去の自分を反面教師として、自社の組織づくりにも活かした。同社は2012年からフルリモートワークを導入しているが、その際、「どうすればサボらず、かつ快適に働けるか?」を社員全員で議論し、就業規則やマニュアルをつくり上げていった。その結果、子育て中の母親や社長を目指す20歳など、多様な人材が集まる職場となった。年齢層の幅は、一時期17歳から92歳まで広がったこともある。

社員の提案から、新たな事業も次々と生まれている。「人材育成型店舗」もそのひとつだ。未経験OKを謳った求人でも、実際は撥ねられてしまうことが多いため、自社店舗で経験を積ませてから斡旋してはどうか。このアイデアはすぐ形となり、発案者は店舗経営も任された。

「人が育つ組織」を体現している柏原氏が危惧するのは、あまりに過酷な企業の生存競争だ。
「企業の存続率は、20年後にはわずか0.4%にまで下がると言われています。1000社のうち4社しか生き残れない。この厳しい現実を変えていきたいのです」
企業が倒産すれば、負債が残り、そこで働く人々の生活が脅かされる。逆に、一社でも多く存続すれば、日本の景気全体が底上げされていく。飲食店の「定着率」を上げる取り組みは、社会の豊かさを次世代へつなぐための挑戦にほかならない。

柏原朋英

株式会社ウーヴルコンサルティング 代表取締役
https://oeuvre-c.net/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。