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DX推進のカギとなるモダナイゼーション
経済産業省が2018年に発表したDXレポートで話題となった「2025年の崖」。これは、日本企業のDXが推進されなければ、2025年以降に莫大な損失が発生すると予測したものだ。なかでもDX推進において大きな課題として挙げられたのが、既存システムが時代遅れのものになってしまうレガシー化。1988年にAS/400の名で登場し、日本でも多くの企業で導入されてきたIBM iなどは、いわゆるレガシーシステムの代表格とされてきた。
「IBM iはその優秀さと堅牢さゆえアップデートの必要がなく、結果的に多くの企業でシステムのブラックボックス化が進んでいるようなケースが見られます。しかし、社内で利用されているアプリケーションの状況を見直すなど、そうしたブラックボックスを解消し、オープン系の開発言語への切り替えやAPIによる外部システムとの連携などを行なっていけば、多くの時間やコストを掛けることなくシステムをモダナイゼーションすることが可能です。企業が蓄積してきた財産ともいえるデータを有効に活用し、既存のシステムを現代のビジネスに即した形で変革するモダナイゼーションは、企業がDXを実現するうえでの重要なステップ。当社ではそのために必要な数々のソリューションや技術情報の提供を行なっています」
そう話す柿澤氏の父が1991年に創立した三和コムテックは、設立当初からアプリケーションの基盤整備などを通じ、IBM iコミュニティの発展に大きく貢献してきた。その後の2006年には、ホールディングス会社の三和インベストメントと三和コムテック(新)に会社分割。
事業を継続する三和コムテックでは現在も、顧客企業に向けた保守業務に加え、最先端のIBM iソリューションによるシステムのモダナイゼーション支援を行なっている。また、最近もIBM関連技術に特化したITプロフェッショナルの世界的なコミュニティであるCOMMONの日本展開を主導するなど、IBM i技術者に向けた啓蒙や発信にも力を入れ続ける。
そうしたIBM関連事業に加え、同社では早くから優れた海外パッケージ製品の輸入・販売や、日本企業に向けたカスタマイズ・導入支援を行ってきた。さらに近年では自社開発にも注力。
父から事業を継承して自らが舵取り役となり、新体制への移行が完了した2022年を「第二創業」と位置付ける柿澤氏が掲げたのが、「お客様が求める価値を自ら創造し、世界を幸せにするよう邁進する」というパーパスだ。
継承と進化、そして発展への挑戦
柿澤氏は父の転勤などで13歳までシンガポールやオランダ、イギリスなどの海外で過ごし、日本の大学を卒業後は証券系のシステム会社に入社。IT黎明期にシステム開発のキャリアをスタートし、その後は日本IBMで中小企業の顧客に向けたゼネラルビジネスに関わるなど、エンジニアとして研鑽を重ねた。
「IBMでの仕事に充実感はありましたが、もともと海外で経験を積みたいという思いがあり、30歳になる頃に父の会社に転職しました。当時、当社はアメリカのスキャンアラート社が提供するWebサイト向けのセキュリティ診断サービスの国内販売事業を進めていたのですが、意志の疎通などの問題があり日本向けの適応などが不十分でした。そこで私が現地に駐在して間に入り、開発元とともに日本のカスタマーに向けた調整などを行ったのです」
結果、同社が日本に導入したサービスは多くの企業で使われるようになり、スキャンアラート社が別会社に買収された後も引き続き日本での独占販売権を与えられるなど、柿澤氏の貢献は高く評価された。しかしその数年後、柿澤氏は日本IBMに復帰する。
「私自身が海外のIT業界を見て視野を広げていたこともあり、柱となるIBM関連事業があるからと安心し、新たな事業への投資を行わない当時の当社の状況に不満を感じたのです。だからこそ、事業を承継すると決めて会社に戻る際には、お客様に新たな付加価値を提供するために、自分たちに何ができるのかを考え抜くところからスタートしました」
IBM関連事業という自社のレガシーを進化させながら守りつつ、AIなどの新技術も貪欲に取り入れ新たな価値創造を目指していく。柿澤氏が体現するそうした変革には、多くの日本企業のDX推進のヒントが詰まっている。
「当社では社長が一番忙しいのは当たり前。社員の意識を改革するには、リーダーが自ら先頭に立って動き、メンバーに新しい風景を見せてあげることが大切だと思っています」
今やIBM関連事業を逆転する規模になったセキュリティ関連ソリューションをはじめ、AIを活用したサービスやハイブリッドクラウド関連ソリューションなど、生産性向上のみならずプラスアルファの付加価値を顧客企業に提供する数々のソリューションを提案。優れた海外製品の発掘や日本向けのカスタマイズなど、従来の強みはさらに強化しながら、第二創業期を迎えた同社では海外市場への展開にも挑戦する。
「日本から海外に出るIT企業はまだほとんどありませんが、だからこそ当社が先駆けとなれるよう挑戦したい。そこで現在は、イスラエルやアメリカをはじめ、当社が海外にもつ多くの技術提携先企業との関係をより深めると同時に、近隣のアジアの国々の若手人材の採用も進めています。将来的には、当社でIT技術者として経験を積んだ彼らに橋頭堡としての役割を担ってもらい、日本の技術や人材の海外輩出や、海外VCとの連携なども模索していきたいと考えています」
ITや新技術の導入はそれ自体が目的ではなく、あくまでも自社のビジネスを加速させるための手段に過ぎない。大切なのは、自社のDX推進の先にある大きなビジョンを描くこと。柿澤氏が率いる三和コムテックの新たな挑戦は、そんな大切なことを教えてくれる。