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細江千鶴子
HOSOE CHIZUKO

細江千鶴子

株式会社キャマラード 代表取締役

健全な経営で安定した雇用を保持しつつ、
入居者の生活を見守る高齢者向け住宅。
慢性的な人材不足に悩まされている介護業界。そうしたなか、職員を大切にすることで質の良いサービスを提供し、満床が続く施設もある。「損得を考えていると何もできない。目の前に困っている人がいれば、手を差し伸べられる人間でいたい」と、株式会社キャマラードの代表取締役である細江千鶴子氏は話す。
細江千鶴子
画像はイメージです。
介護業界の未来を切り拓くために

細江氏が運営する岐阜県岐阜市のサービス付き高齢者向け住宅では、介護業界の未来を切り拓くための多彩な取り組みを行っている。サービス付き高齢者向け住宅とは、安否確認や生活相談のサービスが受けられる高齢者向けの賃貸住宅を指す。自由度の高い生活が特徴で、自立した入居者が多いが、要介護者も入居可能。介護が必要な場合は外部サービスを利用する。同社はアムール本館と同2号館の2棟の施設を運営するほか、訪問介護事業所を併設し、介護サービスも提供している。

「以前は岐阜市民病院で看護師として働いていました。しかし、東日本大震災で故郷の福島県南相馬市が甚大な被害を受け、より人の役に立ちたいと思って介護の世界に飛び込みました。介護は高齢者と向き合いながら、残りの人生を楽しく過ごしてもらうためのお手伝いをする仕事。病院からの紹介で末期がんの患者さんも受け入れており、看取りも行っています。最期まで人間らしい生活を送ってほしいというのが私の願いです」

アムールでは安否確認や生活相談に加え、健康面ではバイタル測定(血圧、脈拍、熱、排便管理)を、食事面では食事量や義歯のチェック、口腔ケアを毎日実施。普段の生活では、入浴や洗濯、居室の掃除に関する管理を行う。こうした業務で「日常生活の満足」を提供し、さらに「四季折々の食材による料理で満腹」、「レクリエーションで遊び心満載」という3つの“満”を強みとしている。

「食事は約60坪の自社農園で採れた野菜を使って手作りしているほか、ご家族を招待するイベントも定期的に開催しています。認知症の進行を抑えるためにも、入居者さんが集まりやすいスペースを用意し、日頃からレクリエーションにも積極的に取り組んでいます。おかげさまで皆さん元気で、全30部屋ある本館は満床が続いています」

細江千鶴子
高齢者の方々のために、何ができるか

細江氏の考えはシンプルだ。満床になれば経営の安定化に繋がり、十分な賃金を払うことができれば職員の生活が守られる。安定した雇用体制によって職員の精神面も満たされれば、入居者の生活を必要十分以上にケアすることができる。そこで、看護師時代のコネクションを活用するなどして入居者確保のための営業に自ら奔走したところ、すぐに満床になったという。

「業界の平均よりも高い賃金を払い、昇給も実施し、賞与も支給できています。私にとって職員は、入居者さんと同じくらい大切な宝物のような存在。働き方についても、職員が希望する給与を払えるようにするには、どんな勤務シフトが可能なのかを本人と相談しながら決めることもあります。休日出勤すればそれだけ給与は増えますし、職員の生活を考えるのも経営者の務めだと考えています」

日々の業務の中でも、勤務姿勢や入居者に対する態度を厳しく指導する反面、満床を保持した月には手紙付きのクオカードを贈ったり、LINEで激励のメッセージを送ったりするなど、細やかな配慮を欠かさない。職員の募集も、求人広告に頼ることなく、日々の生活の中で出会った人たちに声掛けを行い、採用に至ることが多いという。最近は外国人の採用も積極的に行っており、現在6人の中国人を雇用している。

「入居者さんへの食事も、私が職員と共に調理しています。それだけ毎日の業務に手間暇をかけ、お金も使っているのですが、損得は考えていません。入居者さんや職員に喜んでもらえることをしたいだけ。そう考えるようになったのは、東日本大震災がきっかけでした。あの日、助かった人と助からなかった人がいて、自分も明日はどうなるのかは誰にも分からない。だったら好きなことをしようと思うようになりました。今日一日が無事に終わり、施設を問題なく運営することができれば、それでいいかなと思っています」

そう話す細江氏の今後の目標は、医療にも力を入れるために訪問看護ステーションを設立することだ。すでに申請の段階まで進んでいるため、2025年度中の開業を目指している。高齢者と子どもが交流できるような、地域に密着した施設の設立にも意欲を見せる。さらに、故郷である南相馬市に老人ホームをつくることも考えている。

「高齢者の方々のために何ができるのかを日々考えています。目の前に倒れている人がいれば、私は助ける人間でありたい。この話は職員にもよくするのですが、なかにはできないと正直に話す職員もいます。でも、常にこの話をすることで、いざその場面に出くわした際に、その職員は助ける行動を起こすかもしれません。他人事として捉えると、損得勘定が芽生えて何もできなくなってしまいますから」

これまで、がむしゃらに頑張って結果を出し、ここまで来たという細江氏。その考えが受け継がれることによって、介護の理想的な在り方への関心と理解が深まっていくに違いない。

細江千鶴子

株式会社キャマラード 代表取締役
https://camarade-amour.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。