港湾工事を行う潜水士の仕事
豊かな自然、美しい景観、安全安心な生活環境を守るため、海で活躍する「潜水士」。映画やドラマの影響で海難救助を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実は潜水士の仕事は多岐に渡る。
海底の地質や海洋生物を調べる海洋調査、護岸や防波堤を建設する際の水中土木工事、海難船舶の救助や引き揚げ、流出した油類などの回収、船底の清掃に点検補修作業……。潜水具を着用して水中に潜り、台風や高波、津波といった自然災害の危険とは常に隣り合わせだ。
「作業中、災害が起きれば最初の被害者になり得る一方で、作業船の管理ミスにより環境を破壊する側に回ってしまう可能性もある。自分たちと地球環境を守るため、『自然と調和した事業』を後世に伝えていきたい」。──こう語るのは港湾工事を中心に行う株式会社KAITO代表取締役の星野知己氏。大正時代から続く家業を継ぎ、現在5代目。法人としては設立65年目を迎える。
水中土木工事に従事する場合、水中にいる時間は1日約5~6時間。空気のない場所で行う海中溶接や切断をはじめ、安全な作業遂行には高い技術力や経験、判断力が求められる。だが、「先人たちから脈々と受け継がれてきた伝統はそれだけではない」と星野氏は語る。
「昔は今のようにモノが溢れていたわけではなく、道具が壊れてしまうと現場の作業が止まる。そうならないためには壊さないよう大事に扱うこと。潜水用のホースを直に地面に置いたり、跨いだりしたら先輩から怒られたものでした。道具を常に綺麗に保つことは、モノに対する感謝はもちろん、異常をいち早く見つけるためでもあります」
例えば、作業船のエンジンルームに溜まった水を発見した場合、それが雨水なのか海水なのかを判断しなければならない。海水の場合は船底に異常が生じているかもしれず、そのまま放置して走行するとエンジントラブルにより、水没や油の流出などを招く危険性があるからだ。「小さな違和感に気付くには、普段から水滴が一滴もない清潔な状態に保っておかなくてはならない」と星野氏は言う。
「便利な世の中になりましたが、モノを大切にする気持ちは現代にも通ずると思っています。毎日の小さな積み重ねや、自然と融合する心を今の世代に伝えています」
KAITOのオフィスは、2016年度日本ログハウス・オブ・ザ・イヤー ノンセクション部門優秀賞に輝いたログハウス。近くにある山にストーブ用の薪を刈りに行ったり、草刈りなどの手入れをしたりすることで、社員教育に繋げている。チェーンソーなど機械の使い方を実習できるほか、自然への感謝や豊かなコミュニケーションが芽生えるという。こうして普段から自然に触れることで、「風が吹いてきた」「潮が速くなってきた」といった現場作業に必要な危機察知能力や判断力が培われるのだそうだ。
公共工事である港湾工事、陸上の土木工事、海や水辺の環境保全、さらには幼稚園・保育園における砂場の管理まで。KAITOの事業領域は拡大している。