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𣘺本亮介
HASHIMOTO RYOSUKE

𣘺本亮介

オジデザインワークス株式会社 代表取締役社長

見た目の美しさも働く環境も考慮した、
ブランディングに基づく医療空間をデザイン。
最近、街の歯科医院がお洒落になったと感じることはないだろうか。デザインの強みを生かした空間提案を20年前から手掛けるのが、𣘺本亮介が代表取締役社長を務めるオジデザインワークス株式会社。多彩な商業空間デザインの中でも、歯科医院の実績が多いことで知られる。
𣘺本亮介
歯科医院にブランディングを持ち込んだ先駆者

同社の空間づくりが画期的だったのは、ブランディングの概念を持ち込んだことだろう。空間に加え、ロゴマークなどのグラフィック、ウェブ、セールスプロモーションツールなど、様々な分野のクリエイターが集まり、マーケティングの観点からブランドを構築。完成後に顧客や患者が集まり、ビジネスとして継続していけるかどうかという点を重視している。

「私たちの強みはトータルでプロデュースできること。名刺などの印刷物も手掛けますし、ユニフォームのデザインや店のBGM選びを担当したこともあります。ラーメン屋なら、1度食べれば美味しい店かどうかが分かりますが、歯科医院は1回通ったくらいでは判断できません。ですから、長期戦略のブランディングが医院を経営していくうえで大きな要素になるのです」

歯科医院の場合、空間の美しさだけでなく、機能性においても工夫を盛り込んでいる。たとえば、一般的に診療台は座り心地が硬めのものが多いため、待合室の椅子をさらに硬いものにして、患者が診療台に座った時に心地よく感じるように配慮する。医師側の空間についても、すべての人間の動線を計算し、歯科医や歯科衛生士が働きやすいようにプランニングしていく。患者の近くに長くいすぎるとストレスを与えてしまうため、姿を隠すスペースを設けるなど、20年間の研究によって蓄積されたノウハウを注ぎ込んでいる。こうした手法に行きついた背景には、他業界のクリエイターとの出会いが大きかったという。

「たとえばアートディレクターの考え方は商業ベースなので、どうすれば商品を手に取ってもらえるのか、サービスが売れるのかを日々研究しています。”格好いい“と”売れる“の両立を目指しているわけです。いっぽう私たちの業界では、お金も時間もかけてひたすら空間の格好よさやお洒落さを追求するのが王道といったところがありました。マーケティングという商業の観点から顧客のビジネスモデルを理解することの大切さを知ってからは、それを生かした空間づくりに挑戦しています」

ある歯科医院では、床材や壁材はごく普通にしつらえ、巨大なシロクマのぬいぐるみを1体置くことで医院のイメージを決定付けた。これもブランディングの一環。歯科医師が元ラガーマンで熊のように大柄な人だったことから、親しみをもってもらうために”シロクマ先生“という設定を考え、医院の名前もそれにちなんだものにした。

𣘺本亮介
空間デザインの力で歯科業界に変革をもたらす

「従来、優れた空間デザインは、多額の予算を出してくださる顧客や、難しい仕上げや施工を担当する職人や施工会社の功績に負うところが多くありました。空間デザイナーが果たす役割は、それほど大きくない場合もあるわけです。私たちは、空間デザイナーでなければできないことをしたかった。シロクマのぬいぐるみは市販品で、決して高価なものではありません。お金をかけなくてもブランディングができると証明できたことは、大きな意味がありました」

実際、同社が手掛けた歯科医院の売上は、全国平均の2〜3倍になることもある。評判が伝わり、婦人科や皮膚科、美容施設など、医療空間全般へ仕事が広がっていった。さらに評判は海外にも伝わり、同社が設計した中国・北京の大型健康複合施設「Sunny Bay」は、2017年に世界的権威のある北米照明学会照明賞 インテリア照明設計賞を受賞。2020年には、産婦人科医院でグッドデザイン賞を受賞した。

「Sunny Bayは先方から指名されていただいた仕事です。当社が選ばれたのは、使い勝手をはじめとした商業空間としての機能性に加え、美しさや華やかさといった意匠とのバランスがよかったことが評価されたからだそうです。実は、デザイン業界からの評価はあまり気にしておらず、むしろ一般の人たちに知られているグッドデザイン賞をいただけたのはうれしかった。多くの人に知られている賞は、医院のその後の経営にもよい影響を与えるからです」

最初の歯科医院を手掛けた後、𣘺本氏はあることに気付いた。患者だけでなく、就職を希望する人材も多く集まったのである。労働人口の減少による人材不足問題が注目されるなか、𣘺本氏はCS(顧客満足度)だけでなくES(従業員満足度)も重視した空間づくりを考えるようになった。

「この20年間で歯科業界は活性化され、働く場としてのイメージもよくなりました。現在は歯科以外の医科の顧客に対しても、CSやESを向上させ、安定した経営に繋げることができています。今後はオフィスや店舗など、どんなビジネスにおいても、働く環境のブランディングが人材獲得や経営戦略の面で有効になることを発信していきたい。働く場を空間デザインの力で最適化するスペシャリストとしての道も、極めていきたいと思っています」

𣘺本亮介

オジデザインワークス株式会社 代表取締役社長
https://www.ozidesignworks.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。