歯科医院にブランディングを持ち込んだ先駆者
同社の空間づくりが画期的だったのは、ブランディングの概念を持ち込んだことだろう。空間に加え、ロゴマークなどのグラフィック、ウェブ、セールスプロモーションツールなど、様々な分野のクリエイターが集まり、マーケティングの観点からブランドを構築。完成後に顧客や患者が集まり、ビジネスとして継続していけるかどうかという点を重視している。
「私たちの強みはトータルでプロデュースできること。名刺などの印刷物も手掛けますし、ユニフォームのデザインや店のBGM選びを担当したこともあります。ラーメン屋なら、1度食べれば美味しい店かどうかが分かりますが、歯科医院は1回通ったくらいでは判断できません。ですから、長期戦略のブランディングが医院を経営していくうえで大きな要素になるのです」
歯科医院の場合、空間の美しさだけでなく、機能性においても工夫を盛り込んでいる。たとえば、一般的に診療台は座り心地が硬めのものが多いため、待合室の椅子をさらに硬いものにして、患者が診療台に座った時に心地よく感じるように配慮する。医師側の空間についても、すべての人間の動線を計算し、歯科医や歯科衛生士が働きやすいようにプランニングしていく。患者の近くに長くいすぎるとストレスを与えてしまうため、姿を隠すスペースを設けるなど、20年間の研究によって蓄積されたノウハウを注ぎ込んでいる。こうした手法に行きついた背景には、他業界のクリエイターとの出会いが大きかったという。
「たとえばアートディレクターの考え方は商業ベースなので、どうすれば商品を手に取ってもらえるのか、サービスが売れるのかを日々研究しています。”格好いい“と”売れる“の両立を目指しているわけです。いっぽう私たちの業界では、お金も時間もかけてひたすら空間の格好よさやお洒落さを追求するのが王道といったところがありました。マーケティングという商業の観点から顧客のビジネスモデルを理解することの大切さを知ってからは、それを生かした空間づくりに挑戦しています」
ある歯科医院では、床材や壁材はごく普通にしつらえ、巨大なシロクマのぬいぐるみを1体置くことで医院のイメージを決定付けた。これもブランディングの一環。歯科医師が元ラガーマンで熊のように大柄な人だったことから、親しみをもってもらうために”シロクマ先生“という設定を考え、医院の名前もそれにちなんだものにした。