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春木篤
HARUKI ATSUSHI

春木篤

医療法人正育会 春木レディースクリニック 理事長

患者に選ばれるクリニックが描く、成長の好循環
多くの夫婦が不妊症に悩む現代日本において、専門のクリニックがある。科学的根拠(エビデンス)と患者との対話(ナラティブ)を両輪にした、春木レディースクリニックだ。同院では妊娠数のほか、初回胚移植の臨床妊娠率など年齢層別の成績も公表しており、治療成績を明確に示している。理事長である春木篤氏の哲学に迫った。
春木篤
「エビデンスに始まり、ナラティブに終わる」

5.5組に1組の夫婦が不妊症に悩み、検査・治療を受ける時代となった。いざ妊娠を望んだとき、どの医療機関の門を叩けばいいのか、多くの人々が迷っている。専門性の高くない場所で時間を費やした結果、貴重な妊娠の機会を逸してしまうケースも少なくない。そんななか、驚異的な実績を叩き出すクリニックがある。春木篤氏が率いる、春木レディースクリニックだ。胚移植あたりの臨床妊娠率は国内でも高い水準を維持しており、2024年の妊娠者数は1339人に達した。

同院の医療コンセプトは「エビデンスに始まり、ナラティブに終わる」。科学的なデータに基づいた複数のプランを提示し、納得したうえで選択してもらう姿勢がそこにはある。心理的ストレスの多い不妊治療において、メンタルケアは極めて重要だ。診察には事務作業を補助するクラークが同席し、医師は患者との対話に集中する。不妊カウンセリング学会から優秀賞を得たカウンセラーも揃っている。しかし、「あくまでも結果を出すことが前提で、そこに加えて高いホスピタリティを実現していくことが我々の使命です」と、春木氏は言い添える。

治療成績の向上を目指す取り組みに加えて、春木レディースクリニックの大きな強みは痛みやリスクを最小限に抑える体制を整えている点だ。通常、子宮卵管造影検査は強い痛みをともなうと患者に恐れられているが、無痛処置を前提としたトレーニングが徹底されている。「そもそも不妊治療を受ける方は病気でもなんでもない『健康体』だと考えています。それなのに痛みを感じてしまうなど、あってはならないことです」

採算を度外視して高価な全身麻酔薬を使用し、安全のため最新式の取り違え防止システムも導入。さらに2022年から不妊治療は一部が保険適用となり、自由診療で得られていた収益は抑えられる傾向にある。高コストと収益減の双方にもかかわらず、クリニックは安定して成長を続けている。最大の要因は妊娠者数の多さだ。クチコミを中心として、初診患者数が毎年10%で増え続け、年間初診患者数が2000人に迫る。一方で、高度な治療体制により、比較的短期間で結果が得られるケースも多く、初診患者数が多くても待ち時間は短く、一日最大10名の初診患者の受け入れが可能で、一人ひとりの患者に丁寧に対応する余裕を保てている。妊娠者数が少ないクリニックでは、患者数は溜まっていく一方のため、何度も初診の受け入れを止めざるを得ないことを考えると実力の差は歴然だ。

春木篤
“全員戦力”の不妊治療

消防士の家系に生まれ育ったという春木氏。医師という道を意識したのは小学二年生の時、祖父の死がきっかけだった。「当時は死の意味が分からず、自分が何かすれば、生き返ってくれるんじゃないかと思っていました」。その悲しみが原動力となった。

産婦人科の研修医として迎えた当直の夜、緊急事態が起こる。出産後に多量の出血をした患者が緊急搬送されてきたのだ。当時体調が悪かった上級医が止血処理を行い、集中治療室で若き日の春木氏が単独で術後管理を行っていた。目に見える出血は止めたにもかかわらず、血圧が低いままであることに疑問を抱いた春木氏は超音波検査で腹部の奥側に血液が溜まっていることを突き止め、すぐに当時の病棟責任者へ開腹手術の必要性を進言し、明け方に行われた緊急手術のすえ、子宮の一部が破裂していた患者は一命をとりとめた。
「若い命を救うことができたのです。医師としての意義が見出せた。これが本格的なスタートでした」

だが、お産の現場で夫婦と関わるのは2~3週間程度。より長く寄り添う「キーパーソン」になりたいという思いが、2013年の春木レディースクリニック開業へと繋がった。高いレベルの医療を実現するため、春木氏が最も力を注ぐのが院内教育だ。
「自分が幸せになるためには、まず自分に関わる人々を幸せにすること」をモットーに、全職員がチームとしてフォローし合える体制づくりに心血を注ぐ。医師や看護師だけでなく、受付やアシスタント、管理部門のスタッフに至るまで、新人時代に不妊治療に関する勉強会の参加と到達度試験が課されている。また、管理職になるためには不妊カウンセラーの資格が必須条件だ。「何気ない電話対応であっても、不妊治療に関する知識がないと、患者さんの妊娠や流産に影響を及ぼす可能性があります。誰もが不妊治療のプロフェッショナルでなければなりません」

クリニックからの「卒業」後に寄せられる感謝の手紙は、会議の場でAIに読み上げさせている。10分ほどの間、皆が噛みしめるように聴く。そんな声を束ねたファイルは、すでに何十冊にもなる。春木氏にとって何よりも大事な宝物だ。
「たとえば、三十代半ばで子どものいない人生を考えていた方が、ここに来て妊娠し、さらに二人目が双子で生まれて、子だくさんになりました。苦しい思いが笑い話に変わるようなとき、つくづくこの仕事をやっていてよかったと思います」

春木レディースクリニックは2026年春、心斎橋駅直結の新ビルへ移転し、さらなる規模拡大に踏み切る。頻繁に通う必要があり、受診者の7~8割が働く女性を占めるようになった不妊治療において、通いやすさは治療継続の鍵を握る。利便性向上と施設・スタッフの拡充により、年間妊娠者数2000人を超えることが目標だ。そしてその先は大阪での分院展開から、全国に進出する未来を見据えている。エビデンスという揺るぎない礎の上に、患者一人ひとりの物語を丁寧に紡いでいく春木氏の挑戦は、これからも多くの家族に希望の光を灯し続けるだろう。

春木篤

医療法人正育会 春木レディースクリニック 理事長
https://haruki-cl.com
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。