サービスの質を維持することで会社を再建
「元々運送会社は父が経営しており、私は大学を卒業後、その取引先であるトラックディーラーで整備士として働き始めていました。ところがその翌年、父の会社に7億を超える借金があることが判明。父の会社の従業員の方々には昔からかわいがってもらっていましたし、その人たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。そこで父の会社に転職した後、立て直しを図るために役員をしていた姉と共に同名義の新会社を設立して、代表取締役に就任したのです」
その際に旧会社の債務も引き継いだため、資産の売却を行いつつ、毎月600万円もの負債を返済していかなければならなかった。しかし、幸いドライバーたちが辞めずに新会社についてきてくれたため、地道に業務を続けることで会社を再建することができたという。
「弊社では、安売りはしないようにしており、その代わりに効率化を徹底しています。運賃を安くして仕事を取ろうとしていくと、価格競争に巻き込まれてドライバーの賃金も減らさざるをえない。ドライバーは走って稼ぐ仕事なので、そうなると疲れていても長く乗車しようとするんです。結果、寝坊や事故が増えて、お客様に荷物が届けられなくなるという悪循環に陥りやすい。弊社は価格競争に参加しなかったので、一時は安い運賃の会社にお客様が流れて仕事が減った時期もありましたが、やがて戻ってきてくださいました。サービスの質を保ち続けたことで、お客様の信頼が得られたのだと思います」
21年6月には、すべての負債を返済し終えた総和運輸。再建を実現した船橋氏が6年ほど前から力を入れているのは、若手ドライバーの育成だ。
「弊社は勤続年数の長いドライバーが多く、50代以上のベテランもたくさんいます。ただベテランの経験は頼りになる反面、車の運転という業務において加齢による衰えは無視できません。依頼が増えて仕事をさばききれなくなった際にドライバーを増員する必要があったのですが、先のことを考えて、経験者を募るよりも若手を一から育成しようと考えました」
そこで、15年にはドライバー志望の新入社員に対して大型自動車免許の取得支援を開始し、地方から出てくる若者のための社宅も品川区に用意した。そうして毎年数名を採用してきたが、20年から21年にかけては毎月1~2名、1年足らずで実に13名を社員として迎え入れた。