Powered by Newsweek logo

藤井健太郎
FUJII KENTARO

藤井健太郎

バイオゾーンメディカル株式会社 代表取締役

130年企業を再設計し、
世界の医療に挑む。
糖尿病によって、日本では今も年間約1万人が足の切断を余儀なくされている。この深刻な社会課題に世界初の医療機器で挑むのが、富山の老舗企業、バイオゾーンメディカルだ。金融の世界から転身した異色の経営者・藤井健太郎氏は、いかにして創業130年の企業を再設計したのか。その軌跡を追った。
藤井健太郎
画像はイメージです。
足指の切断を救う、世界初の医療機器

三大成人病のひとつ、糖尿病。国内の患者数は1,000万人を越えるとされている。その深刻な合併症の一つが、足の血流が著しく低下する下肢動脈疾患だ。心臓から遠い膝下の血管は細く、また複雑な動きに晒されるため、血管を広げる治療機器(ステント)の適用は困難とされてきた。足指の壊死により、年間数千人もの患者が、切断を余儀なくされている。

こうした社会課題に挑むのが、バイオゾーンメディカル株式会社が製造に携わる、膝下動脈用ステントデリバリーシステムである。金属製のステント表面に、薬剤を放出しつつ生体適合性を高める「ハイブリッドナノダイヤモンドコーティング」を施すことで、治療後に血管が詰まってしまう再狭窄リスクを軽減する。下肢動脈疾患の治療に光明をもたらす医療機器だ。

困難な医療機器の製造に携わるバイオゾーンメディカルは、130年近い歴史をもつ。明治28年、「薬の街」富山で、家庭薬を調合・販売する薬房として創業。しかし、太平洋戦争で工場が焼け落ちてしまったため、手術室の無菌化や害虫駆除をおこなう衛生管理事業へシフトした。現在、その事業領域は、国宝・重要文化財の保存から医療デバイス開発まで多岐に渡る。21世紀に入って同社を大胆に変革したのが、代表取締役の藤井健太郎氏だ。

「経営はデザインである」という哲学を掲げた藤井氏は、2004年に経営を引き継いで以来、伝統的な地方企業を、グローバル市場を視野に入れたバイオヘルスカンパニーへと再設計してきた。まず着手したのは、経営の足枷となっていた株主構成の整理だ。分散した株式を集約し、経営基盤を再建した。さらに、将来の医療機器事業を見据え、高度な殺菌・滅菌技術をもつメルシャンの子会社を買収し、技術基盤の強化も断行した。

「医療機器には高水準な最終滅菌が要求されます。技術のキャッチアップをした先に、なんらかの製造が可能になると考えていました。これまで、数多くのプロジェクトを試行錯誤してきましたが、ようやく世界でも例を見ない、オンリーワンの機器を製造できるところまで至りました」

藤井健太郎
企業価値とは、「人類の役に立つ」こと

未来を冷静にとらえる『静』の視点と、好機と見れば一気に踏み込む『動』の決断力。そんな両輪をもつ藤井氏の原点は、証券会社にあった。経営コンサルティングやM&A業務が解禁されたばかりの当時、藤井氏は新入社員ながらその新設部門に配属され、手探りで企業価値を算定する日々を送った。あらゆる業界の企業と向き合う中で、「経営とは、リスクとリターンを特定し、修正をかけ続けていくことだ」という共通項を見出した。この経験が、後に複雑な企業の舵取りをする思考の礎となっている。

その後、国際的なディールを自分の言葉で語れないもどかしさから、片道切符で渡米。めまぐるしいビジネススピードのなか、リアルな勝負の世界観を体得した。そして帰国後、バイオゾーンメディカルの前身である丸三製薬の社長から株主問題の解決を相談されたことをきっかけに、同社の経営に関わることとなった。

経営基盤の再建や事業拡張と並行して、藤井氏が取り組んだのが、組織風土の改革である。旧態依然としたトップダウンの組織では、世界には勝てない。社員ひとり一人の主体性と創造性を引き出す必要があった。

「日本企業は、海外大手の医薬品メーカーと比べても、設備や従業員の質にそれほど差はありません。明確に違うのは、『なぜ自分はこの仕事をしているのか?』という意識の深さです。海外の医薬品メーカーではどのポジションでも、それを分かりやすく人に伝えることができる。これは見習わなければなりません」

年功序列を廃止し、新卒や女性、外部からの人材を積極的に登用した。役職で人を呼ぶことを禁じ、新入社員であっても「さん」付けで呼ぶことを徹底。自分の名刺からも「社長」という肩書きを外した。こうして生まれた俊敏でフラットな組織が、膝下動脈用ステントデリバリーシステムという困難を可能にしたのだった。

この医療デバイスは2025年秋から、東海大学医学部付属八王子病院や大阪警察病院などで医師主導治験が開始される。実際に患者の膝下にステントを埋め込み、1年かけて術後の状態を検証する計画だ。2028年度には日本での承認を目指す。さらに並行して、アメリカでも治験の準備を進めている。アメリカの糖尿病患者数は日本の10倍。実に、国民の3分の1が糖尿病または予備軍である。新たな治療方法のもたらすインパクトは大きい。

「企業の価値とは、究極的には『人類の役に立つかどうか』だと思っています。本製品で培った数々の技術は、他の医療機器にも応用が効くものです。真面目な富山のものづくりを通じて、世界中の人々の健康寿命を延ばしていくことを目指します」
「メイド・イン・ジャパン」が、世界の患者を救う日も近い。

藤井健太郎

バイオゾーンメディカル株式会社 代表取締役
https://www.biozone.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。