evoltzの特許技術と信頼性
同社を牽引する代表取締役の渥美幸久氏は、中学生の頃にビートルズの楽曲に衝撃を受けて音楽にのめり込み、大学時代まではバンド活動に没頭。卒業後は住宅営業の経験を経て、2004年に父が経営する千博産業株式会社に入社した。
evoltz社の母体となる千博産業では、2008年に制振事業部を発足させ、当時はまだ認知度の低かった制振装置の自社開発をスタート。高層ビルなどで使われる免震装置が、躯体と地面を切り離すように設置されて揺れを逃すのに対し、制振装置は建物の壁に埋め込まれるように設置され、建物に伝わる揺れを吸収する役割を果たす。
コストや工法などの問題から、一般住宅では制振装置が使われることが多く、なかでも国内のビルダーから高い信頼を得るのが、同社の社名にもなっている制振装置evoltzだ。
「evoltzの大きな特徴は、震度1程度のわずかな揺れから性能を発揮する、特許技術の超バイリニア特性。そして極めて高いエネルギーの吸収量(減衰力)です。一般的な制振装置では、揺れが大きくなってから揺れを止めようとする減衰力が働きますが、それでは小さな地震の多い日本で建物を守ることはできません。evoltzでは小さな揺れの段階からエネルギーを吸収し、建物の揺れ幅を抑制することで、構造部材の損傷などを防ぐことができるのです」
そう話す渥美氏が、制振装置に可能性を感じたところから本格始動したevoltzの開発。だが、軌道に乗った自社製品の製造開発を委託していた製造会社と販売代理店の背信行為により、突然の供給停止を通告されるという事態に陥った。
「そのときに頼ったのが、ポルシェなどの高級車に搭載される、世界最高峰のショックアブソーバー・サスペンションのメーカーであるビルシュタイン社でした。当時の我々の制振装置の性能を超える製品を製造できるのは、同社をおいて他になかったのです。浜松の小さなメーカーの仕事をビルシュタイン社が受けてくれたのは、同社が我々の製品に賛同してくれたことに加えて、多くの方々の支援があったから。そうした出会いのおかげで、製品の品質を高めることができました」
ドイツのビルシュタイン社で製造された製品は、さらに日本の技術者たちによって精密に調整・加工され、厳密なテストをクリアしたのちに出荷される。特許技術や幾度にもわたる性能試験など、精緻な技術やデータに裏打ちされた製品だが、「まだそれほどメジャーでない制振装置の役割や意義をより広く知っていただくために、難しい技術用語などをあまり使わず、分かりやすい言葉で伝えることを大切にしています」と、渥美氏は話す。