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吉田幸市
YOSHIDA KOICHI

吉田幸市

中央矢崎サービス株式会社 代表取締役社長

「人」を軸にした価値創造で、自動運転時代に挑む
「自動車業界は激変しており、我々の扱う商品の9割はこの10年で無くなるでしょう」──こう語るのは、中央矢崎サービス株式会社の代表取締役社長、吉田幸市氏だ。自動運転の到来により岐路に立たされた業界を前に、吉田氏が見据える未来と、そこで見出した新たな「チャンス」に迫った。
吉田幸市
画像はイメージです。
全国140拠点のネットワークで掴む新たな可能性

現在、自動車業界は大きな変革の渦中にある。アメリカや中国の主要都市では無人タクシー事業が急速に拡大しており、東京でも「レベル4」水準での本格的なテストがはじまる。トラックの自動運転化も進展し、新東名高速道路では自動運転車優先レーンが設置され、実証実験が行われている。マッキンゼーは、世界の自動運転大型トラック市場が、2035年には6,000億ドルの規模になると予想した。
社会的影響も大きい。ドライバー不足の解消や交通事故の大幅な削減、輸送コスト低下による物流効率化など、経済的・社会的メリットも広く期待されている一方で、法整備や安全性の確保など多くの課題も指摘されている。

「人を運ぶ駕籠(かご)がタクシーに、大八車がトラックへと代わったときに匹敵する、大きな変化です」と、中央矢崎サービスの代表取締役社長、吉田幸市氏は危機感と決意を示す。「我々が扱っている商品の9割は、この10年で無くなるでしょう。この変革をチャンスだと捉え、次の手を見極めていかねばなりません」

中央矢崎サービスは、タクシーメーターやデジタルタコグラフ、ドライブレコーダー、自動点呼システムといった、運行管理機器の開発・販売・取り付けを行う企業だ。1955年の創業以来、65年にわたり日本の安全を支えてきた。未来を見据えた吉田氏の視線は、「人」に向かう。
テクノロジーが進歩しようとも、物流や旅客運送そのものが無くなることはない。たとえすべての自動車がロボット化しようとも、メンテナンスする働き手は必要だ。

全国に140店舗の販売網をもつ中央矢崎サービスは、運送業界の中に深いネットワークを構築している。このネットワークを最大限活用し、業界の新たなニーズに応える製品開発やサービスの提供をしていくことが、未来に向けた同社の取り組みの一つだ。
プロ向けの消耗品や工具を販売するECサイトも立ち上げた。日本各地でインフラを支えるドライバーや営業所の事務員、倉庫の作業員など、物流業の従事者は200万人を超える。ここにリーチできれば、さらなる展開が可能だ。

「たとえば、女性ドライバーの健康のために、肌の乾燥を防ぐ化粧品を売ることも考えられます。『業界が欲しいもの・困っているもの』を販売するという基本に返って事業を確立できれば、新たな雇用を生み出していけるでしょう」

吉田幸市
海外事業経験から生まれた「社員満足」へのこだわり

吉田氏はもともと、ベトナムやカンボジアで美容商材の販売といった複数事業を展開していた。中央矢崎サービス現会長・吉田ひとみ氏との縁は、海外進出を手助けしたことから生まれた。四輪駆動のスポーツカー、ランサーエボリューションが愛車で、サーキットで走らせるほどに車好きだった吉田氏。日本にいるわずかな期間に、こっそりツナギを着て、タクシーメーターやドライブレコーダーの取り付けといった現場作業をさせてもらっていた。

やがて吉田ひとみ氏との関わりが深くなり、社長を任されるまでに至った。海外事業は現地の社員に譲渡した。そんな吉田氏との会話からこぼれ出るのは、運送業の人々に対する「愛情」だ。

「事業再生コンサルタントだった私が言うのも何ですが、仕事をテキパキ効率的に進めて、職場とプライベートは完全に切り離すといった“優等生”タイプは苦手なんです。やんちゃだけど筋は通して、根は優しいという、愛すべき人びとがここにいます。私は、そんな彼ら彼女らに『チャンス』を与えていきたいと強く想っています」

吉田氏が「チャンス」にこだわるのは、カンボジアでの経験がきっかけだ。文字通り母親に売られた少女を、弁護士立ち会いのもと引き取り、美容院でスタイリストの修業をさせた。彼女は数年前、結婚し、独立して自分の店をもつようになった。

「もし、他に良い出会いがなければ彼女はどうなっていたでしょうか。世の中には、『一回もチャンスに恵まれない人』がいるのだと悟りました。せめて一回くらいはチャンスを与えてあげたい。それを掴むかどうかは、本人次第です」

業界は過渡期ならではの混乱もある。電気自動車は充電式バッテリーを使うのか、燃料電池を使うのか。自動運転に対してはどのような法規制を敷くべきか。各国各企業は模索を続けている。
吉田氏は海外視察を欠かさず、先端企業と提携しながら、グループのシナジーを発揮すべく施策の数々を進めている。時代の変化を掴み、グループの強み、会社の強み、社員の強みを発揮するために。

「先日、成約がまったく未経験だった若い社員が、一生懸命に電話をかけて、『とうとう受注できました!』と満面の笑顔を見せてくれました。営業部も、初受注祝いの飲み会だ! などと盛り上がっていました。目指すは、社員が自分なりの強みを見つけて、心の満足を得られる会社です」

吉田幸市

中央矢崎サービス株式会社 代表取締役社長
https://chuo-yazaki.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。