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安成信次
YASUNARI SHINJI

安成信次

株式会社安成工務店 代表取締役

地域工務店復権の鍵を握る、
新工法を用いた自然素材の家づくり
高級戸建て注文住宅をはじめ、ビルやマンション、病院などの建築施工を手掛ける安成工務店。高い施工技術に加え、設計から開発、運営を一貫して行う事業体を築く。11社のグループを率いる同社代表の安成信次氏は、住まいづくりは街づくりであるとの信念から、持続可能な地域産業としての新しい建設業の在り方を問い続けてきた。今、グループの(株)デコスが全国に展開する、新聞紙をリサイクルした断熱材「デコスドライ工法」でつくる「呼吸する躯体」が、木造住宅に大きな革命をもたらそうとしている。
安成信次
人が幸せになる住まいを追求し続けて

安成工務店は、間もなく創業70年。山口県豊浦郡豊北町(現・下関市)での大工創業を発祥とする。職人が手掛ける高品質の施工は、創業当初からの変わらぬ「コアコンピタンス」だ。高い技術で営業を行わずとも引き合いが強かった同社だったが、1981年に入社した安成信次氏には危機感があった。「建設業は典型的な受注産業。その業態から脱皮しないといずれ淘汰されてしまうだろう」との思いである。安成氏が入社後行ったのは、企画・開発・設計・施工という全プロセスに携わる組織再編だ。とくに設計部門の徹底的な強化により優れたデザイン・開発力で認められるようになり、1988年には創業者である父の急逝に伴い社長に就任。住宅とともに商業施設や病院などのビル建設、運営までを手掛ける企業グループを形成し、売上規模を約10倍に発展させた。

ただ、住宅事業において安成氏には大きな問いがあった。それは「人が幸せになる住まいとは何か」。人は新しい家に住むだけでは幸せになれない、人は家庭だけでなくコミュニティの中に生き、幸せを感じるものだ。だからこそ家づくりには「まちづくり」の視点が不可欠と感じ、その方策を模索していた。

安成氏が語るのは、戦後日本の住宅事情とメーカーの功罪だ。70年代、高度成長の折、都市部に人が集まり住宅需要が一気に高まったが、大手ハウスメーカーが次々に設立され、普及したのが欧米風の新建材を使った工業化住宅だった。

政策上、工業化住宅が支持され、メーカーで生産された建材や住設機器が溢れ、石油由来の樹脂建材で短工期、経済合理性を追い求めた家づくりは『日本全国どこに行っても同じ光景』と言われるまちの姿をもたらした。また、日本古来の職人の技術が軽視される結果にもなってしまったのだ。

父は生前、新建材には批判的。「家は、近くの山の木材で作るべき」との持論を常々語っていた。しかし信次氏自身は当初、日本古来の工法への想いがそれほど強くなかったと率直に述べる。欧米の2×4工法の住宅に注力した時期もあり、試行錯誤は続いた。

安成信次
自社開発の断熱材・工法が実現する地域産業の再興

一つの転機は社長就任後の89年、太陽の熱エネルギーを利用し、熱と空気をデザインするOMソーラーシステムを導入したことだ。日射量や雨、風のシミュレーションを家づくりに取り入れる『環境共生住宅』の考え方に感銘を受け、環境の重要な要素として「地産地消」への関心が高まることとなる。

日本の国土の7割を占める森林の状況は大きく変化した。戦後植林された杉や檜が建築用材に適した大きさに育ちながら、手入れが行われず放置される状況が顕在化。木の適切な伐採、植林がもつ治水や地盤強化、CO2削減などの役割の見直しが叫ばれていた。

そこで同社は1996年に「林産地連携による自然素材の家づくり」に大きく舵を切った。その背景には、1994年に新聞紙をリサイクルしたセルロースファイバー断熱材「デコスファイバー」と、デコスファイバーの乾式吹込み工法「デコスドライ工法」の開発があった。環境負荷が少なく、室内の快適性や景観の配慮なども含めた建物の品質を総合的に証明するため、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)の認定も取得した。躯体内部の断熱材が自然素材なのに内装が石油由来の新建材で施工することが許せない。そうした理由が「呼吸する駆体」を推し進めていくきっかけとなる。

当時欧米で新聞紙を原料としたセルロースファイバー断熱材は注目されていたが、日本では認知されておらずシェアはほとんど無いに等しい。パルプを原料とする新聞紙を水や火を使わず少ないエネルギーでリサイクル製造し、断熱のみならず、吸音性・調湿性の高いデコスドライ工法は、まさに「呼吸する駆体」を具現化する環境共生の理想像と言える。

1996年には自ら代表を務める株式会社デコスで、施工代理店網による全国展開を開始。現在、全国では69社の施工代理店があり、2019年には約2,500棟に同工法の施工が行なわれている。もちろん、安成工務店グループの施工する木造建築にはデコスドライ工法を100%使用している。

近年、デコスで施工された躯体の調湿性能についても九州大学と共同研究を行っている。これまでの木造躯体の構造安全性や耐久性はそのままに、デコスドライ工法による「呼吸する躯体」は他の断熱材躯体と比較して約10%湿度を抑えることを実証。また、自然素材の健康実験では「杉材を内装に用いた部屋は樹脂建材の内装と比較して、睡眠の質向上や疲労回復、抗菌、認知症改善などの高い効果がある」との結果を得た。

デコスドライ工法でつくる「呼吸する躯体」に加え、「自然素材の内装」を組み合わせた環境に寄与する木造住宅。日本本体の住宅の在り方を変えるその挑戦に、大きく期待したい。

安成信次

株式会社安成工務店 代表取締役
https://www.decos.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。