
時勢を見極めつつ、多彩な業務用洗濯機を開発
「尾道といえば、洗濯機をつくっているところというイメージを持ってもらえるようにしたいんです」と語る、株式会社山本製作所代表取締役の山本尚平氏。現在は風光明媚な観光地としての印象が強い港町の尾道だが、かつては造船業で大いに栄えたこともあり、工業都市としての一面も持っている。そんな尾道で1947年に鉄工所として創業した同社は、1952年から一貫して業務用洗濯機の開発、販売を行ってきた。
ひとくちに業務用洗濯機といっても、クリーニング店が使用するドライクリーニング用、コインランドリー用、ホテルのリネン類などを洗う産業用、病院などの小・中規模施設用といった具合に、規模や用途に応じてさまざまな種類がある。
同社は長い間ドライクリーニング用のみを製造していたが、シワになりにくい繊維素材などの登場などもあってクリーニング店離れの傾向が顕著になると、その他の分野にもシフト。なかでも1996年から手がけ始めたコインランドリー用機械は、現在では同社の売り上げの約50%に達する。
2017年にはコインランドリー業者およびITシステムベンダーとの3社連携によって、IoTを活用した「スマートランドリー」を開発。スマートフォンアプリで空き状況の確認や洗濯終了の通知が受け取れ、洗濯機のロックなどの制御もできる次世代のコインランドリーの登場が話題を呼んだ。
そして、これら以外にもうひとつ、同社にとって重要なウエイトを占める事業がある。それは海外輸出部門だ。「世界市場に挑戦したことは、当社にとって非常に大きな転機となりました」と語る山本氏。海外進出は、山本氏が創業者である父の跡を継いで社長に就任した2002年の翌年に、ドイツ・フランクフルトで開催された世界展示会に視察に行ったことがきっかけだった。
「世界の業界の流れを見ておこうという気持ちで幹部スタッフと一緒に見学に行ったのですが、当社の製品が世界で通用するレベルにないことが分かって落胆しました」。しかし一方で、ドライクリーニング衰退の兆し、人口減少などに危機感を覚えていた山本氏は、世界の市場でプレイできないと会社の明るい将来はないとも考えていた。
「私は、口に出すことで自分にプレッシャーをかけて動くタイプなんです」と語る山本氏。氏は帰国するとすぐに従業員に向けて展示会のレポートを書き、アメリカ市場への挑戦を表明したのだ。