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渡部嘉之
WATANABE YOSHIYUKI

渡部嘉之

株式会社オーツェイド 代表取締役

話題の高品質イヤホンが切り拓くメイド・イン・ジャパン復活への道
日本が世界に誇る圧電セラミックの技術を駆使し、数万円代が当たり前だったハイレゾ対応イヤホンを5000円以下の価格帯で実現。2017年に立ち上げたオリジナルイヤホンブランド「intime(アンティーム)」が多くの音楽好きから支持を集め、今や業界が大注目する国産イヤホンメーカーとなった株式会社オーツェイド。同社の創業者であり代表取締役の渡部嘉之氏が目指すのは、本物のハイレゾ音質の普及と、日本人の“感性の量産化”だ。
渡部嘉之
当社新製品の煌、轟、雅のMarkⅡシリーズ
業界の常識を覆したハイレゾ対応イヤホン

高級オーディオ世代にあたる60年代生まれ。「自分でもスピーカーやアンプを自作するオーディオマニアだった」と、学生時代を振り返る渡部氏。大学卒業後は日立金属の研究所に入社。多結晶体セラミックスに圧力を加えることで電圧を発生させる一方、電圧から振動を生むこともでき、自動車のインジェクションやセンサー、医療機器や家電まで、あらゆる分野で応用される圧電セラミックの基礎研究に従事した。

最近でこそ中国製の台頭が目立つものの、圧電セラミックは日本の大手3社が世界シェアの約8割をもつ。渡部氏は同分野における優秀な技術者として知られ、これまでに携帯電話などに採用される積層型セラミックスピーカーをはじめ、数々の世界初となる製品を開発。渡部氏が出願した特許は現在までに120件を超えている。

日立金属や太陽誘電で技術の研究から製品の開発、マーケティングまでを自身で担い、その後は中国のメーカーにCTOとしてスカウトされ、現地でのモノづくりも経験した。そんな渡部氏がイヤホンの開発に乗り出したきっかけは、大学生の息子たちと交わした些細な会話だった。

「いつも100円均一のイヤホンを使っている彼らにハイレゾの音を聴かせてみると、『音がいいのはわかるけれど学生の経済力で高価なスピーカーは買えない。僕らはこれで十分だ』と言うのです。そこで、どれくらいの価格のイヤホンなら手が届くのかと訊くと、『5000円以下じゃないか』と。このままでは、良い音を知らずに育った若い世代が将来のオーディオ業界を担うことになる。そんな懸念もあって、私が培ってきた圧電セラミックの技術を駆使し、彼らのために低価格なハイレゾ対応イヤホンを開発することにしたのです」

渡部氏は“ピーキー”と表現されるセラミックサウンドの欠点を克服するため、画期的な技術であるVST(Vertical Support Tweeter)を考案して特許化。結果、コストを抑えながらも驚くほどに音域が広く、解像度の高い音質を実現したイヤホンが生まれた。

渡部嘉之
日本生産回帰のカギとなる“感性の量産化”

社名のオーツェイド(O2aid)は、圧電素子を意味する“Piezo”を回転させ、文字遊びのように読んだもの。

「中国から戻って自分で会社を立ち上げた時、一般に普及している圧電セラミックの技術を色々な角度から見ることで、付加価値の高い製品を生み出したいという思いがありました。事業の軸としたのは圧電セラミックスのコンサルティング。イヤホンの開発など考えてもいませんでしたが、息子のために作ったイヤホンが彼らの友人たちの間で話題になるなど、思いのほか大きな反響があった。そこで手応えを感じたことから製品化を決めたのです」

現在の自社ブランドであるintimeの源流となるイヤホンは、設計からデザインまでをすべて渡部氏が一人で手がけたもの。完成した製品を日本におけるイヤホン販売の総本山ともいえる秋葉原の「eイヤホン」に持ち込むと、その品質の高さから即座に販売が決まり、発売の翌週からセールスランキングにランクイン。あっという間に在庫切れとなるほどの評判を呼び、音楽好きからの高い評価を確立させた。

さらに2022年にはintimeで培った技術をより進化させたハイエンドブランド「Maestraudio(マエストローディオ)」を発表。プロユースを謳いながら約1万円という価格で、より広い音場とクオリティの高い音を実現させたこのイヤホンもまた、音楽好きの新定番として大人気を博している。
オーツェイドが目指すのは、クオリティの高い音をより広い層へと届けること。一方で渡部氏は、モノづくりの“国内回帰”に向けた取り組みも進める。

「現在、市場で流通するイヤホンの多くは中国などのアジア諸国の生産現場においてOEMやODMで生産されています。トレンドである無線イヤホンなどは、私が知る限り日本で生産している会社は一社もありません。当社も当初は、技術漏洩の懸念からイヤホンとは無関係な中国の協力工場で、徹底的な生産管理のもとイヤホンの製造を行なってきました。しかし、それでも当社のイヤホンに類似した製品が次々に現れている状況です。中国の模写技術は非常に高度ですから、このままでは近い品質の偽物がいずれは世に出回ってしまう。そこで当社では、日本人に特有の“感性の量産化”を念頭に、2019年からイヤホンの生産拠点を順次国内に切り替えています」
渡部氏のいう“感性の量産化”とは、生産能力や単なる技術力で海外製品と勝負するのではなく、世界が評価する日本食やアニメのように、日本人の“感性”をモノづくりに生かすことだ。

「市場に中国製のイヤホンがひしめく中で当社製イヤホンの品質が高い評価を得ているように、特にイヤホンなどでは日本人のもつ繊細な感性を生かすことができます。我々がそうした質の高い量産技術を低価格で提案できれば、海外のメーカーからも日本が生産拠点として選ばれるはず。実際、当社にはすでに中国の高級イヤホンメーカーからOEMの話がきていますし、将来的に世界のイヤホンのほとんどが日本で生産されるような未来がくれば、日本のモノづくりの復活にも繋がるのではないかと考えています」

さらにはユーザーが自分好みの音にセッティングできるイヤホンの開発や世界市場への展開、圧電セラミックや音づくりの技術の他領域への応用など、革新的なチャレンジを続ける渡部氏。かつて世界が憧れたメイド・イン・ジャパン復活へのヒントがここにある。

渡部嘉之

株式会社オーツェイド 代表取締役
https://intime-acoustic.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。