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竹野望
TAKENO NOZOMU

竹野望

吉市水産有限会社 代表取締役

魚河岸の若き大将が挑む、
明石ブランド拡大作戦。
兵庫県明石市。明石海峡の生む強い潮流と、鹿の瀬と呼ばれる砂地の浅瀬が織りなす日本有数の漁場である。明石鯛に明石蛸、いかなごと多種多様な魚が獲れ、関西圏で明石はブランドとなっている。その明石で昭和初期から水産仲卸業を営んできた吉市水産。2016年、その代表取締役に就任したのが竹野望氏だ。血縁を重んじる水産業の中で血縁にあらず、若き大将となった彼の挑戦に迫る。
竹野望
明石から日本の水産業を変えるスマイル経営

「大将だなんてやめてくださいよ」と笑う吉市水産の竹野氏。本人はあくまで従業員と対等の立場を強調し、新代表としての気負いは一切ない。高校卒業まで水産業とは縁のない生活だったが、就職を機に吉市水産に入社。伝統にとらわれない独自の顧客サービスで市場に来る人々の心をつかんでいった。

「お客様のために商売度外視で仕事をしていましたね。仕事だと損得を考えると思うんですが、僕はまったく気にしなかった。例えば仕事が終わっても、お客様が生け簀の水を替えてほしいと言ったら、家から戻って水槽車で水を届けていました。それは僕にとっては普通のこと。誰かが道で転んでいたら、大丈夫?と声をかけるのと同じぐらい自然なことなんです」

そうした細かい気配りと常に明るい竹野氏の資質を先代は見抜き、代替わりに際して自ら周囲を説得、竹野氏を新しい代表に据えた。その新代表の経営方針は「とにかく明るく楽しく」。職人の集まりである吉市水産が、竹野氏につられるように笑顔と冗談が飛び交うような職場に様変わりし、明石で最も雰囲気のいい卸だと自負するまでになった。

「昔は見て覚えろ、怒られて覚えろの世界でしたけど、いつまでもそれではいかんなと思っていました。それに僕は関西人ですし、職場でも笑いは大事。いつもスマイルですよ(笑)。お客様も笑っている店員さんから買いたいと思うだろうし、海の男の伝統も大切ですが、僕たちが目指すところは少し方向が違うんです」

竹野望
料亭のお品書きのようなEコマースサイト「八蔵水産」

そんな伝統に捉われない働き方を提唱し続けてきた竹野氏は、新しい取り組みとしてEコマースサイト「八蔵水産」をオープン。「明石の魚を全国へ」をモットーに、明石の海で獲れた海産物を全国に届けるサービスを打ち出した。そのお品書きには「明石鯛の灰干し」、「明石蛸」、「焼き穴子」、見るだけでお腹が鳴りそうな一品が並ぶ。どれも竹野氏が太鼓判を押す明石の海の幸である。

「明石の海には鹿の瀬と呼ばれる水深の浅い場所があるんです。太陽の光が通りやすく、魚の餌となるプランクトンも豊富。たくさんの餌を食べ、そして明石海峡の速い潮流で身が引き締まる。その漁場で漁師さんが自信をもって獲ってきた魚を、我々目利きの卸が競り落とした海産物ですから間違いないです」

「明石鯛の灰干し」とは、鯛を吸水率の高い火山灰を用いて低温でじっくりと水分を抜き、旨味を最大限に凝縮した干物である。明石鯛の良さを最大限に活かすために試行錯誤してたどり着いた一品だ。

「いろんな干物を試してたどり着いたのが灰干し。干物は急速に水分を抜くと身が締まってしまう。灰干しは火山灰の遠赤外線効果もあいまって、ふんわりとした焼き上がりで干物とは思えないほど。これはおいしそう、じゃなくておいしいんです!」

現在のところお品書きは3種類だが、「八蔵水産」の品ぞろえは今後まだまだ増えていく予定だ。新商品の販売に向けて、ホームページを製作中とのこと。

「今は干物、焼き物を中心にしていますが、鮮魚の販売ももうすぐスタートします。明石で獲れた魚を独自の冷凍技術を使って、北海道でも九州でも沖縄でも、ゆくゆくは海外の方にも楽しんでもらえるようにしていく予定です。お刺身だったら切り身にして、煮物なら煮つけできるように下処理済のお魚をお客様にお届けします」

八蔵水産のホームページは料亭のお品書きをコンセプトに作っているそうだ。お刺身、焼き物、煮物、乾き物、そのほか一品。今後、明石の海の幸のお品書きが増えていくのが楽しみである。

「流通が良くなって明石の魚を関西圏ではだいぶ食べてもらえるようになりました。今後はもっと先の方々に届けていきたいですね。地域活性化にもつながりますし、明石の魚が東京の一流の料亭で食べてもらえるようになれば、漁師さんも獲ってきた甲斐があるというものです。僕らは明石の卸なので、とにかく明石にこだわってやっていきたいです」

若き異端児・竹野氏は、まだまだ新しい風を吹き込もうとしている。すべてを変えるのではなく古き良き伝統も残しつつ、新しい日本の水産業を夢見ているのだ。

「時代に合わせて変えるところは変えていきたいですが、市場の仲買というこだわりは捨てたくない。そして何より従業員一同、楽しく仕事をしていきたい。水産業に関わらず、仕事は楽しくやりたいじゃないですか。そうやって日本の水産業が変わっていったらいいと思っています。僕は言霊を信じていましてね、だから、こいつアホちゃうかと思われても夢はどんどん口に出していこうと思っています」

竹野望

吉市水産有限会社 代表取締役
https://yagusui.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。