Powered by Newsweek logo

高柳芳記
TAKAYANAGI YOSHINORI

高柳芳記

医療法人社団 芳佑会 高柳眼科クリニック札幌 理事長

世界初の画期的な治療法で
正常眼圧緑内障に挑む
視神経が何らかの原因で傷害されることで視野の一部が欠けて見えにくくなり、末期になると失明にいたることもある緑内障。日本では40代以上の約20人に1人が罹る病気ともされているが、視神経を回復する方法は現在のところ確立されておらず、いわば「治らない病気」という認識が医学界では常識となっている。そんな緑内障のうち日本では約70%を占める正常眼圧緑内障の治療において、画期的な治療法を提唱するのが、高柳眼科クリニック札幌の高柳芳記理事長だ。
高柳芳記
画像はイメージです。
糖尿病の既存薬であるインスリンを緑内障治療に応用

同院で高柳氏が実践するのが、「インスリン点眼」と「分子シャペロン療法」を2つの柱とする独自の緑内障治療。正常眼圧緑内障であれば、眼圧管理が不要となる可能性がある治療である。
「人体にあるホルモンの一種であり、糖尿病治療の既存薬として使われているインスリンには、血糖値を下げるだけでなく、細胞を増殖させたり再生させたりする働きもあることがわかっています。眼や脳には、血液網膜関門・血液脳関門(血中から必要な物質だけを供給し不要物質を血中に排出する)というバリアがあり、通常の目薬が眼底や視神経に届くことはありません。ところがインスリンはホルモンなので、そうしたバリアを越えることができる。緑内障は網膜神経節細胞(RGC)が死滅する病気ですが、インスリン点眼であればRGCの再生が期待できるのです」
 
そう話す高柳氏は、眼科医でありながら20年ほど前からインスリンに注目してきたという。成人の中途失明の原因は、今でこそ緑内障が1位となっているが、当時は糖尿病を原因とする糖尿病網膜症による中途失明者が最も多かった。「多くの糖尿病網膜症の患者さんを診るうちに、レーザーや手術による治療だけではなく、眼科医であっても血糖管理に携わるべきであることに気づいたんです。そこで 日本の糖尿病治療において素晴らしい実績のある順天堂大学病院の河盛隆造特任教授に師事し、平成10年から自院に糖尿病専門外来を導入して、インスリンを使った血糖の管理を始めたのです」
 
当時は内科医ですら、一般的にはインスリン注射を入院治療として行っていた時代。眼科医が、しかも日帰りの外来でインスリン治療を行うことなど、異例中の異例のことだった。そうした経緯で糖尿病と向き合い、そのなかでインスリンの可能性に気づくとともに、高柳氏は「人は自らの身体のなかに病気を治す仕組み(細胞再生力)をもっている」という持論をもち、がんの免疫細胞治療の研究などを重ねてきたことも、今回の新治療の発想につながった。

高柳芳記
網膜神経節細胞の保護・再生が期待できる画期的な治療法

「父を肺がんで亡くしたことをきっかけに、がんの免疫細胞輸注療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法を実践しています。免疫細胞の研究も行い、免疫細胞を培養させるための無菌室細胞培養加工施設(CPC)もつくりました。がんや糖尿病と向き合ううちに、緑内障を発症する原因が主に慢性炎症に起因し、タンパク質の分解異常やそれに伴う異常タンパク質の蓄積であるという考えに至っているのです」

DNAによって設計通りに合成されたタンパク質は、人の生命活動を担う重要なものだ。一方で高柳氏のいう異常タンパク質は、合成途中の異常化により、人体にゴミのようにとどまってしまい老化や病気の原因となってしまう。
「異常タンパク質の蓄積に起因するものがアルツハイマー病やパーキンソン病などに代表される神経変性疾患で、実は正常眼圧緑内障もこの疾患群(グループ)のひとつです。そこで当院では、異常タンパク質を正常なタンパク質に合成する型枠の役目を果たす分子シャペロンに注目し、既存薬を用いてこれを活性化する分子シャペロン療法を、インスリン点眼と併せて行っています」

この2つの治療は世界的に見ても、それぞれ研究自体はされているものの、治療として2つを併用して実践しているのは恐らく世界初。インスリン点眼は、微量でも眼に強く染みるうえ血糖値に影響が出るなど、その処方に細心の注意が必要になることはもちろん、点眼薬をつくるには無菌のCPCが必要になる。
 
「眼科クリニックが無菌のCPCをもつことは通常ありませんし、これまで日本の医療の世界では眼科専門医が糖尿病・がん治療を行なうことは異端とされながらも、目の前の患者さんを救うことを第一に考えて様々な道を歩んできたからこそ、インスリン点眼や分子シャペロン療法にたどり着くことができた。若い人にも増えている正常眼圧緑内障は日本人に多く、アルツハイマー病など他の神経変性疾患も、世界と比較すると日本人に多く見られます。当院の正常眼圧緑内障治療の基本は、インスリン点眼による神経細胞の保護と再生促進、分子シャペロン療法による異常タンパク質の制御、さらには異常タンパク質の産生につながる慢性炎症のもとになる、基礎疾患と徹底的に向き合うこと。そうした治療を通じて、一人でも多くの患者さんを救いたいと考えています。しかしながら、神経変性疾患の先端医療をするにあたり、保険診療ではなし得ず、自由診療で治療費が患者さんの10割負担となってしまうことが大きな障壁です 」
 
現在も増え続け、2040年には世界で1億1千万人以上になると予想される緑内障。そんな緑内障に悩む人々に希望の光となることはもちろん、他の神経変性疾患の治療や老化予防などにも大きなヒントを与えそうな高柳氏の画期的な試み。異端の眼科医が新たな道を切り拓く緑内障治療の未来に、ぜひ注目して欲しい。

高柳芳記

医療法人社団 芳佑会 高柳眼科クリニック札幌 理事長
https://takayanagi.clinic/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。