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杉浦日出夫
SUGIURA HIDEO

杉浦日出夫

株式会社RSI 代表取締役

コンピュータを液体で冷やす!?
日本のITの未来を占う“液浸冷却”の革新性
テクノロジーが日進月歩で発展し、あらゆるものがネットワークでつながっていく。そうしたIT社会を支える重要なインフラとなるものがデータセンターだ。諸外国に比べて遅れがちな日本のIT化を加速させるために、そして“日本品質”を再び世界にアピールするために。その切り札となり得る革新的な技術について、日本におけるデータセンター・コンサルティングの第一人者に話を聞いた。
杉浦日出夫
データセンターコンサルの第一人者

「たとえばいまやスマートフォンは小学生でも持っていますが、少し前までこのレベルの性能のハードウェアはNASAや大学の特殊な研究機関くらいでしか見られないものでした。たった20年ほどでそれほどまでにコンピュータが進化している。そう考えると、これからの時代にデータセンターが変わらないことはあり得ない」
そう話すのは、株式会社RSIの杉浦日出夫社長。

同社は、外資系金融機関や証券会社などを主な顧客に、データセンターの設計やプロジェクトマネジメント、運用等に関するコンサルティング業務までを行う日本でも数少ないデータセンター・コンサルティング企業だ。

アフターコロナやウィズコロナと呼ばれる時代、リモートワーク普及の波は世界で加速し、各家庭のコンピュータはネットワークに繋がりフル稼働する。さらには世界で5Gの運用がスタート。コンピュータに膨大な量のデータを処理させるディープラーニングによって進化するAI(人工知能)やVR(ヴァーチャル・リアリティ)をはじめ、ITの進化は新たなフェーズへと入っている。サーバーなどの各種コンピュータをはじめ、データ通信のためのIT機器が設置されるデータセンターは、いわばそうしたITの発展を支えるためのインフラとなるものだ。

杉浦氏はカナダでも有数の名門校マギル大学にてMBAを取得。通信設備工事会社に務めた後、モルガン・スタンレー証券に転職。当時としては世界最高峰のデータセンターを設計・管理するチームで経験を積み、2006年にまだ確固たる構築ルールもなかったデータセンター黎明期に株式会社RSIを設立した。いわば日本におけるデータセンター・コンサルティングの第一人者。そんな杉浦氏が提唱する新たなデータセンターの在り方は、日本のITをはじめとするあらゆる産業の起爆剤となり得るものだ。

杉浦日出夫
あらゆる場所にデータセンターが

「ITの世界では集中型と分散型という言葉を耳にしますが、データセンターも双方の波を繰り返しながら進化してきました。たとえば2000年代からはクラウドの発展もあり、集中型を意識して設計されてきました。それが最近は多発する自然災害等の影響もあって、また分散型に注目が集まっています。とはいえ、従来の巨大なデータセンターを数カ所に分散するにしても、各地ではそれなりのスペースが必要になり、特に都心部といった市街地では難しい。そこで、データセンターを小型化しようというのが我々の発想。たとえば大きくスペースを使っていたコンピュータルームが、自販機やコピー機、冷蔵庫くらいのサイズになれば、置き場所を選ぶことはありません」

そう話す杉浦氏によれば、一般的なデータセンターで使用されるサーバー用コンピュータは意外と無駄に大きく設計されている。この理由は機器内部で生じた熱をサーバー外に出す構造が不可欠で、デザインとして空気の通り道となる空洞構造となっている。イメージとしてはたっぷりと贅肉のついた大きなコンピュータである。また現在のデータセンターの空調設備の限界からそれぞれのコンピュータの間隔を一定以上開ける必要があり、結果として建物が巨大な建築物となるのである。これらの無駄な空間のスリム化をしていきたい。

「最近は日本のデータセンターでも省エネ化が進んではいるものの、多くのデータセンターではコンピュータなどの機器が消費する電力と同等のエネルギーが、冷却のための空調に費やされています。つまり、そうした“熱”の問題を解決すれば、データセンターの小型化に加え、環境面にも大きく貢献できる。ではどのように解決するのか、そのための切り札となるのが“液浸冷却”という技術です」

杉浦氏がいう液浸冷却技術とは、冷媒となる特殊な液体に直接コンピュータを浸して冷やすという画期的な技術。従来の空冷方式のように冷却のためのファンや空調が不要なため、大幅な省スペースと約80%もの空調電力の削減が実現できる。

「液浸冷却にもいくつかの方法がありますが、特に我々が注目するのは56度で沸騰する特殊な液体。液体が沸騰すると気化熱として熱が奪われるため、それ以上の温度にはなりません。とはいえ、そうした沸騰冷却の実現には、密閉した冷却装置のなかで蒸気を液体に戻さなければならず、高度なモノづくりの技術が必要になる。そこで、国内で各専門企業とパートナーシップを結び、一年がかりでジャパンメイドの液浸装置を開発したのです」

既存のサーバー用コンピュータがそのまま利用できる設計のため、どのようなデータセンターなどでの実装が可能。そんな画期的な液浸冷却装置を使って実現するコンパクトなデータセンターは、駅やコンビニ、銀行のATMなどにも設置でき、ITインフラの強化やスペースの利活用にも貢献する。

さらに現在は、また別の日本企業とチームを組み、液浸冷却では不要になるファンなどを取り除いた小型コンピュータの開発も進行中。
「我々が目指すのは、省スペース省エネルギーの新たなデータセンターや小型コンピュータを通じ、日本の企業や一般の方々のよりクリエイティブな活動やIT社会の発展に貢献すること。今後もどんどん登場する新たな技術をキャッチアップしながら、再び日本が世界に認められるような技術開発をしていきたいと考えています」

そう話す杉浦氏が見据えるデータセンターの未来像。その画期的なビジョンこそが、欧米などから遅れがちな日本のIT化を加速させる一手となる。

杉浦日出夫

株式会社RSI 代表取締役
http://www.rsi-kk.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。