
バイオシミラー生産によって医療費削減に貢献。
インスリン、エタネルセプト、インターフェロン、抗体など、がんや免疫系の疾患の治療には欠かせないバイオ医薬品、バイオシミラーだが、日本で用いられている薬のほとんどが海外製品だ。
「韓国などではいち早く政府主導で製造技術の習得や施設の建設に取り組んでいたのに対し、日本は開発が遅れていて、そうした医薬品は非常に高額なものになっています。日本の社会保障費は増加の一途をたどっていますが、高齢化社会の進展や医療技術の高度化といった環境下において、医療費の経済的負担は次の世代にまでも重くのしかかってくる。日本でバイオシミラーをつくることで、医療費の削減に少しでも貢献したいですね」と語る、日本バイオテクノファーマ株式会社代表取締役社長兼CEOの篠原直樹氏。
2016年に設立された同社では、サンフランシスコの研究所で抗体薬の製造に取り組むほか、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症を予測する体外診断検査キットや、血中の薬物濃度やタンパク質濃度の測定キットなどを開発している。
「アルツハイマーは治療の難しい病気のひとつですが、発症の可能性を高める危険因子は特定されていて、それをもつ方でも予防薬で発症リスクを抑えることはできます。検査キットによって認知症の予防行動ができるようになれば、健康寿命を伸ばすことができますし、それも社会保障費の軽減にもつながります」
医療費において大きなウエイトを占めている薬の費用を抑えることができれば、医療事業者の報酬を増やしながらも、医療の質を高めることにもつながる可能性があると、篠原氏は考えている。
「医師は儲かると思われがちですが、労働時間とのバランスを考えると、必ずしもそうとは言い切れないのが実情です。なかでも、外科分野は教育体制や労働力処理などに大きな支障を来しているように感じます。日本の心臓外科医のなかには、24時間呼び出されて難しい手術を行わなければならないのに、給与は海外の10分の1以下という人もいます。また、日本の外科分野の医師は全体として高齢化が進んでおり、このままではいずれ日本の患者は海外に渡って手術しないといけなくなるかもしれません」
そして製薬以外でも日本の医療に貢献するために、篠原氏は日本バイオテクノファーマと同時にネクストイノベーションパートナーズ株式会社を設立。同社では医薬品・医療機器コンサルティング、学会マネージメント、新薬の薬価交渉用資料作成などを行っている。
「次世代の心臓外科医育成プロジェクトなど、医療の未来のために”あったらいいな“を具現化するさまざまな事業を手がけていきます」
学生時代は演劇に打ち込み、自ら劇団を主宰していた篠原氏。就活時にはマスコミ業界を志望していたと言う。
「しかしどこも受からず、先輩から外資の製薬会社は将来性があっておもしろいんじゃないかと勧められた。業界に入ったきっかけはそんな感じでしたね」