Powered by Newsweek logo

笹川大瑛
SASAKAWA HIROHIDE

笹川大瑛

一般社団法人 日本身体運動科学研究所 所長 理学療法士

理学療法士が考案した関節トレーニングが、
高齢者からアスリートまでを元気にする。
高齢化社会の日本で、多くの人が関節痛などの痛みに悩まされている。日本身体運動科学研究所の所長を務める笹川大瑛氏は、理学療法士として多くの患者のリハビリテーションに携わってきた。その経験や自身の研究から、関節を守る筋肉を鍛えるトレーニング方法、関節トレーニング(以下、関トレ)を考案。体験者から感謝の声が続々と届いている。
笹川大瑛
画像はイメージです。
痛みの原因は関節を守る筋力の低下。

関節の痛みは軟骨がすり減ることで起こると言われてきたが、笹川氏によれば関節を安定させる(守る)筋肉が弱ることが根本的な原因だという。これらの筋肉は身体の深いところにあるインナーマッスルと呼ばれているもので、ここを鍛えることで痛みがなくなるというのが関トレの特徴だ。関節を守るインナーマッスルに対して、関節を動かす筋肉をアウターマッスルといい、前者より後者の力が高ければ、痛みやケガに繋がりやすくなる。逆にアウターマッスルよりインナーマッスルの力が高ければ、関節が安定するため、より速く、大きく、力強く体を動かすことができ、アスリートにとってもパフォーマンスを発揮しやすくなる。

「ひとつの関節を守る筋肉(インナーマッスル)は2つで1セットになっていて、一つは曲げる動きをする筋肉群でもう一つはそらせる動きをする筋肉群。腰から股関節、膝、足首、肩甲骨、肩、肘から手首という6カ所に対してそれぞれ2つの筋肉、つまり12の筋肉を鍛えるのが関トレです。全部の運動を行っても所要時間は約20分で、もちろん自宅で可能。がんの手術を受けて病院で寝たきりだった高齢の患者さんが、最終的には杖なしで階段を上れるようになり自宅に戻られたこともありました。リハビリだけでなく、スポーツや予防医学、介護予防にも有効なトレーニングであることが特徴です」

小さい頃から剣道を始めた笹川氏は、小・中と全国大会へ出場し、高校は剣道の強豪校へ進学。高校2年時にインターハイに出たものの、高校3年時は腰痛やスランプで不本意な結果しか残すことができなかった。このときの悔しさから、進学先の日本大学では文理学部体育学科でスポーツ動作を研究するスポーツバイオメカニクスを専攻。より効率的な動きはできないかと、剣道の稽古を通じて動作を研究し、仮説と検証を繰り返す日々を送った。

運動のことをさらに勉強したいと思った笹川氏は、卒業研究の指導教官だった医学博士であり埼玉西武ライオンズのスポーツドクターでもある峯島孝雄氏に相談。理学療法士への道を進められ専門学校へ進学し、2013年に理学療法士の資格を取得する。

「理学療法士として就職した大阪の病院では、慢性疼痛疾患や脳卒中片麻痺、スポーツ障害など、運動に関するリハビリ全般を経験しました。しかし、治してあげたい思いで取り組むのですが、思うような効果が出ません。さまざまな文献や論文を読み漁り、あらゆる技術の勉強会やセミナーにも参加しました。しかし、それでも的確な答えは見つからず、自分で研究していくしかないと思ったのです。そして、患者さんの一つひとつの筋肉を徹底的に観察し、仮説と検証を繰り返しました。すると、痛みやケガの原因は関節を守る筋力の低下であることなどが分かってきました」

2年後には峯島氏が勤務していた東京の要町病院へ転職し、リハビリを通じて研究を継続。それぞれの関節に対してどこの筋肉が重要であるかが判明し、関トレが完成しつつあった。ちょうどその頃、理学療法士と並行して、友人からの依頼で都立駒場高校バレーボール部のトレーナーに就任。部員の半数がオーバーユースによるケガで練習に参加できなかったため、笹川氏が高齢者と同じ内容のリハビリを行ったところ、劇的な効果が表れた。

「高齢者もアスリートも筋肉の構造は同じであり、関節が力を発揮できるメカニズムも同じであると考えました。そして、高齢者が関節の痛みで苦しんでいることとアスリートがスポーツの中で体をうまく動かすことができないことは、原理がまったく同じであるという結論に至ったのです。高校のときにスランプに陥って以来、考え続けていた体の動きに対する答えがようやく見えてきました」

笹川大瑛
書籍化によって関トレの認知が促進。

要町病院でリハビリに関する研究をしていたときから、笹川氏はその内容をブログやメルマガで発信していた。トレーニング方法の精度が上がり、読者が着実に増えてくると、今度はその技術を対面で教える教室を開催するようになっていった。そして、2017年に「剣道が上達するトレーニング講座」と題して、剣道の竹刀さばきを強化するといった内容の教室を東京・大森の体育館を借りて開催。すると15名ほど集まった受講生の中に朝日新聞出版の役員がいた。

「その方は六段の段位審査に向けて受講されました。筋力がなかったので、関トレのもとになるトレーニング方法を重点的に教えたところ、しばらくして段位審査に合格したという連絡が来たのです。そして、このトレーニング方法は非常に効果があるから書籍として出版したいという話になりました」

笹川氏がこれまでにアップデートを重ねてきた内容が体系化され、関トレとして完成。2018年に『関トレ 関節トレーニングで強い体をつくる』として刊行されると、瞬く間に大きな話題を呼んだ。同書は現在も重版されていることを考えると、多くの人に関トレの効果があったことが推測できる。そして、同年に笹川氏は独立し、一般社団法人 日本身体運動科学研究所を設立。現在は、主にリハビリ関係者や治療院経営者を対象にリハビリの技術を伝えるセミナーを開催。また別会社では介護事業として、運動に特化したリハビリを行うデイサービスや訪問看護ステーションの運営を手掛けている。

「この業界の課題は、医療従事者や患者さん自身が痛みを解消することを諦めてしまいがちなこと。介護の現場でもリハビリに期待している人達が非常に少ないのが残念です。関トレの伝授によって全国の治療院がレベルアップしていけば、痛みを解消し健康になる人も増えていくのではないかと期待しています。また医療業界は論文として発表されたこと以外は認められない傾向があるため、医師をはじめとした医療従事者にも関トレの重要性を伝えています」

そんな状況を打破するために、今考えているのが海外への進出である。実は、一時流行した日本発祥の加圧トレーニングは、今ではアメリカや中国で研究が進むほど世界的に認知されているという。実際にこれまでに行われた笹川氏のセミナーには、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアからの受講者もいた。日本で結果を出している関トレが、海外で大ブームを巻き起こす日も近いうちにやってくるのかもしれない。

笹川大瑛

一般社団法人 日本身体運動科学研究所 所長 理学療法士
https://jts-lab.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。