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小野田 久視
ONODA HISASHI

小野田 久視

株式会社dotD 代表取締役CEO

人と人をつなぐ“共創”で社会に新風を吹き込む事業創造ファーム
新規事業開発に課題を抱える企業は少なくない。株式会社dotD代表取締役CEOの小野田久視氏は、「日頃から『事業の種』を撒いておくことが大事」と語る。開発段階から業界関係者を巻き込み、共創を推進する秘訣に迫る。
小野田 久視
「使ってもらうこと」を目的としたエコシステムを構築

株式会社dotDは自社事業として、新規事業づくりの事業創造プラットフォームサービス「dotHatch」、サプライチェーンのコラボレーションでCFP値を算出するアプリケーション「dotD CFP Calculator」等の運営・開発をするほか、共創事業では大手企業や官公庁との実証実験を通じて事業化を加速するプロセスを提供している。

新規事業を立ち上げるにあたり、「アイデアはあるが形にならない」「いつの間にか市場の変化に取り残された」「誰に届けるかが曖昧で成果が出ない」といった課題を抱える企業は多いという。代表取締役CEOの小野田久視氏はこれに対し、「ビジネスの“生態系”をつくることが大事」と話す。

「プロダクト自体は作れても、『使ってもらえるプロダクト』を作ることが目的になると、急にハードルが上がるんです。なぜなら、ゼロの状態から使ってくれる人を募集しようとするから。そうではなく、例えば実験の段階からその産業を代表する人を集めて意見を反映すれば、その人たちは買ってくれるかもしれないし、販路を広げればさらに売り上げが大きくなる。多くのIT企業が集積するアメリカのシリコンバレーではこのエコシステムができていて、新しいプロダクトを発売する時点ですでにある程度のお客さんはついているんです。最終的に大きなビジネスを創り上げるため、人と人とをつなぎながら新しいことに挑戦し続けています」

同社では、プロダクトやプラットフォームが完成してから納品するのではなく、バージョンのアップデート毎など、開発途中もこまめに関係者を集めて意見交換をしている。新規事業は不確実性が高いため、短期間で仮説を立て、こまめに検証し、改善を重ねることが成功のカギとなる。

同社はこうした独自の事業創造モデルを「MORPHY Model(モーフィーモデル)」と命名。常に「触れられる」「目に見える」「評価可能な」アウトプットやペルソナ、事業計画を基盤に、環境やニーズに適応した成長を支援し続けるという。大企業のよさを保ちながら、スタートアップの強みを存分に生かした戦略である。
「常にマーケットからのフィードバックをもらい続けないとビジネスは成長しない」と小野田氏は語る。

小野田 久視
産官学民連携プロジェクトに参画

「事業の種」を見つけるため、日ごろから中央省庁や企業とのコミュニケーションは欠かさない。
「大事なのは、取引上、直接関係のない接点をいかにたくさんもつか。すぐに売り込もうとしてもうまくいきませんから。いつか来るかもしれないタイミングを逃さないためには、“生態系”を大きくしておくことがとても重要です。ゴルフやランチ、SNSなどで雑談を交わす関係性を築いておくと、ひょんなことからビジネスが生まれることがあります」

例えば、大手電機メーカーA社が自社でAIのプロダクトを開発することになり、小野田氏のところへ相談に来た。ちょうど同時期、小野田氏は自動車業界向けソリューションの開発を進めており、その業界関係者とA社を結びつけることで新しいプロダクトができたという。


また、自社では実現可否にかかわらず「アイデアの種」を常にストックしている。いつか来るかもしれない、企業とタイアップする機会に備えてのことだ。実際に、愛犬の健康管理アプリ「onedog」は通信大手であるKDDIの目に止まり、「auわんにゃんサポート」という協業サービスのリリースにまで発展した。auユーザーを中心に、大好評を博しているという。

小野田氏が共創事業に力を入れるのは、「1社だけで世界に勝つのは難しい」と考えているからだ。民間企業によるイノベーションの促進に積極的なアメリカ、国家主導でビジネスを推進する中国、強固な法整備で統率を図る欧州(EU)と、国際競争力を高めるアプローチは国ごとに異なる。対して日本の場合、「産官学民連携をもっと発展させてもよいのではないか」と小野田氏は語る。


最近では、自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター、NTTデータ、NTTデータグループ、ゼロボードとともに「『ウラノス・エコシステム』による自動車および蓄電池サプライチェーン企業間でのデータ連携サービス」の開発に携わった。2025年後半から導入される欧州電池規則に伴い、バッテリー製品のサプライチェーン全体において、CO2排出量などのデータ連携を安心・安全に行えるサービスである。
同サービスは、日刊工業新聞社が主催する「第54回日本産業技術大賞」の最高位である内閣総理大臣賞に選ばれた。

小野田氏によると、産学官民連携のあり方はここ数年で変化している。以前は古くから残る自前主義、縦割り構造の影響で連携が遅れがちで、各セクターの役割も固定的であった。また、共同研究が主な目的とされ、経済活動とはなかなか結び付かなかったという。しかし最近では、「産学官民の役割がボーダーレスになりつつある」と小野田氏は分析する。

「日本のデジタル貿易赤字は約6兆円と、年々拡大しています。iPhoneをはじめとする海外製品に頼りすぎると日本向けの供給がストップした際に立ちいかなくなる恐れがあり、国内の基盤を固めることが重要です。こうした危機感から、業界団体を巻き込んで産業全体の競争力を高めることが新しい連携の形になりつつあります」

同社の未来を見据えた取り組みは、日本の国際競争力の強化にも貢献するはずだ。新しいプロダクトやサービスを通じて官公庁、企業、一般生活者がより広く、より深くつながる機会を増やし、産業の成長を後押しすることを目指している。

小野田 久視

株式会社dotD 代表取締役CEO
https://dotd-inc.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。