
2つの転機を経て、自社を成長へと導く
中村氏は、水甚において二度の転機を乗り越えてきた。一度目は入社7年目、ラスベガスでの展示会の時のことだ。目当ては、当時すでに並行輸入品として日本でも人気が出始めていた「FIRST DOWN」。いち早く目をつけた同氏はライセンス契約を提案し、その年の年末には契約締結の確約を得る事ができた。しかし年が明けると、事態は一変。突如、契約に応じないと一方的に言い渡された。当時「FIRST DOWN」は、社長と副社長による共同経営。これまで交渉の場に出てこなかった副社長が、社長の判断を覆してしまったのだ。
中村氏は再びアメリカへ飛んだ。単身本社へ乗り込み、副社長と粘り強く直談判。その甲斐あって、なんとか契約にこぎつけることができた。これを機に水甚の商品は「自社ブランド」オンリーから「ナショナルブランド」の販売へと販路を拡大、新たな販売チャネルを獲得するきっかけとなる。
経営に当たるうえで、中村氏が大切にしていることがある。それは「人を裏切らない」ということだ。中村氏はこれまで、海外での契約交渉や生産拠点の立ち上げなど、さまざまな地域で現地の人たちと渡り合ってきた。国が違えば、話す言語も違い、行き違いが出てくる。そうした中でも、常に真摯に話し合い、物事を進めてきた同氏ならではのポリシーだ。
「契約交渉の場で、相手を騙すようなことをしては、付き合いは続かなくなってしまいます。それは、自社のものづくりに対しても、デメリットでしかありません。物事は思い通りには進みませんが、国は違えど情はあるし、信頼関係を築いて、できるだけ双方にメリットがあるように心がけています」
二度目の転機となったのは、2020年の「アーノルドパーマー」との契約だ。同年5月、大手アパレルメーカーのレナウンが経営破綻。レナウンは、それまで「アーノルドパーマー」の日本でのライセンス契約を締結していた。
「アーノルドパーマー」の商標権が空くかもしれない。そう思った中村氏は、その日のうちに連絡をとり、10月までに交渉をまとめて契約締結を果たした。「アーノルドパーマーは、私が子供のころに流行り、憧れたブランドのひとつです。近年リブランドしていたので今後復活してくるだろうと思い、一目散に交渉を始めました」
中村氏の瞬発力は、日々の情報収集が培ったものだという。
「情報は常にさまざまな方面から集めています。近年はふとした瞬間に状況が変わってしまうことが多々あります。まず素早く行動し、それから考えるということを心がけています」