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中村好成
NAKAMURA YOSHINARI

中村好成

株式会社水甚 代表取締役社長

飽くなきチャレンジ精神と行動力で、
卸売業とSPAを融合したファッションメーカーへ。
岐阜県ののどかな田園地帯に、有名ブランドを全国へ輩出するアパレルメーカー、株式会社水甚がある。同社は戦後まもなく縫製工場として創業し、その後、卸会社へ転換。アメリカのスポーツウェアブランド「FIRST DOWN」をはじめ、数々の海外ファッションブランドを日本へ紹介してきた。一昨年には「アーノルド パーマー」とのライセンス契約を新たに結ぶなど、アパレル業界に欠かすことのできない存在意義を発揮し続けている。代表取締役社長の中村氏は、幾度となく苦境をチャンスに変え、ビジネスをものにしてきた凄腕経営者だ。
中村好成
2つの転機を経て、自社を成長へと導く

中村氏は、水甚において二度の転機を乗り越えてきた。一度目は入社7年目、ラスベガスでの展示会の時のことだ。目当ては、当時すでに並行輸入品として日本でも人気が出始めていた「FIRST DOWN」。いち早く目をつけた同氏はライセンス契約を提案し、その年の年末には契約締結の確約を得る事ができた。しかし年が明けると、事態は一変。突如、契約に応じないと一方的に言い渡された。当時「FIRST DOWN」は、社長と副社長による共同経営。これまで交渉の場に出てこなかった副社長が、社長の判断を覆してしまったのだ。

中村氏は再びアメリカへ飛んだ。単身本社へ乗り込み、副社長と粘り強く直談判。その甲斐あって、なんとか契約にこぎつけることができた。これを機に水甚の商品は「自社ブランド」オンリーから「ナショナルブランド」の販売へと販路を拡大、新たな販売チャネルを獲得するきっかけとなる。
経営に当たるうえで、中村氏が大切にしていることがある。それは「人を裏切らない」ということだ。中村氏はこれまで、海外での契約交渉や生産拠点の立ち上げなど、さまざまな地域で現地の人たちと渡り合ってきた。国が違えば、話す言語も違い、行き違いが出てくる。そうした中でも、常に真摯に話し合い、物事を進めてきた同氏ならではのポリシーだ。

「契約交渉の場で、相手を騙すようなことをしては、付き合いは続かなくなってしまいます。それは、自社のものづくりに対しても、デメリットでしかありません。物事は思い通りには進みませんが、国は違えど情はあるし、信頼関係を築いて、できるだけ双方にメリットがあるように心がけています」
二度目の転機となったのは、2020年の「アーノルドパーマー」との契約だ。同年5月、大手アパレルメーカーのレナウンが経営破綻。レナウンは、それまで「アーノルドパーマー」の日本でのライセンス契約を締結していた。

「アーノルドパーマー」の商標権が空くかもしれない。そう思った中村氏は、その日のうちに連絡をとり、10月までに交渉をまとめて契約締結を果たした。「アーノルドパーマーは、私が子供のころに流行り、憧れたブランドのひとつです。近年リブランドしていたので今後復活してくるだろうと思い、一目散に交渉を始めました」

中村氏の瞬発力は、日々の情報収集が培ったものだという。
「情報は常にさまざまな方面から集めています。近年はふとした瞬間に状況が変わってしまうことが多々あります。まず素早く行動し、それから考えるということを心がけています」

中村好成
苦境のなか、次世代に向けて新たな事業に挑む

水甚では昨年、コロナ禍の最中に新事業を立ち上げた。それは、自ら商品の販売を行う直営店舗の開業だ。経済状況の変化により、従来の卸売業では少ないパイを奪い合う構造になる。自社でコントロールできる直営販売なら、こうした事態を打開できる。そう見越した中村氏の新たな挑戦だ。

スタッフはわずか4名。経験者がいない中、文字通り手探り状態で始めた。「新規事業を立ち上げるには最悪の時期でありながら、同時にチャンスでもあった」と中村氏は言う。不況の影響で競合が少なかったため、好条件で出店を認めてくれたテナントもあった。そうした追い風をうまく掴み、この1年で全国に約70店舗を開業。スタッフも、総勢20名体制となるまでに成長した。

「人生死ぬまで勉強だ」。中村氏は若手社員にそう語る。
「挑戦することは当たり前です。そこから逃げたら次の道はないと思え、といつも言っています。できるできないは別として、チャレンジすることは必要不可欠だと思います。新しいことを始めることが好きなのかもしれませんね。頭で考えただけでやめてしまうようではいけません。実際にやってみないと、できるかどうかなんて分からないですから」

最初は勢いよくスタートし、出てきた結果に応じて舵を切る。勢いに任せた部分を修正しながら、いい結果に結びつくような方向にもっていく。それが、経営者として17年間にわたって邁進してきた中村氏の、事業への取り組み方だ。

社会情勢の変化が著しい昨今、アパレル業界を取り巻く環境も変化し続けている。
「水甚の経営の3本柱は、ブランド戦略、商品戦略、販売戦略。今後は、従来の基幹事業である卸売業に加えて、自社で企画製造から販売まで一気通貫するSPA業態を融合させた企業に育てていきます」

中村好成

株式会社水甚 代表取締役社長
https://www.mizujin.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。