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中堀一郎
Nakahori Ichiro

中堀一郎

株式会社創発システム研究所 代表取締役社長

道路トンネルや交通流に関する画期的な製品で、
世界のグローバルニッチトップ企業を目指す。
神戸の地で2000年に設立されて以来、シミュレーションやセンシング等の高い技術を活かした製品の研究開発を行い、日本や世界の道路トンネルの省エネ、環境対策、火災時の安全向上などに貢献する株式会社創発システム研究所。
高い技術力と創造性を武器に、グローバルニッチで世界のトップを目指す同社の取り組みについて、創業者であり代表取締役の中堀一郎氏に聞いた。
中堀一郎
画像はイメージです。
道路トンネル換気制御のプロフェッショナル

中堀氏は京都大学工学部で学び、同大学大学院を経て、1967年に三菱電機に入社。中央研究所で半導体デバイスのサイリスタによるインバーター技術の研究開発に従事した後、制御製作所に移り、上下水道の設備システムや道路トンネルの換気制御システムなどの公共事業に関わった。
その後は制御製作所公共部長や産業システム研究所所長などを歴任。定年を前にした2000年に三菱電機を退社し、58歳で創発システム研究所を立ち上げた。

研究所時代には中央自動車道恵那山トンネルの換気制御ソフトウェアを担当し、製作所では、当時、日本最長となる関越トンネルの換気検討委員を約10年務め、換気制御システムの制作も主導した。三菱電機でのそんな華々しいキャリアを捨て、中堀氏がベンチャー起業という道を選んだのは、生粋のチャレンジャー精神ゆえのことだ。

「数百名の社員をマネジメントする立場にあった56歳のときにMBAの勉強がしたくなり、会社に頼み込んでコロンビア大学のビジネススクールに通わせてもらいました。英会話もままならなかったので現地でホームステイして英語を学びながら、色々な国の若い人たちに混じって、会社経営とは何かを学びました。そうした時間が非常に刺激になり、経営やマネジメントだけでなく会社の創業にも興味が湧いたのですが、ゼロから会社を立ち上げることは企業の中にいてはできないなと。そこで、自ら会社を立ち上げることに決めたのです」

道路トンネル分野における中堀氏の貢献もあり、三菱電機がもつ道路トンネルの換気制御シミュレーションソフトウェアのライセンスを譲り受けるなど、古巣からのバックアップも得ながら一人で出発した創発システム。起業から間も無く人材の採用も開始し、高速道路会社からの依頼で予測交通量に応じた最適換気制御を可能にする「モデルベース予測換気制御ソフトウェア」の開発をスタートさせた。

「それまで道路トンネルの換気制御ソフトは大手メーカーがそれぞれに作っており、仕様がバラバラで細かなセッティングなども各社のエンジニアに依頼する必要がありました。高速道路会社としてはそれを標準化したいという狙いがあり、知見のあった我々が研究開発を請け負うことになったのです」

現在も同社の技術顧問を務めるダンディー大学のアラン・バーディ教授のアイデアをもとに、約5年を掛けて完成させた換気制御システムは今や多くの高速道路トンネルで採用され、システムの導入やカスタマイズを創発システムが担っている。さらにはトンネル内の一酸化炭素濃度を計測するCO計や風速計など、優れたハードウェア製品の日本への導入やアジャストを手掛けるなど、中堀氏はその後も順調に事業を成長させた。

中堀一郎
業界の常識を覆したインバーター換気動力盤

そして起業から10年が経つ頃には、ハードウェア製品の自社開発にも着手。その成果となったのが、現在は業界の標準モデルの一つとして全国のトンネルに導入されている「インバーター換気動力盤」だ。
「従来、トンネル内の換気を行うジェットファンはスイッチのオンとオフでしか制御できませんでした。対してインバーターを使えば、ジェットファンの回転数を0〜100パーセントまで任意に制御することができる。そうしたアイデアは以前からもっていましたが、当時は電磁波ノイズによる通信不良といった高い障壁に加え、インバーター制御の方が省エネになるという理論も業界では理解されておらず、研究開発が進んでいなかったのです」

そこで中堀氏は、インバーター制御ジェットファンによる省エネ化を証明する論文を、国際トンネル換気学会に発表。最優秀論文としてその説が高く評価されたことに加え、電磁波ノイズをカットする特殊なフィルターの開発によって、業界初のインバーター換気動力盤を実現させた。

さらにその後も、道路に埋設された電線の上をタイヤが通ることで車両を検知する従来の「ループコイル式車両検知器」に替わる、「レーザー式車両検知器」の開発に成功。耐久性や取り換え工事の大変さなど、ループコイル式のデメリットを解消しながら高い精度を実現したレーザー式車両検知器は、2023年時点で約200台が全国の高速道路に導入され、そのシェアは現在も拡大を続けている。

創業から四半世紀近くが経ち、中堀氏の三菱電機時代の同僚や、国内外の若く優秀な技術者たちが加わり、現在は約25名体制となった。そんな同社が、次の時代を見据えて力を入れるのがグローバル市場への挑戦だ。
「すでに日本のODAプロジェクトで建設されるネパールやフィリピンのトンネルに当社の換気制御システムを納入していますし、オーストラリアではマイニングが行われる鉱山で当社の製品が活用できないかと、約5年前から調査を進めています。また、技術者不足が進む日本国内においても、高速道路やトンネル内の状況監視や事故予測をAIで行うWeb監視システムの開発を進めるなど、将来のニーズを見据えた研究開発を行なっているところです」

社名の創発とは、「個性をもった人々が集まってチームを作ることで、そこに新しい現象が起きること」を意味する。
「道路トンネルの換気制御分野などにおける日本のニッチトップから、アジア太平洋地域におけるリージョナルニッチトップへ。そして近い将来には、世界市場を捉えたニッチトップ企業としての地位を確立したい」
企業としての今後を展望すると同時に、中堀氏は次代の創発システムを担うメンバーへの期待も語る。

「性別も年齢も、国籍も専門分野などのバックグラウンドも様々な人々が集い、新たな目標に向かって挑戦し続けることで、大きなものを生み出すことができる。私が引退した後も、当社がそんな“創発現象”を起こせる企業であり続けられれば、将来的にはiPhoneのような世界を変えるイノベーションを起こせる製品も開発できるのではないかと考えています」

中堀一郎

株式会社創発システム研究所 代表取締役社長
https://sohatsu.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。