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中原維浩
NAKAHARA MASAHIRO

中原維浩

医療法人社団栄昂会 細田歯科医院 総院長

セルフケア中心の根本療法で歯の健康を守り、全身の健康増進につなげるのが歯科医師の役目。
2022年6月に閣議決定した骨太の方針に盛り込まれた国民皆歯科検診。これによって国民全員が受けられる歯科検診が、3~5年以内に始まるといわれている。背景にあるのは、口腔環境が認知症や糖尿病などの全身疾患と密接な関係性にあることが分かってきたことだ。細田歯科医院の中原維浩氏は「口腔のセルフケアが重要であることを啓発できれば、さまざまな病気の予防につながります」と、この転換期を好機と捉えている。
中原維浩
予防先進国での体験をもとにコンセプトを変更。

2016年、東京・小岩にある細田歯科医院を父から継いだ中原氏はリニューアルを敢行。クリーンなイメージの空間に変え、システムをデジタル化。最も大きく変えたのは歯科医院のコンセプトだった。症状が出てから治療を行う対処療法ではなく、虫歯や歯周病になる原因を取り除く根本療法を重視。核となるのがセルフケアで、試しに待合室のスペースで歯ブラシや歯磨き剤といった多種多様なセルフケアグッズを販売した。

「学生時代にアルバイトをしていた靴屋でのディスプレイの経験を活かしたところ、月に1万円程度だった売上が100万円を突破。その後、全国の歯科医師と歯科衛生士を対象に、セルフケアグッズを処方する能力を認定するオーラルセルフケアマイスターという資格制度を始めました。そして、有資格者から患者さんへのアプローチをフォローする目的でつくったのが、オンラインサロン『医療物販学ラボ』です。全国に約140人いる会員がセルフケアの重要性を広めてくれるコミュニティーとして機能しています」

中原氏がセルフケアを重視するのには理由がある。2011年から神奈川県で勤務医として働きながら、世界14ヶ国で研修を受けてきた。そのきっかけは、歯科医師を取り巻く状況が日本と海外では違うことだった。なりたい職業における歯科医師の順位がアメリカや韓国では上位なのに、日本ではトップ100にも入っていない。どんな歯科医療が行われているのかを知ることが目的だったが、日本とは決定的に違うことがあった。

「予防先進国といわれているスウェーデンでの経験が最も衝撃的でした。歯科医療のレベルは特段高いわけではないのに、国民の健康に対する意識はとても高い。その理由は、20歳未満は無料の歯科医療が20歳以上は自費になり、治療費がとても高くなるため、予防に一生懸命にならざるを得ないからです。また日本では歯を治療しても再発することが多いのは、セルフケアに対する意識が低いことが大きな原因だったのです」

中原維浩
歯科医院が健康のハブステーションになる時代。

細田歯科医院の診療では約45分のうち、20~25分は患者との対話に費やされる。今では食生活自体が虫歯や歯周病の原因のひとつになっているといわれ、話は食生活の改善にまで及ぶ。さらに患者に持参してもらった血液検査の結果をもとにした助言なども行っている。そのため、待合室のセルフケアグッズコーナーには、栄養状態をよくするサプリメントや腸内の善玉菌を増やすプロバイオティクスに関するものまでそろう。

「セルフケアグッズコーナーを設けたのは、父の理念だった『誰も断らない』に基づき、気軽に来院できる雑貨屋のようにしたかったという理由もありました。私自身は子供の頃に毎日疲れて帰ってくる父の姿を見ていたせいか、歯科医師という職業に対してよい印象がありませんでした。ところが、予備校の講師をしていた20歳のときに父が脳梗塞で倒れ、家業を継ぐことを決意。そんな経緯があり、歯科医師を憧れの職業にするのも私の使命のひとつ。保険治療だけでは歯科医院の経営は難しく、セルフケアグッズの売上は大きな支えになっています」。
他の歯科医院では見られないこうした活動が注目を集め、横浜市の子育て支援施設となる歯科医院を運営する事業者に選出。2018年、横浜・戸塚に戸塚駅前トリコ歯科医院を新規開業した。さらに、2022年から東京立川歯科衛生学院専門学校の講師として教鞭を執り、最近ではアクサ生命の健康経営のアドバイザーに就任。同社社員に対して、歯や口腔の健康がいかに大切かを伝える活動を始めている。そして、2023年から某巨大ショッピングモールでの売り場(ショップ)展開も予定している。

「国民皆歯科検診が始まるにあたり、歯科医師ができることはセルフケアを正しく指導し、質を高めていくこと。根本療法の重要性を発信することで、皆さんに気付きを与えられる大きなチャンスだと思っています。今の歯科医師は血糖値や血圧を測るのは当たり前で、全身を診ることもできます。まずは歯科医院で診て、糖尿病の気配がある患者さんを専門医へ紹介するなど、我々が健康のハブステーションになることも考えられる。2025年を目途にした、高齢者を地域一帯で支援する地域包括ケアシステムが始まれば、医療業界にとって大きなターニングポイントになるはずです」

現状はさまざまな課題を抱えている日本の歯科医療だが、技術においては、日本はどの国よりも優れているという。中原氏が思い描いているのは、世界中の歯科医師や歯科衛生士が日本の技術を学びにやってくる将来。そんな学校のような場をつくることが最終的な目標だ。

中原維浩

医療法人社団栄昂会 細田歯科医院 総院長
https://www.hosodade118.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。