全身疾患を引き起こす「歯周病」の怖さ
「日本の歯科の受診率は世界と比較するとまだまだ低い。これは日本の保険制度の問題もありますが、基本的に歯科医療が『痛みが出て、困ったら行く』ということに起因する。しかし、歯の疾患を放置すると命にかかわる病気を引き起こすことがあるのです」
稲毛海岸を中心に3カ所の歯科クリニックを経営する医療法人社団康樹会理事長・森本哲郎氏は力強くそう語る。厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成26年調査によると「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数は331万5,000人で、前回の調査よりも65万人以上増加した。
歯周病は歯の喪失原因の第一位であることはよく知られているが、近年の研究により全身疾患を引き起こす恐れがあることがわかってきている。
「たとえば歯周病で炎症が起こると出血することがありますが、血管が破れたところから歯周病菌が入り、血流とともに全身をめぐっていく。そうすると糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など、生活習慣病といわれるような慢性疾患の直接的な原因になる。認知症などもそうです」
口腔内の菌が肺に入り込むことで起こる誤嚥性肺炎も日本人の主な死因のひとつだ。
「最新の歯学では、歯周病菌ががんを抑制する遺伝子を壊すというところまで解明されている。歯周病菌が原因で全身疾患になるという事実はかなり以前から世界では常識なのです。しかし、日本では歯周病がそれだけ怖いのだということが伝わっていない」
この事実を少しでも多くの人々に伝えたいと森本氏は2018年に『口臭列島』(幻冬舎刊)を上梓した。
「口臭の原因となるのが歯周病。一般の方向けにわかりやすいよう口臭を切り口にして、放置すると命にかかわるということを訴えたかった」
言葉だけではなく、その思いの実践にも取り組む。森本氏は口腔内環境を整えるための試行錯誤を長年続けてきた。その結果たどりついたのが、現在、同法人のすべてのクリニックで導入されているTHP(Total Health Program=北欧式予防管理型の根本的歯周病治療システム)だ。「口腔内の原因菌を除菌することで増殖を一旦リセットし、良い菌を多くしてバランスの良い環境を保ち、諸疾患の発病を防ぎます。一生涯を通じて自分の歯で生き、全身の健康を守るためのプログラムです」
THPは1年以上にわたりセミナー等で技術の研鑽を積み、高難度の認定試験に合格した専門のスタッフでないと行えない。導入のハードルが高い分、歯科激戦区における同法人の大きな武器となっている。森本氏は現在自費診療になっているこのTHPを、厚生労働省が認定する先進医療としたいと考える。
「THPが先進医療と認められれば、そこに至るまでの治療は保険の範囲内で行うことができる」
費用面の負担を少しでも減らし、より多くの人々がTHPを受けることができるようになれば、より多くの人々の歯周病を予防することができる。