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松谷之義
MATSUTANI YUKIYOSHI

松谷之義

医療法人松徳会松谷病院 理事長

健康に年を重ねる生き方を教示する、
ノルディック・ウォーキングの伝道師。
大阪府枚方市にノルディックウォーキングの伝道師と呼ばれる医師がいる。医療法人松徳会松谷病院理事長の松谷之義氏だ。彼は京都大学卒後、胸部外科教室に入局していたが、早くから独立意欲が高まり 39歳で開業。その後、あるきっかけで出会ったのがノルディックウォーキングだった。彼が取り組むのは、健康寿命の延伸に貢献できる医療。それは今、医療を超えた境地にまで達している。
松谷之義
※画像はイメージです。
日本人の健康寿命の延伸に貢献するために

開業後、誰の指示も受けることのない自由な日々を享受した松谷氏だったが、高齢化社会における小規模病院経営に限界を感じ、80床の介護老人保健施設を設立した。それと同時に施設見学を兼ねフィンランドに出向いたのだが、それが ノルディックウォーキングとの最初の出会いとなった。

当時は、介護保険制度が施行されてから5年目。本来、自立支援が主目的であった介護保険サービスが過剰になり、自立が損なわれるサービスが増え続けたことで介護給付の高騰が問題となっていた時期でもあった。

「ノルディックウォーキングの歩容を見ていると両手にポールを持ち、それを突きゆっくりと姿勢正しく歩いている。これはまさに自立支援そのものではないか」と考えた松谷氏は、すぐに日本に帰り普及させるべきだと決心した。

「帰国後、ただちに病院のスタッフとノルディックウォーキングの歩容をさらに検討し、歩き方をディフェンシブ、アグレッシブ、スタンダードという三つに日本で初めて分類しました」

ディフェンシブウォーキングはポールを突く位置を前の方にし、できる限り足腰にかかる負担を軽減させる歩き方。アグレッシブウォーキングはポールを突く位置を後ろにし、これを押すようにして体を前方へ押し出すパワフルな歩き方だ。しかしこの方法だと体重が前足(出した足)にかかりすぎてしまい、膝を痛めるケースが見られる。そのため介護予防を兼ねて実践する場合は、前述したディフェンシブウォーキングを勧めて成果を出していった。

このような研究を続けながら、2012年には鳥取で日本ノルディックウォーク学会を立ち上げ会長となった。以後、大阪、東京、札幌、大阪、岡山、奈良、山梨と発表会場を変え、回を重ねる毎に「ノルディックウォーキング手法が健康寿命の延伸にも貢献できる最高の方法と確信するようになっていった」という。

「もちろん健康寿命の延伸はそんなに容易いものではなく、まず健康寿命を失った原因を調べ、それに対する予防や治療から対策を立てていかないといけないものであることは言うまでもありません。例えば認知症、転倒骨折、脳血管障害、心疾患、関節疾患などがその最たるものです」と松谷氏は強調する。

松谷之義
コロナ患者に精神的ケアが必要と訴える

そんななか、世界はコロナのパンデミックへ突入した。現代人にとって未曽有の疾患であり、新型コロナ患者の急速な増加への対応に窮した政府は、本疾患が比較的軽症者が多いことから、軽症者は自宅あるいは宿泊施設での療養を推進した。

2020年4月には緊急事態宣言が発令され、大阪府から松谷氏の元にも協力依頼が届く。「新型コロナウィルスに感染したホテル療養患者に対して、医療上の対応が必要となる場合は医師として協力してほしい」とのことだった。

「それは命令でも要請でもなかったので、当初は放置していました。しかし未知の疾病患者を診たいという医師としての思いが強くなり、応じることにしました」

4日間出動したのは、アパホテル大阪肥後橋駅前。白衣1枚で出動すればいいとのことで気楽に出かけた松谷氏だったが、「ハンドタオルやバスタオルは持参して頂きたい」という指摘を受け一抹の不安を感じる。その理由は出動してみて分かった。

「ホテル側のスタッフが30階建ての大きな建物のわりに2名しかおらず、府職員も3名、看護師4名、医師は私一人であり、ゾーニングも崩れやすい状況でした。常に保身の心構えが必要であったんです」

ホテル滞在中、松谷氏は貴重な体験をし、新型コロナウイルスの治療に対する提言を考えた。

「ホテル内での取り決めは、滞在者の状態が悪くなれば医師、看護師はできる限り濃厚接触者にならないように注意を払いながら診察し、ホテル対応不能と判断されれば後送病院へ転送、治療を受けさせることができることが可能になります。
私が体験した一例は軽い鬱病の患者で、昼食後、突然激しい嘔吐に襲われ対症療法で症状は治まりましたが、呼吸状態が漸次悪化していました。本来、呼吸状態を知るために酸素飽和度を計測し、97%を正常値としていますが、2日前の入所時は正常値であった患者が診察しても呼吸音は正常にも関わらず、夕刻には酸素飽和度95%に落ちていたんです。その旨、患者を病院に移そうと説明しましたが、苦しくないと転院を拒まれました。そこで、この状態が続けば大変なことになると朝まで説得し、最終的に転院させたんです。
この患者は病悩期間が1カ月を超えておりメンタルには不安で相当参っていました。このような方には精神科医、臨床心理士等の力が必要な時期があるのではないでしょうか」と松谷氏は警鐘を鳴らす。

コロナの感染が全国的に拡大するなかで行われた今回のインタビューを松谷氏はこう締めくった。

松谷之義

医療法人松徳会松谷病院 理事長
https://www.matsutani.or.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。