ブランディングを重視した空間デザイン
松本氏は、兵庫県姫路市で父が創業したマツヤアートワークスで店舗設計のキャリアをスタートさせた後、自らの建築デザインの思想を実現すべく2000年にKTXアーキラボを設立した。
「私のような駆け出しのデザイナーが出す奇抜なアイデアも受け入れ、早い時期からクライアントが設計を任せてくれたのは、父が築いてくれた基盤や信頼があったからこそだと思います。また、地元である姫路を活動の中心にするからこそ、東京などのクライアントに対しても、自分たちのデザイン力を確かなエビデンスとして示さなければならないと考えていました。そこで思い切って応募した海外のアワードで受賞することができ、以降は積極的に世界のデザイン賞に参加するようになったのです」
そうして建築デザイナーとしての評価を高め、現在は世界の名だたるアワードの審査員も歴任。水盤に浮かぶ雲のようなチャペルなど、他に類を見ない建築や空間創出で、クライアントが望む以上のブランディングを実現するのが、松本氏が率いるKTXアーキラボの十八番だ。
松本氏が大切にするのは、クライアントのビジネスツールをつくらせてもらっているという意識をもち、ヒアリングなどを通じて、その建築や空間でクライアントが何を達成したいのか深く理解すること。
「我々が提案するのは、クライアントの目的を叶えるための空間デザイン。例えば、日々大量の広告情報を受け取っている現代人の場合、『うちの料理は美味しいですよ』などと言葉で訴えかけるような広告では、なかなか心が動かされません。一方、空間デザインであれば、店舗などの外観や店内の雰囲気を通じて、見る人の潜在意識に訴えかけるブランディングが可能になるのです」
KTXアーキラボを立ち上げた当初から、店舗やオフィスなどをメインに手掛けてきたが、2008年リーマン・ショックの影響で店舗デザインの受注が減ったことをきっかけに、医療施設のデザインに領域を拡大。経験のない分野で着実に実績を積み上げながら、歯科や眼科医院、クリニックから総合病院のデザインまでを手掛け、現在はプロジェクトの大半を医療関係施設が占めるまでになっている。
患者と客を同列に置けば、医療施設も飲食店などの商業施設と同じように、まずはいかに集客するかが重要になる。特に新規開業のクリニックなどでは、開院してから一定の患者を集めるまでの期間をいかに短縮するかは大きな課題だ。
「その点、建築設計や空間デザインを使ったブランディングはまさに我々の得意とするところ。そうした強みは医療施設でも十分に発揮できるうえ、未開拓な領域だからこその面白さ手応えも感じています」