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松本正道
MATSUMOTO MASAMICHI

松本正道

医療法人社団医啓会 理事長

医療と介護の一体化
そのカギは有床診療所にあり。
関西の温泉地として有名な有馬。その有馬で30年以上にわたり地域の人々の健康を守る医師がいる。医療法人社団医啓会の理事長、松本正道氏だ。友人たちと何の気なしに始めた診療所が、いつの間にか地域に欠かせないものとなり有馬で5つの医療施設を運営することとなった。高齢化が進む中、松本医師率いる医啓会の目標は医療と介護の一体化にある。その理念とこれからの夢を聞いた。
松本正道
※画像はイメージです。
アルバイトのつもりで始めた診療所

「開業の動機は不純でした」と笑う松本正道医師。神戸大学医学部からそのまま大学に残り、研究者としての道を歩んでいたが、大学の給与だけでは学会や書籍などかさむ研究費に足りない。経費を診察のアルバイトで賄うことにしたが単発では効率が悪い。そこで松本医師は、仲間と診療所を開くことに。

「アルバイトに行くなら診療所やるか、という程度の本当に軽い気持ちでした」

しかし、である。当時は地域に医療機関が少なかったため、多くの患者が診療所に来るように。開業するつもりはまったくなかったという松本医師だが、結局大学を辞め、有馬の診療所に専念することとなった。

「大学には私の代わりはいますが、診療所は私ひとり。いなくなったら困るのは患者さんですから、診療所に専念することにしました。教授には約束が違うと怒られましたが(笑)」

以来、松本クリニックをはじめ有床診療所、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、訪問看護ステーションなど有馬地域で医療資源を増やしてきたが、そのどれもが地域の声にその都度応えてきた結果だという。

「有床診療所を始めた頃です。肺炎の方が病気は治ったのですが、入院生活で足腰が弱って帰れなくなってしまった。治っても自立した生活を失ったら、本当に治したと言えるのかと疑問に思いまして、診療所の隣にサービス付き高齢者向け住宅を建てました。有馬で開業して34年、最後まで関わるには、医療から介護まで一貫してやりたいと思っています」

医療から介護までの一体化は松本医師のライフワークとなっているが、その中心にあるのが有床診療所である。病床数19床以下と定められた有床診療所は、地域医療の担い手とされてきたが、国の方針変更により医療費を大幅に減額、多くの診療所が存亡の危機に立たされている。

「確かにホスピスや療養病棟にしたほうが経費はおさえられますが、高齢化社会の中では看取りもあり、急性期病床もあり、検査もありといった小回りの利く地域の有床診療所こそが求められています。細分化してしまった現代医療では局部だけを見て、森全体を見ない。医師は病気ばかりをクローズアップするのではなく、それ以外の要因も考慮すべき。例えば患者さんの精神的なケアなども大切な医療行為のひとつなんです」

松本正道
医業とは終わることのない人生勉強の場

アルバイトのつもりで始めた診療所ではあったが、今ではすっかり地域に頼られる医療施設となっている医啓会。松本医師が今思うのは恩返しだという。

「有床診療所のほうには内視鏡やCT、がん温熱治療機など最新の設備を入れています。手前みそですが有床診療所としてはできる限りの設備だと思います。新しい機器は患者さんへの還元になりますし、若い先生方のモチベーションアップにもなります。医者が儲かったというのは昔の話。利益を追うより還元していく方が充実した人生だと思います。医者である以上、治って喜ぶ、治らなかったら一緒に悲しむ、それが当たり前の原点です」

医者とは人生勉強を絶えずやっているようなものだと語る松本医師。そんな学びの現場のひとつが訪問医療である。

「在宅医療が好きで、よく1人で伺うんです。訪問医療を頼むくらいですから足腰が弱って歩けなくなったり、認知症だったりとお年を召した方ばかり。ですが、そういう方々の昔話を聞いていると、その活躍がありありと浮かび、本を読んでいるような気分になっておもしろいんです。話を聞いて私自身まだまだ足りないと反省したり、先のことを考えさせられたりします。体を悪くするとご自分の人生を否定しがちですが、そんなことはありません。社会に貢献された立派な方々ばかり、往診は私にとっていい学びです」

医師としての仕上げの時期に入ったと語る松本医師。医啓会としてこれからの目標を聞いた。
「寝たきり、認知症、そして病気にならないための予防医学に力を入れていきたいです。具体的には人間ドックの導入など確実に検査ができる仕組みを作って、早期発見、早期治療につなげていきたいです。また訪問診療、入院、デイケアなども含め、医療と介護が一体化したサービスを提供できればと思っています。当院の先生方、スタッフのみなさんとオーケストラを奏でるように一体となって前進していきたいと思っています」

最後に松本医師が開業以来続けている習慣を伝えて終わりたい。
「寝るときは携帯電話を抱いています。病気は時間を選びませんから、いつ電話が鳴ってもいいようにと始めた習慣です。はじめのうちはしんどかったですけど、もう慣れてしまって、ひと晩鳴らないと寂しくなるぐらいですわ(笑)」

松本正道

医療法人社団医啓会 理事長
https://www.ikeikai.or.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。