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益満ひろみ
MASUMITSU HIROMI

益満ひろみ

株式会社サンホープ 代表取締役

農業における水と環境をコーディネートし、
かん水を広めて農業の未来を明るく照らす。
農作物に水を与える行為を指す「かん水」。株式会社サンホープは何十年も前から農業と水のことを考え、スプリンクラーをはじめとしたかん水機器・資材などを輸入販売してきた。代表取締役の益満ひろみ氏が最も力を入れているのは環境に応じて節水、省力化、高効率化を実現するかん水。さらに農業にIoTを組み合わせた先進的な取り組みも始めている。
益満ひろみ
画像はイメージです。
農業用かん水機器・資材のパイオニア。

農業先進国といえばオランダが頭に浮かぶが、ハイテクによってアグリテック先進国として世界をリードしているのがイスラエルだ。国土の多くを乾燥地帯が占め、周辺諸国と緊張関係が続いているため食糧確保が命題となり、水に関する技術が進化し農業が発展。水や肥料を点滴のように滴下して節水・減肥の栽培が可能なドリップ(点滴灌漑)と呼ばれるかん水技術は同国で生まれた。そんなイスラエルに早くから着目し、1968年に日本に初めてイスラエル製のスプリンクラーを紹介したのが、サンホープの創業者である益満和幸氏だった。

「もともと父は海外の商品を輸入する会社に勤めていて、1955年に日本に初めてアメリカのスプリンクラーを紹介。ここに商機を見出したようで、実業家肌だった父は1977年にサンホープを設立し、かん水機器・資材を輸入販売するようになりました。1979年に大きな被害を出したお茶の葉の凍霜害に対して、散水氷結法という手法を日本で初めて実践。これはスプリンクラーで水を撒き、水が氷になるときに放出する熱を利用して、葉の中まで凍らないようにするというものです。この取り組みが1981年に成功を収め、会社は大きく発展したと聞いています」

そう話すひろみ氏は1978年に音響機器メーカーのパイオニアに入社したものの、女性がより活躍できる環境を目指して1984年に単身渡米。三菱銀行のヒューストン支店を経て、三菱商事が三菱重工のフォークリフトを販売するためにアメリカに設立した商社、Machinery Distribution Inc.で営業職として活躍した。その後、三菱商事がフォークリフトの販売から撤退したことを機に、自身の会社Sun Hope,U.S.A.Inc.を設立。

「商品を口コミで宣伝するようなマーケティング会社を経営していました。その頃、父から会社を継がないかと誘われたのですが、ビジネスが軌道に乗りアメリカでの生活が気に入っていた私はかたくなに固辞。当時、母からの話によると、父はかなり激怒したそうです。その後、父は世界中で行われる農業関係の展示会に私を通訳として連れて行くようになり、それもどうやら私に事業を継がせるための戦略だったようです(笑)」

2003年、和幸氏の死去に伴いアメリカ在住継続という条件付きで同社の代表取締役に就任。アメリカからテレビ会議に参加したり、アメリカと日本を行き来したりしてきたが、コロナ禍によって日本で経営の指揮を執る。現在もスプリンクラーやドリップチューブといったかん水機器・資材および付帯機器の取り扱いが事業内容の中心で、イスラエルをはじめ世界で高いシェアを誇る多数のトップメーカーの輸入代理店を務めている。

「世界中から優れた技術でつくられたものを扱っているのがうちの強みです。例えばそれぞれ別のメーカーで製造された液体肥料混入器とかん水を自動化するタイマー、フィルターを組み合わせて独自の商品として販売。2018年にはクラウド型のコントローラーを発売しました。これは専用アプリを使い、インターネット上でかん水プログラムの遠隔操作や監視ができるというもの。雨センサーや流量センサーにも接続でき、異常が発生した場合はメールで通知してくれるなど、きめ細かいかん水制御ができます」

益満ひろみ
衛星でかん水量を計算する最新システム。

かん水のプロ集団として積極的に新しい技術を紹介する一方で、日本の農業に対して危惧を感じているところも多い。そのひとつが農作物の品質は高いものの、栽培方法が非効率的で世界の農業から遅れをとっていることだという。例えば、露地栽培にかん水システムを取り入れると収穫量がアップするなどの効果は実証されているが、日本では四季を通じて十分な雨量があるためなかなか普及しない。かん水を行っていても、各農家の勘のようなものに頼っていることが多いため知識の承継や作業の効率化が進まず、後継者不足という問題についても解決されない。

「日本の農家はこれまでの栽培方法を変えることに抵抗があり、省力化や自動化に頼ることを好まないように感じています。日本が誇る匠の技術の承継はよい面もありますが、農業を継ぐ人が減っているということは魅力がないということ。農業もビジネスであるという考えに切り替え、生産性を上げることで収入をアップさせ、誰もが就業できるような仕事に改革しなければいけないと思っています」

そんな問題に対して同社が提案するのが、三井物産との協業で一部実証をした経緯から、2022年春に発売を予定している「スマート・サテライト・システム」だ。イスラエルのマンナ社が開発したサテライト(衛星)を使ったかん水のソフトウェアを核としたシステムで、サテライトが圃場を映し農作物の作物係数と土壌の状態を分析。この情報に加え、気象情報とマンナ社が蓄積してきた栽培のデータベースという3つの情報からアルゴリズムによって最適なかん水量を計算し、14日先までの予測をはじき出す。これに別のメーカーのかん水コントローラーとかん水機器・資材を組み合わせた。
「三井物産との協業で北海道十勝で行った玉ねぎの実証実験では、省力化や自動化だけでなく、ドリップのおかげで収穫量もアップし、従来よりも大きな玉ねぎが育ちました」

また2019年からは、稲作を行う水田から発生している温室効果ガスのメタンを抑制するために、畑で稲作を行う乾田ドリップファーティゲーションの実証実験を開始し、環境問題を意識した取り組みも行っている。そして、ゆくゆくはドリップファーティゲーションによる農業を開発途上国へ広めることも視野に入れているという。

「これまでは商社として商品を輸入販売することが中心でしたが、それによって世界最先端のかん水に関するノウハウを蓄積することができました。これからはこれまでの経験を生かして、かん水に関する情報やサービスをどんどん広めていきたいと思います。例えば、栽培条件が過酷な開発途上国でも節水型で農薬の使用も抑えられるドリップファーティゲーションによって農作物を栽培できることが実証できると、日本の農業にもよい影響を与えてくれる逆輸入のような効果もあるかもしれません」

最終的に願っているのは、効率化した農業がビジネスとして普及することで農家が増え、日本の農業がもっと豊かになることだ。SDGsの達成が叫ばれ、さまざまな問題が立ちはだかる中で、常に最新のかん水技術に接してきた同社には大きな期待が寄せられている。

益満ひろみ

株式会社サンホープ 代表取締役
https://www.sunhope.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。